第七章 ──砦攻防戦
朝焼けが砦の石壁を赤く染める。
その静けさは、嵐の前の静寂だった。
アークは砦の上に立ち、光魔力線を手にしていた。
地中へと伸びる細い光の糸は、魔法鳥たちへと繋がっている。
「準備はできてる?」
背後からリュミエラが声をかける。
アークは頷いた。
「魔法鳥は全機、地中リンクで待機中。あとは敵が来るだけだ」
その時、地響きが砦を震わせた。
──ドォォォォン……
帝国軍が動き出した。
山道の向こうから、黒い波のように兵士たちが押し寄せる。
重装歩兵、魔導砲兵、そして──
「巨獣三体……!」
見張り台の兵士が叫ぶ。
龍ではないが、どれも城壁を破壊できるほどの巨体。
その背後には、黒いローブの召喚師たちが並んでいた。
ガルド将軍が怒号を飛ばす。
「魔法鳥部隊、前へ! 地中リンクを確認しろ!」
「了解!」
若者たちが一斉に魔力を流し込む。
光魔力線が脈動し、地中を走る。
次の瞬間──
炎鷹、風鷹、土鷹が地面から跳ねるように飛び出した。
「飛んだ……! 結界の中でも……!」
ミナが歓喜の声を上げる。
アークは叫んだ。
「全機、上昇! 敵の魔導砲を優先して潰せ!」
炎鷹が一斉に急上昇し、帝国軍の魔導砲へ向かう。
帝国軍の魔導砲兵が叫ぶ。
「な、なんだあれは!? 魔力妨害結界が効いてない……!」
「撃て! 撃ち落とせ!!」
魔導砲が火を噴く。
だが、炎鷹は小さく、速い。
砲弾をすり抜け、魔導砲の魔力核へ突っ込む。
──炎上。
魔導砲が一基、二基と沈黙していく。
「よし……! これで砦が持つ!」
ガルド将軍が叫ぶ。
だが、帝国軍の本命は魔導砲ではなかった。
巨獣三体が咆哮し、砦へ突進する。
「カイ! 巨獣の足を狙え!」
「了解!」
カイの炎鷹が巨獣の脚へ突っ込み、炎上。
巨獣がよろめく。
ミナの風鷹が上空から弱点を探り、仲間へ伝える。
「右の巨獣、背中の魔力核が露出してる!」
「任せろ!」
仲間の土鷹が地面すれすれを滑り、巨獣の背へ飛び乗る。
自爆魔法が炸裂し、巨獣が倒れ込んだ。
「一体撃破!」
砦に歓声が響く。
だが、その瞬間──
アークの背筋に冷たいものが走った。
──ザァァァァ……
魔力の波。
「……来るぞ……!」
アークが叫んだ瞬間、山の影から黒い影が飛び出した。
「あれは……変異獣!」
カイが叫ぶ。
全身をドロドロした黒いモノに包まれた異形。
一目で異質な存在だとわかる。
変異獣は魔法鳥に狙いを定めると、跳び上がった。
瞬時に炎鷹が一羽、噛み砕かれる。
「くそっ……!」
アークは即座に判断する。
「全機、変異獣を避けろ! あれは鳥を喰う!」
だが、変異獣は空中で形を変え、翼を生やした。
「飛んだ……!? あんなの聞いてない!」
ミナが震える声で叫ぶ。
アークは歯を食いしばった。
◆
変異獣が空中で魔法鳥を追い回す。
炎鷹が次々と落とされていく。
「アークさん! このままじゃ……!」
「分かってる……!」
アークは光魔力線を握りしめた。
だが──
光魔力線は地中を通すことで妨害を避けている。
そのため、反応速度が空中リンクより遅い。
変異獣の速度に、魔法鳥が追いつけない。
「くそ! このままじゃ……」
アークの額に汗が滲む。
その時、カイが叫んだ。
「アークさん! 俺が囮になります!」
「何を言ってる! お前じゃ──」
「俺なら……できる! 炎鷹を自分の魔力で直接操ります!」
アークは息を呑んだ。
「それは危険すぎる! 魔力が逆流したら死ぬぞ!」
「でも……誰かがやらなきゃ! ミナやみんなを守るために!」
ミナが叫ぶ。
「カイ、ダメ! そんなの……!」
「ミナ……俺、強くなりたいんだ」
カイの瞳は、恐怖よりも強い光を宿していた。
◆
カイは光魔力線を外し、炎鷹へ直接魔力を流し込む。
「う……っ……!」
魔力が逆流し、体が震える。
だが、炎鷹はカイの意思に応え、空へ舞い上がった。
「こっちだ……化け物!」
変異獣がカイの炎鷹を追う。
その隙に、他の魔法鳥が他の巨獣を攻撃する。
「カイ、戻って!」
ミナの叫びが響く。
だが、カイは囮をやめようとはしなかった。
そして、とうとう変異獣に追いつかれてしまう。
「……っ……!」
変異獣は大きく口を開け、カイの炎鷹を飲み込んだ。
炎鷹は噛み砕かれ、カイの体に激痛が走る。
「カイ!!」
ミナが駆け寄る。
カイは膝をつきながらも、笑った。
「……大丈夫……まだ……やれる……」
アークは叫んだ。
「全機、変異獣の背後へ回れ! カイが作った隙を逃すな!」
魔法鳥たちが一斉に動き、変異獣の背中の魔力核へ突っ込む。
──爆発。
変異獣が咆哮し、地面へ崩れ落ちた。
砦に、静寂が訪れた。
そして──
歓声が上がった。
「勝った……!」
「砦を守ったぞ……!」
だが、アークは空を見上げた。
雲の向こうから、微かな魔力の波が届く。
──ザァァァァ……
「ザイラスはまだ本気じゃない」
アークの瞳には、戦いの終わりではなく──
次の戦いの影が映っていた。




