勇者、復活する。
「サルトの根、十株。メニマの花、15輪。はい、確かに。三千ルピです。いつもありがとうございます、ユウさん」
ニコリと笑い銀貨三枚を差し出した。ギルドの顔というだけあってとてもいい笑顔だ。計算が速いことは大変結構なのだが、一つ数え忘れている。
「なあ、カチェの球根は?」
「え、っと。これですか?」
カチェの球根を指さし、あからさまに嫌そうな顔をする受付嬢をみて、はてと首をかしげる。
カチェの球根といえば、なかなか取れない貴重品のはず。芽が出てから花が咲くまでの期間が非常に短く、その後もすぐに枯れてしまうためあまり市場に出回らない。
毒を抜く過程が少々面倒だが、おろして湯と混ぜて飲めば大抵の病気に効く万能薬になる。
「毒草じゃないですか! 引き取ってもいいですが、次からは持ってこないでくださいね」
「なあ、もしかしてカチェの効果を知らないのか?」
「カチェの効果も何も、これは猛毒で――」
「かーっ! おいおい! 雑草刈りが猛毒を持ち込んだらしいぜ。怖いねぇ!」
声に振り返ると、少し離れたテーブルに座る三人組の冒険者が笑っていた。俺がここに薬草を持ち込み始めてからなにかと突っかかって来る輩だ。
「あの、気にしないでくださいね、あの人たちの言っていること。最近では薬草のことを知っている人が減っていて、持ち込まれる量も少ないんです。だから、毎日持ち込んでくれるユウさんのような人は貴重なんですよ」
「……ああ。また持ち込むよ」
銀貨とカチェの球根を懐にしまい、ギルドを出た。
「マル」
青空の下で日向ぼっこをする猫、マルに声を掛ければ、立ち上がり俺の肩に飛び乗った。
「カチェの効果を知らないなんて、思わなかった」
「にゃあ」
「やっぱりここは、俺の旅をしてきた世界とは違うんだな」
「にゃあ」
「……いい天気だ」
「にゃあ」
空は忌々しいほどに、晴れ渡っている。
俺の苦悩など、ちっぽけに思えるほどに。
☆
聖暦五百年。魔の領土に住む民、魔人の侵攻を受け人類は滅亡の危機に瀕していた。
魔族の力は圧倒的で、人間はただ蹂躙されるのを待つばかりだったという。
その状況を打破するべく最後の希望をかけて行われた勇者召喚の儀式。異界に住まう人ならざる力を持つものを召喚する儀式が、軍国リングスにより行われた。
結果は成功。後に魔族の王、魔王を打倒する勇者が召喚された。
それが俺、黒乃祐。普通の中学三年生だった。たった十五歳のガキが人類を滅ぼす魔人を倒すだなんて馬鹿げているが、それを行う力が俺にはあった。
神力。神から授かりし人ならざる力。魔を除け、天候をも操る力が、俺に授けられた。
それから二年。戦い続け、俺は魔王を倒したのだ。三日三晩に及ぶ壮絶な戦いの果てに、奴を滅ぼした。
そして、そこからの記憶はない。ふと気が付けば、神殿のような建物に立っていた。
「そしてここは、どこなんだろうな」
「にゃう……」
夕暮れの公園で、膝にマルをのせて空を見上げる。目が覚めてから、三週間程度経った。ここに来るまでいろいろなことがあった。森で死にかけのマルを拾い、行商人の護衛をする代わりに飯を分けてもらい、猪のような獣に困る村を助けた。
整備された街道。生い茂る木々。人々の明るい顔。この世界は、俺の知る世界ではない。戦いがない。憎しみがない。皆が希望にあふれ、毎日を楽しく生きるこの世界を俺は知らない。




