第3話~魔王城~
やがて馬車は速度を落とし、停止した。
「着いたぞ」
クルデーリスの一言で外に出ると、俺は思わず息を呑んだ。
巨大な黒い城。
夜の闇に溶け込むような外壁は、威圧感があるのにどこか神秘的だった。
ここが――魔王城。
怖いはずなのに、不思議と嫌な感じはしない。
むしろ、どこか安心する。
「行くぞ」
短く言われ、俺は慌てて後を追った。
城の中は静かだった。
すれ違う人たちは皆、俺の胸元を一瞬見る。
魔性紋だ。
でも、村の人たちみたいな嫌悪の視線じゃない。
ただの確認。
それだけだった。
胸の奥が少し軽くなる。
やがて大きな扉の前に到着した。
クルデーリスが扉を開く。
そこは広い玉座の間だった。
そして――
玉座に座っていたのは、いかにも強者という雰囲気を纏った男だった。
圧がある。
でも威圧というより、存在感。
「クルデーリス。任務ご苦労だった」
低く響く声。
「はっ」
「下がってよい」
クルデーリスは一礼し、部屋の端へ下がった。
そして男の視線が俺に向く。
「小僧」
「は、はい!」
思わず背筋が伸びる。
「ワシは魔王オブスキュリタスだ」
魔王。
でもその声には、どこか人間味があった。
「お主の名は?」
「ブライア……です」
魔王は少しだけ考えるような表情をしたあと、口を開いた。
「これからお主は新しい人生を歩む」
「……」
「過去を捨てよ。名もな」
え?
急すぎる。
でも――
確かに、もう戻る場所はない。
「……少し考えてもいいですか」
「よかろう」
俺は少しだけ考えた。
前世の名前。
彰人。
それを残したい気持ちがあった。
でもそのままは嫌だ。
異世界らしくしたい。
――アギト。
自然と浮かんだ。
「アギトでお願いします」
魔王は小さく頷いた。
「よい名だ」
そして少しだけ笑った。
「よろしくな、アギト」
その瞬間、胸の奥で何かが変わった気がした。
ここから始まるんだ。
俺の人生が。




