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頭痛のせいなのか、上層の賑やかで不思議な機械で溢れる様子が気味悪く映った。ゴトン、ゴトンという振動が胃に響き、揺さぶられる。気持ち悪さに膝をついた。
「ヘリオス、大丈夫か」
「大丈夫、シルベスタイン。ここの王様は、信用できる人なのか?」
「正直、殴り飛ばしたいね。親父のことを散々貶しといて同じことを繰り返しているようだからな」
「知っていたのか?」
「俺に下の存在を教えたのは王様だ。改革するといき込んでいたんだがな」
「英雄殿、これからどうするんだ?」
「最初に金貨がどうなったか、ですよね~。盗まれたのか、どうなのか?」
「はぁ、無事よぅ。私が金庫破りだもの」
「おや? そうだったのですね!! では報告書に特徴をばっちり記さなくては」
補佐官が慌てて、バックから本を取り出し、ドゥルに押し付けていた。そして、凄まじいスピードでペンを走らせる。ファビアンは、役者のようにポーズを決めながら歩いている。
――目立ちがりだな....
ふと、酒場でシッタに話しかけたのは目立つためなんじゃないかという気がしてきた。
「本当、悔しいわ~。いままで無敗だったのよ」
「なにをしたいんだ、貴様は」
「今は、黙秘。じゃあね~」
想いにふけっていて反応が遅れた。屋根に飛び上がり、王城の方へと走り去っていくファビアン。シルベスタインが額に青筋を浮かべ、ドゥルは両手を合わせ楽し気だ。俺はウサギみたいだと感心した。
「クッソ。体力温存の為に力を隠していたな」
「利用されたわけですね~、折角なら先回りしません?」
「先回り?」
「正直、補佐官と王様には会いたくありませんし」
――その意見には俺も賛成だ....
城の裏側に潜入し、初代王が掘り進めたという地上への階段をのぼっている。らせん状に掘り進められた階段は大の大人が中腰でないと進めないほど低く、狭い。
「くそ、階段だけでもつらいのに。本当に奴は、ここへ来るのか?」
「名目は、金庫破りの調査ですからね~。それなりに調べてきていますよ。彼、ではなく彼女だったわけですか、盗んだ場所にとって象徴的な場所でばら撒くそうです。シンボルの時計塔だったり、逸話のある川だったりね」
ファビアンの目的はまったく見当もつかない。
「初代王の出会ったものってなんですかねぇ? 街を地下に突き落とした存在って本当にいるんでしょうか~」
「ドゥル様、お戯れは....」
実は、建国の話を聞いてから俺も気になっていた。冒険者になったようでワクワクする。ふと、前を歩く小さな存在が気になった。唯一、ドワーフの階段を自然に歩く女の子。ポティは帝国出身だと言ったが、地底国となにか関りがあるんではないだろうか? すっかり、大人しいポティ。
「ヘリオス....王様、言っていたでしょう? 正当な規則を踏まずに出ていったお姫様。もしかしたら、ママかもしれないの。地底国の呪いが....パパも、ボスも、みんな死んだのも、蝶が解き放たれのだって、私のせいなんじゃないかって。だって、地底国の人間は外に出てはいけないんでしょう?」
「平気だよ。もし、そんな呪いがあるなら上にいる神様に聞いてみればいい」
「....うん」
正直、俺は信じていなかった。存在したほうが楽しいけどね。
久しぶりの太陽の光に目がくらむ。新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込む。強い風が吹きつける。周りは高い山脈に囲まれていた。
「ほら、ポティ! 何も起こらない、だろ??」
「アハハ! うん、うん。そうだね!!」
登り切ったという満足感に浸る。青々とした芝に寝転がる。ビルードが隣に座り、苦笑いを浮かべていた。
「本当は、これからなんだけどな」
「そうだけどね! でも、やり切った感?」
「それは、わかる」
その時、風の音と一緒に女の悲鳴が聞こえ飛び起きた。
「「ちょっとー!! なんでアンタたちここにいるのよッ」
「やっぱり、『金庫破り』のくせに間抜けじゃないか?」
ドゥルの目測通り、地上に上がってきたファビアン。仮面の下は目を輝かせていることだろうドゥルはじりじりとファビアンに近づいていた。
「「聞こえているわよ! アンタ達が異常なだけよ!!」」
シルベスタインに簡単に捕まりずるずると引きずられるファビアン。手に持っているのは肩に乗せて運んでいた布袋1つだ。
「あの金庫とんでもなく大きかったけどな」
「魔法の収納袋だろう?」
「でも、金貨ってしまえたっけ?」
「いや、変な魔法がかかっていて駄目だったはずだ」
「「ふん、これはお金専門ですー。でも、時間に限界があるからばら撒いているんじゃない」」
「すごい、地獄耳だな」
全員に取り囲まれ、顔を引きつらせるファビアン。シルベスタインが魔物用の拘束具だという物騒なものを取り出した時、後ろから叫び声が聞こえる。地底王国の兵士たちが、階段から足を止め叫んでいる。ドゥルとその補佐官が彼らの元へ向かった。その時、強風が吹き、ファビアンの手から布袋が離れるのが目が捉えた。咄嗟に風下にセレスティアを抱え移動する。手を広げ、飛んでくる金貨。そのほとんどは、彼女に触れる前に砂に変わって、大穴へと飛んでいく。あんぐりと口を開けるファビアン。後方の兵士達は呆然と固まり。兵士たちを押しのけ、地上に上がった国王は、砂に変わる金貨を集めようと必死にジャンプを繰り返す。金色の風は彼女を通し、本来の姿に戻っていく。初めから存在しない見せかけの金貨。本当の金貨は風に飛ばされることなく地面に落ちていた。
******
ファビアンは空になった布袋を拾い、近くに落ちていた金貨に手を伸ばした。そして、寄り添うヘリオスと仮面の少女を凝視する。拘束する手が緩んだのに気付き、土にまみれながらもその場を必死に逃げ出した。俺はなぜか追う気が起きなくて見逃した。次に視界に入ってきたら容赦しないと心に決める。
空になった手を見つめ、軽く舌打ちをする。
(全く、ヘリオスのやつにブルートめ。アイツらは一体何を抱えているんだ)
ガシガシと頭を掻くと、項垂れるかつての友人の元へと向かう。
「冒険者が金貨、財宝にこだわったらおしまいだ。冒険者とは何か、忘れてしまったようだな」
「シル、べスタイン....どういうことだ? 何が起こった?? 俺の、俺の金は? 俺の金貨はどこに行った?」
「さあな、規則に乗っ取らないで外に出たせいじゃないのか?」
「そ、そんな....俺は、俺は、違う....俺は王族で許された存在......」
無事な金貨をヘリオスから手渡され、それを王に押し付ける。
「今度は呪われないようにまっとうに生きな。それ持って地下に帰れ」
自己喪失状態の国王を兵士たちに預け、その場にしゃがんだ。心地よい風が顔に吹き付ける。背が無駄に高いだけでひょろっひょろの賢者が近づいてくる。
「呪いはあったんでしょうか?」
「見ただろう? 呪いだ」
「そういうことにしましょう。初代王が見たのは何だったのか」
なぜ俺なんかに聞いてくるのかわからないが、逡巡する。
「....案外、ただの人だったかもしれないぜ? 神みたいな高潔な人がいたのさ」
「街が落とされた、理由は地下をみれば分かる気がします。そういえば、この街は戦争を起こそうとしていたらしいですね。当時の標的によるものか....」
一つだけ、不可解なことがある。上に神なんて存在しなかったが、高所から落ちても無事な理由だ。
「最下層に落ちても死なないのは意味わからんが....」
「そうですね、神様は上ではなく下にいたのかもしれません」
少し悔しさの滲む賢者。結局、奈落草をどうにもできなかったからか。神秘の謎を解き明かせなかった後悔か。まあ、俺には関係ない。
「ここの金貨を一掃できただけでもいいだろう?」
「....そうですね。目を覚ました王になってくれたことを祈ります」
賢者は補佐官に自身のつけていた仮面をつける。何事かを呟いた賢者に、補佐官が芝生に倒れる。振り向いたときには既に仮面を被っていた賢者。
「三番目の賢者の仕事は記憶の管理か」
「ええ。知らない人は多いほうがいいでしょう?」
「助かるねぇ」
ヘリオスたちに視線をうつす。
「いいえ、では。私はこれで失礼します」
4人ではしゃぐ若者たち。金貨の脅威を終わらせられる唯一の存在。ブルートから聞いたときは半信半疑だった。今回は試すためも兼ねていた。丁度、タイミングよく予告の出した『金庫破り』ファビアン。かなりの金貨をため込んでいるというかつての友。
「シッター! ここから、帰るにはどうしたらいいでしょうかー!!」
ぶんぶんと大きく手を振るヘリオスの姿に一瞬、懐かしい人物の顔が思い浮かぶ。ブルートと動きが似ているからと思ったが違う。ブルートではない、いつの間にか姿を消した友人。だれだったか、頭に霧がかかって思い出せない。もやもやして、ヘリオスの胸倉を掴み、間近で観察する。
「あの、シッタ? 俺がなにか....?」
「思い出せない、な....」
「えっと....」
きょとんと首を傾げる、ヘリオス。その仕草が可愛くみえて、驚いた。
(ほう、これが子供だの、孫というやつか。相棒以外に初めて抱いた感情だな)
「これからも、仕事を紹介してやろう」
その言葉に、ヘリオス以外が全力で首を振っていた。ビルードが特に反対なようで、しつこく抗議してきた。
「お前ら、そんなんで冒険者が務まるのか?」
久しぶりに心からの笑い声をあげた。拾った馬車に乗り込み街に帰ろうとするが、その馬車のせいで事件に巻き込まれる。もうひと悶着起こるのであった。
******
仏頂面のビルードの機嫌をとる、シルベスタインという珍しい構図に3人は見守っていた。ぐるぐる巻きにされ荷馬車で運ばれている。隣にある樽から漂う散々嗅いだあの匂い。
「奈落草だね」
「お前さんの親父は知っているぞ、ブルートとたまに一緒にいた剣豪の一人だ」
――ルーに大公様の話は禁句だと思うけどな
ますます、機嫌の悪くなるビルード。あの地底国と取引するものなんて、良質な武器の他には『アレ』なのをすっかり忘れていた。運悪く、『アレ』しか扱わない荷馬車に乗り込みいつの間にか眠らされ、運ばれていた。
そして、入れられた牢屋の中。高笑いする、見覚えのある女。ビルードは逃がしたシルベスタインに文句を言っている。
「「おほほほ! ざまあ、ないわね。私が、アンタ達を買ってあげたのよ」」
「どうせ俺らを買ったのは地底国の金貨だろうが。まだこの辺にいる理由はなんだ」
「ふふん、そんなの関係ないでしょう?」
「追ってきていたな?」
「「違うわよ! 私、聞いちゃったの。甦りの鏡!!」」
シルベスタインがそっぽを向き馬鹿らしいと鼻をならした。となりに座っていたビルードは腰を浮かし、目の色が変わる。ティアは興味なさげに、俺の縄を解いてくれていた。ティアの魔法があれば縄程度すぐに脱出出来るのをすっかり忘れていた。
「ティア、やっぱり君はすごいよ!!」
「うん!! ヘリオスがもっとすごい!」
「「この馬鹿カップル! おだまりなさいッ」」
しゃべりかたのせいか、疲れからか、地底国にいた時より老けて見えた。シルベスタインも気付いたのか呟く。地獄耳の彼女が聞き逃すはずもなく、甲高い声が牢屋で響き耳が痛い。
「年齢、いくつだ?」
「「ちょぉッとー--? どうして、今そんなことを聞くのか私聞いていいかしら!?」」
ファビアンの隣で辟易した様子の人さらいが、急ぎめに鍵を開け始めた。
「ちょっと、アンタまでなによ。私はまだ出していいとは言っていないわよ」
人さらいは、額に汗しながら、必死に鍵を探していた。カチャンッと小耳の良い音が響き、シッタが牢の扉から満面の笑みを浮かべ、ゴキゴキと肩を鳴らしている。柵越しのファビアンの顔色が青白く変化していく。結局、立場が逆転し、人さらいのアジトをシッタに引きずられながら後にするファビアン。その間も、おしゃべりが止むことはない。ポティに腕をつつかれ振り返るとこそっと呟いた。
「ボクね。学んだんだ。おしゃべり好きだけど。しゃべりすぎるとあの人みたいになるって。ボクはあの騒がしい人とは違うよ」
「そう、そのまま私レベルまでになるといいわ」
「ティア、なにを....」
セレスティアは団長以上に物静かだ。パーティー的にそれはよくない。物静かといえば鏡の話を聞いてからどこか上の空なビルードに心配になる。前をみれば、通り過ぎる人皆が振り返って何事かと騒いでいる。問題だらけの状況に休めそうにないとため息をついた。――俺の体調も万全ではないし
「シッタ。どこに向かっているんですか?」
最初にすべきは、憲兵に通報されそうな案件を抱えたシルベスタインとファビアンの状態の緩和である。




