第三章 ──魔法鳥部隊、誕生
フェルシア王国北境の砦には、久しく聞こえなかった歓声が満ちていた。
龍を退けたという事実は、兵士たちの心に火を灯した。
だが、その中心に立つアークは、浮かれた様子を一切見せなかった。
「勝ったわけじゃない。ただ、時間を稼いだだけだ」
彼の言葉に、王女リュミエラは静かに頷いた。
「分かっているわ。だからこそ、次の準備を急がなければならない」
その視線の先には、砦の広場に集められた数十名の若者たちがいた。
年齢は十代半ばから二十代前半。
魔力感応者と呼ばれる、魔力の流れを感じ取る才能を持つ者たちだ。
彼らは、これから──
“魔法鳥部隊”の第一期生となる。
◆
「全員、静粛に!」
老将軍ガルドの怒号が響く。
若者たちは慌てて姿勢を正した。
「これより、魔法鳥部隊の訓練を開始する! 指導を行うのは──」
ガルドは横に立つアークを見た。
「この男だ。名はアーク。龍を退けた鳥の魔術師だ」
若者たちの視線が一斉にアークへ向けられる。
尊敬、好奇心、そして不安が入り混じった目。
アークは一歩前に出た。
「……まず言っておく。これは危険な訓練だ。魔法鳥は便利な道具じゃない。使い方を誤れば、操縦者の魔力を逆流させて命を奪う」
若者たちがざわつく。
「怖いか?」
沈黙。
その中で、一人の少年が手を挙げた。
「……怖いです。でも……やります」
少年カイ。
龍撃退の際、砦でアークを見ていた少年だ。
「俺、家族を帝国に殺されました。だから、戦いたい。鳥を飛ばせるなら……俺にもできるなら!」
アークは少年を見つめ、静かに頷いた。
「いい目だ。なら、教えてやる」
訓練場に、炎鷹の試作機が十数羽並べられた。
魔力核が淡く光り、羽ばたく準備をしている。
「まずは魔力リンクだ」
アークは手をかざし、魔力を鳥へ流し込む。
鳥の瞳が光り、アークの視界にもう一つの視界が重なる。
「これが……鳥の視界……?」
リュミエラが驚きの声を漏らす。
「慣れれば、二つの視界を同時に扱えるようになる。だが最初は──」
アークは若者たちを見渡した。
「吐くぞ」
「えっ?」
次の瞬間、若者たちは次々と地面に膝をついた。
「うっ……!」
「気持ち悪……!」
鳥の視界と自分の視界が重なることで、脳が混乱するのだ。
アークは淡々と言った。
「慣れろ。戦場では、気持ち悪いなんて言ってる暇はない」
その厳しさに、若者たちは歯を食いしばる。
◆
数時間後。
ほとんどの若者が倒れ込む中、少年カイだけが炎鷹を自在に操っていた。
「す、すげぇ……! 鳥が俺の思った通りに……!」
炎鷹は空中で急旋回し、地面すれすれを滑空し、最後にはアークの肩にふわりと着地した。
アークは目を細める。
「……天才だな、お前」
「えっ!? お、俺が……?」
「魔力の流れを感じるだけじゃない。鳥の動きを予測してる。これは戦場で生き残る才能だ」
カイは顔を赤くしながらも、誇らしげに胸を張った。
その様子を見ていたリュミエラは、そっと呟く。
「アーク。あなたの力は、国を変えるわ」
アークは答えず、遠く北の空を見つめた。
その空の向こうから──
不穏な魔力の波が、微かに伝わってきた。
◆
その夜。
砦の見張り台に立つアークの耳に、風が囁くような音が届いた。
──ザァァァァ……
魔力の波。
だが、フェルシアのものではない。
「……帝国の召喚術……?」
アークは眉をひそめた。
その波は“探るように”大地を這っている。
まるで──
何かを探しているように。
アークは胸の奥がざわつくのを感じた。
「俺を、探している……?」
その直感は、間違っていなかった。
帝国の召喚師ザイラスは、すでに動き始めていた。




