元特殊部隊員の俺が一般人の家にお邪魔する
「ぽた、ぽた・・・」
雨の滴る双眼鏡。
俺が5歳のとき、特殊軍養成学校に入ったのもこんな雨の降る日だった。
「ほら、いきなさい。」
離れる手。
押される背中。
「えぇ?どこにいくの?」
振り返ると、そこには誰もいない。
「やあ、君が雪君だね?」
気持ち悪い笑みをする黒服の男
「だれ?おじさん?」
「私か?私は”コードC”君のお父さんだ。」
「お、と、う、さん?」
「そう、そして君の名前は、”コード666”わかったかい?」
「6,6,6、?」
「そう、666」
666,666,666、ろくろくろく・・・・
あの時植え込まれた記憶は、次第に俺を変えた。
「僕の名前は666。」
「お父さんは”C"」
「お母さんは・・・、おか、あさんは。お母さん?」
俺には本当の親などいなかった。
名前などなかった。
ーーーー新町大橋陸橋の頂上 AM01:00---
「は!!」
くそ、またあの夢か。
「はぁ、はぁ。まったく、なんなんだ。」
少し眠っていたようだ。
俺としたことが、偵察の最中だってのに。
自分の犯した過ちは、戦場では死に値する行為だ。
[はあ・・・嫌な気分だ。」
昔のことはおぼえていないが、この夢はよく見る。
疲れが溜まっているのか?だとしたら、紛れもなくあのうさぎのせいだ。
社会に出てからというものの、ストレスがたまりすぎているきがする。
会社から疲れて帰ってくるサラリーマンはこういう気持ちだったのか。
「はあ・・・・」
雨はおさまることなく、振り続けていた。
ーーーーAM06:00----
「そろそろ、朝食の時間か。」
俺は鉄骨を降りて隠れ家に向かう。
「あのーーー!」
ん?なんだ。うさぎか。
「おはようございます。」
彼女はぺこりと頭を下げる。
「ああ、おはよう。夜は特には動きがなかったようだ。だが、まだ安心はできんな。」
「そうですか・・なんでそんなに濡れてるんですか!?昨日傘を渡しましたよね?!!」
彼女は目を丸くして、言う。
「ああ、あれか。偵察には目立つから返したぞ。」
「え?なんで返すんですか!?」
「え?いや、必要ないからだ。」
なぜ、俺が怒られてるんだ・・・
「おれなんか、悪いことしたか?」
「してないです・・・」
でも、せめて傘ぐらい使ってください。
彼女は小さくつぶやく。
「ん?なんかいったか?」
「いいえ、何も言ってません・・・」
「そうか、なら俺は少し町を見回るとしよう。」
「まってください!あのよかったら、うちで朝ごはんでも・・・どうですか?」
彼女はもじもじと小さな声言う。
「は?別に飯には困ってないよ。隠れ家で食べるからいい。」
俺の隠れ家にはしっかりと戦闘携行飯がある。味はあれだが、馴れれば問題ない。
「だめです!」
「は、はい?」
「私のためにいろいろしてくださるなら、私も何か恩返ししないと気がすみません!」
「そ、そうか。」
俺が巻き込んだと言うのに、恩返しする意味があるのだろうか?
何を考えているんだ?
「一応聞いておくが、朝ごはんに毒とかいれないよな?」
「いれません!!」
そういって、彼女は俺を引っ張って、家へと向かうのだった。
ーーーー兎美家ーーーーー
はぁ、さっぱりした。
俺は彼女の家に向かうなりいきなり風呂につれていかれた。
「そんな濡れてたら風引くし、汚いですよ!!」
と彼女は言って去っていった。
まあ、この2日間川の水で体を拭く生活をしていたので、久しぶりの風呂はなかなか気持ちよかった。
体を拭き終わり、服を着替えようとしたが、俺の着ていた偵察用のカモフラージュ服がないのに気づいた。
「いったい、どういうことだ?!」
さっきまでは、このかごに入れてあったのに。
きっとあのうさぎのせいに違いない。
「おい!うさぎ!俺の服をどこへやった!?」
俺は脱衣所から叫ぶ。
「あの服汚かったから、洗いましたよ~」
「はい~?!洗っただとーー!!」
「そこに代えの服置きましたよ。」
代えの服だと?!
まさか?!
このうさぎTシャツとズボンか?
こんな実用性のかけらもない服着られるか!
第一なんだこの顔が崩れたうさぎは?こんな目立つの着られん!
「うさぎ!別のを用意してくれ!これはだめだ!!」
「今手が離せないので、それで我慢してください!」
「なんだと~~!」
これをきるだと・・・
仕方ない今はこれを着よう。だが!この家を出るときは服を取り返す!なんとしてもだぁ!!
俺は風呂で闘志を燃やしたのだった。
兎美家の朝食はいたって普通だった。
「もぐもぐ・・・う、うまい!」
この黄金のだし巻き卵!そしてシャキシャキさらだ!さらに高級食パン!
なんたるおいしさだ!
感動して涙が・・・ださないがな。
「もぉ、そんなにがっつかなくてもご飯は逃げませんよ?」
兎美がにこにこしながらつぶやく。
「いや、なんというか・・・めちゃうまい。こんなうまいものを食べたのは何年ぶりだろうか・・・」
「そんなに普通のご飯たべてなかったんですか。」兎美が苦笑いしなが聞いてくる。
「そうだな、最近は軍用レーションしか食べてないし任務中はそもそも飲まず食わずがおおいからな。」
「へ、へ~大変なんですね~。」
「いや。それが普通だと認識しているんだが?」
「あなたの普通って私の普通とだいぶかけはなれてますよ・・・」
俺はこれが普通だと思っていたのだが世間では違ったのか。これはやはり根本的に俺の考えをたださなければいけないな。まあ、こんなうまい飯があったのは驚きだが。
俺は初めて食べるご飯をかみしめながら、朝食を食べるのだった。
朝食を食べ終わり、兎美が片付けを終えてソファーに座る。
「ん?今日は学校とやらにはいかないのか?」
確か昨日はこの時間に出かけていたよな。
「今日はお休みの日ですよ。日曜日は国民の休日です!」
日曜日というのは国民の休日なのか。日本では休日という制度があったのは初耳だな。
「休みというのは何をするんだ?射撃訓練か、徒手格闘などか?いや、休みというから武器の手入れだろ。」
日本は国民全員にこんな日を設けてるのか。やはり個々の戦闘技術が高いんだな。これからは警戒レベルを上げなければな。
「あなたはブラック企業か何かに勤めてたんですか?!」
兎美はびっくりして声を荒げる。
「いいですか?お休みの日っていうのは、みんな好きな事をするんです!!」
なるほど好きな事か、そんな素晴らしい日があるんだな。やはり俺のまだ知らない情報が多いな。
こうして俺は初めての休日を迎えたのであった