海と空 恋は紺碧の色
第3章 ハロウィンの夜・後編
スミス家のリビングには、いつも以上に人が集まっていた。
テーブルハロウィンのからは、近所を歩く子供たちこえてくる。
「好きなものを食べていいからね」
メラニーが笑う。
「ありがとうございます」
真里亞が頭を下げる。
「遠慮しないで。今日はみんな家族みたいなものなんだから」
「Ohana?」
真里亞が尋ねる。
「そう」
メラニーが笑った。
「オハナよ」
クリスティンとリアナ、ブライアンもテーブルを囲んでいる。
イーサンとアンドリューは飲み物を用意し、ヒナは仮装したままソファーに座っていた。
ザックはというと、アイアンマンのマスクを外してソファーに沈み込んでいる。
「暑い……」
「だから脱げばよかったのに」
ヒナが笑う。
「せっかくのハロウィンだぞ」
「パパ、無理しすぎ」
皆が笑った。
しばらくして、話題は自然とハロウィンの文化へ移っていった。
「日本では、どんなハロウィンなの?」
アンドリューが真里亞に尋ねた。
「最近は仮装する人が増えましたね。特に若い人たちは、友達同士で集まったり」
「アメリカと似てるね」
「でも、日本の場合は少し違うんです」
真里亞が説明する。
「アメリカでは子供たちがお菓子をもらいに家を回るのが中心だけど、日本では大人も仮装して街に出ることが多いです」
「なるほど」
イーサンが頷いた。
「同じハロウィンでも、国によって形が違うんだね」
「そうですね」
その時、ヒナがぽつりと言った。
「そういえば……数年前、韓国でも大きな事故が起きたよね」
皆がヒナを見る。
「ハワイでもニュースになってた」
真里亞も静かに頷いた。
「うん。ニュースで見た」
クリスティンが少し考えてから言った。
「ハロウィンそのものが悪いわけじゃないよね」
「そうだね」
真里亞は頷いた。
「なんで日本と韓国に、間違ったハロウィンの楽しみ方が伝わったんだろうね?」
その言葉に、トムが腕を組んだ。
「日本の場合は、街に人が集まって……」
真里亞が嫌な予感を覚える。
「トムくん?」
「いや、歴史的に見ると、日本のハロウィンは――」
「……トム」
クリスティンが止めた。
「何?」
「今はハロウィンパーティーだよ」
「あ……」
トムは口を閉じた。
そして小さく、
「ごめん」
と呟いた。
皆が笑う。
「トムらしい」
ブライアンが言う。
「俺は歴史研究会だからな」
「日本文化研究会でしょ」
真里亞が突っ込む。
「細かいことはいいんだよ!」
また笑い声が起きた。
しかし、その後トムは少し真面目な顔になった。
「でもさ」
皆がトムを見る。
「家族を失って、喜ぶ人なんていないよ」
リビングが静かになった。
「国が違っても、家族を大切にする気持ちは同じだと思う」
トムは続けた。
「だから、話せばいいんだと思う。分からないことがあったら、話す。違うところがあっても、話す」
そして、少し照れたように笑った。
「みんなオハナなんだから」
誰もすぐには答えなかった。
やがて、メラニーが静かに微笑んだ。
「そうね」
ザックも頷く。
「その通りだ」
真里亞はトムを見た。
「……トムくん、たまにはいいこと言うね」
「たまにはって何だよ!」
リビングに笑い声が戻った。
外では、まだ子供たちが「Trick or Treat!」と叫んでいる。
ハロウィンの夜。
国が違っても、文化が違っても。
笑い合うこと。
一緒に食卓を囲むこと。
そして、大切な人を思うこと。
そんな気持ちは、きっとどこに行っても変わらない。
真里亞はそう思いながら、クリスティンと顔を見合わせて笑った。
「Happy Halloween」
「Happy Halloween!」
その夜、スミス家には遅くまで笑い声が響いていた。




