第五章 ──沈黙の空
アークは魔法鳥部隊の訓練場に立ち、炎鷹の魔力核を調整していた。
だが、その手が止まる。
──ザァァァァ……
まただ。
帝国から流れてくる魔力の波。
今朝は、明らかに質が違う。
「嫌な予感しかしない」
アークは空を見上げた。
雲は低く垂れ込み、風は冷たい。
まるで空そのものが警告を発しているようだった。
◆
昼前。
砦の見張り台から叫び声が上がった。
「敵影確認! 帝国軍、北の山道より接近!」
兵士たちが慌ただしく動き出す。
リュミエラが駆けつけ、アークに問う。
「アーク、魔法鳥は飛ばせる?」
「もちろんだ。偵察鳥を先に出す」
アークは風鷹を三羽、空へ放った。
風鷹は軽やかに舞い上がり、山道へ向かって飛んでいく。
だが──
十秒後。
「……あれ?」
ミナが首をかしげた。
「風鷹の視界が……途切れた?」
アークの表情が固まる。
「そんなはずは……」
次の瞬間。
──バチッ!
砦の上空に、黒い稲妻のような魔力が走った。
「な、何だ……!?」
兵士たちがざわめく。
アークは即座に叫んだ。
「全員、頭を下げろ!!」
黒い魔力が空を覆い、風鷹たちが次々と墜落した。
◆
空が、沈黙した。
炎鷹も、風鷹も、土鷹も。
すべての魔法鳥が、空中で力を失い、地面へ落ちていく。
「な、なんで……!? 魔力が……消えていく……!」
ミナが震える声で叫ぶ。
アークは歯を食いしばった。
「帝国の魔力妨害結界だ」
「魔力、妨害……?」
「魔法鳥の魔力リンクを断ち切る結界。鳥は魔力で動く。リンクを切られれば、ただの光の塊だ」
リュミエラが青ざめる。
「そんな……魔法鳥部隊が使えない……?」
「今のままでは、空に何も飛ばせない」
アークの声は静かだったが、その静けさが逆に恐ろしかった。
◆
山道の向こうから、重い地響きが響いてきた。
──ドォォォォン……
帝国軍の重装歩兵。
そして、その後ろには──
「巨獣が召喚された……!」
リュミエラが息を呑む。
龍ではない。
だが、巨大な魔獣が三体。
その背後には、黒いローブの召喚師たち。
アークはその中に、ひときわ異質な魔力を感じた。
ザイラス。
彼が動いたのだ。
ガルド将軍が怒号を飛ばす。
「弓兵、構え! 魔術師団、前へ!」
だが、アークは叫んだ。
「待て! 魔術師団は前に出るな! 結界の中では魔力が乱れる!」
ガルドが驚く。
「なに……!?」
「魔法鳥だけじゃない。魔術師の魔力も乱される。暴発する危険がある!」
その言葉に、魔術師たちがざわつく。
「じゃあ、どう戦うんだ?」
アークは拳を握りしめた。
「今のフェルシアには……空がない」
その言葉は、兵士たちの心を凍らせた。
◆
帝国軍が砦の目前に迫る。
巨獣が咆哮し、兵士たちが震える。
魔法鳥部隊は、空に何も飛ばせない。
偵察も、攻撃も、支援もできない。
だが──
アークの瞳には、まだ光があった。
「空を奪われたなら、別の方法で戦うまでだ」
その言葉は、絶望の中に灯る小さな炎だった。
そしてこの瞬間──
フェルシア王国は第二の軍事革命へと踏み出す。




