高瀬健一サイド2 三日目
■ ■ ■ 高瀬健一サイド■ ■ ■
■三日目■
前日、女王への報告が済んだ後、また式典が行われたらしい。
俺はまたもや参加を断った。
初めて魔法が使えるのだ。どんなことができるのか、できないのか早く試してみたかったということもあるが…
なにより儀式の後で俺は重大なミスに気付いたのだ。
異世界といえば、魔法で無双。
そんな思いから、俺は剣術や体力などの基礎値を上げることをすっかり忘れていた。
これは気が付いたときに、予想以上に浮かれていた自分を突きつけられて恥ずかしくて仕方なかった。
まあ相手の能力をコピーできるという能力はおそらく備わっているはずだから、ベラや国一番の騎士に稽古をつけてもらえれば、最低限、この国の人間としては最強の部類に入れるだろう。
身体能力を上げる魔法で底上げしてもいい。
そう思いつつも、それとなくスイニーに再度『希望の泉』を使用することが可能か聞いてみたが、どうやら最低でも一か月は期間をおかなければならないらしい。
「通常では月が一度満ちて、再び欠ける、一回りの日数が必要なのです。けれども勇者様の儀式の泉ですから、これが当てはまるかどうかはわかりません。記録によれば使用するのは過去の勇者様もみな一度きりでしたし…」
スイニーが困ったように眉を寄せた。
「城の記録をもう一度探らせますわ。なにしろ、勇者召喚の儀式は百年ぶりですから、不明なことも多いのです」
ライティニア姫は申し訳なさげだったが、もとはと言えば、俺が浮かれていたせいだ。
一度きりしか使えない、ということだってあり得るだろう。
「城下町にある泉はどうかな、試してみればいいんじゃない?そしたらさ、魔王を倒す旅だって、町ごとに強くなれちゃうかもよ、勇者様!」
フロウの言葉に疑問を感じると、すぐさまベラが補足してくれた。
「ああ、希望の泉は町ごとにある…いや、正確にいえば、泉があるところに町があるのだ。もっとも、勇者が神の加護を得る『泉の儀式』が行われるのは、この城の泉だけだが」
「この城の泉だけが特別かもしれないってことか…だが、町ごとに泉があるなら一般人も神の加護がもらえるのか?」
「そうですね…神の加護というには、ささやかなものですが、傷を治したりすることはできます。ですが、それくらいです。死んだ人間を生き返らせることはできませんし、タカセ様が受けたような力強い加護を受けるなど聞いたことがありませんから」
スイニーが説明をしてくれる。なんだか、司祭というよりは教師の側面を強く感じる。
フチなしの眼鏡をしたら似合いそうだ。
とにかく、あまり期待はせずに、試すだけ試したい。
一か月はこの城を起点にして活動し、泉を試してみてから、本格的に魔王の討伐に出るようにすればいいだろう。
できるだけ死ぬような冒険は避けて、安全マージンを大幅に取りたい。
泉の儀式の前に「不死だけは叶えられない」と聞いていなかったら、絶対に死なないチートも願っただろうに。
しょうがない、意識があれば、一瞬で回復できるだろうし、絶対防御の魔法なんかも試してみればいい。
俺はそう割り切って、二日目を魔法の試行錯誤に費やした。
結果、ほとんどのことはできた。
痛覚遮断も可能だったし(これはかなり恐怖を感じた)、式典に出る前のベラに頼んで短い時間だったが剣術もコピーできた。
ベラはかなり驚いていて、「勇者というものは、これほどまでにすごいと思っていなかった」と称賛の表情を浮かべていた。
そして三日目の昼。
城の記録をスイニーと見ていると、ライティニア姫がニファを連れて部屋に飛び込んで来た。
どうしたのかと思った俺に、彼女はいきなり跪いて俺の両手を強く握った。
彼女の手は細かく震え…
「勇者様…希望の泉が枯れました…国中のすべての泉が、です」
と囁いた。
その時、ようやく俺は彼女の顔が真っ青で、ひどくおびえているのに気が付いた。
彼女の手の冷たさが伝わってきた。
「おそらく、魔王の仕業でしょう…今、国民は皆、おびえ、動揺しております。勇者様、どうか、どうかお願いです。魔王を倒してください、この国の民を救ってください…」
俺は彼女の声にとっさに応えられなかった。
いよいよ、始まるんだ、という気がした。
俺は、この国を救わなくてはならない。
おびえる彼女を守らなくてはならない。
大丈夫だ、俺はやれる。やらなくてはいけないんだ、と、ただ震える彼女の手を握りしめ、俺は「大丈夫だ」と囁いた。
次からはまた魔王視点で。勇者はハーレム作ってますが、魔王は完全ボッチです。ジーブスも脳内設定だしな!