第六話 このさき看板
「危険な場所に近づいたりしない? 負担は大きくない? 具体的な活動内容は?」
浅川めぐるは、あれこれ訊ねてきた。
後輩のために危険がないことを確認したいのかもしれないけれど、僕らのシンプルな活動は、やってみたほうが早い。
「まちに出よう」
スマホを片手に、僕は同好会室の扉を開けた。
校内にもさまざまな見どころがあるけれど、まちあるき同好会という名前がついているのだから、ここは外に出る。記念すべき複数人での活動は、名を体したものでなければなるまい。
僕は自分の頬を叩き、気合を入れた。背筋をのばして、お散歩に臨む。
僕らは一人ずつしか抜けられないような狭い路地裏を抜け、草に覆われた石橋を過ぎた。振り返ると校舎はもうどこにも見えなかった。
二人は携帯をいじくりながらついてきた。歩きスマホはとても危険だからやめたほうがいい。携帯を取り上げてやろうかと思ったが、活動内容がスマホで写真を撮ることということもあり、今のところは視線で訴えかけるくらいにとどめた。二人とも僕のことなんか見ていなかったけどな。
やがてツタに覆われた三階建ての建物の前に着いた。
僕は定期的に歩いている散歩コースの中で、最も意味がわからない場所に二人を連れてきたのだ。
「こんな人通りの少ないところに連れてきて、何か変なこと企んでないでしょうね?」
浅川からの信用が全くといっていいほどにない。
「そうじゃない。僕が見せたかったのは、この看板だ」
緑のなかにある古びた看板は、すっかり日焼けしていて、雨風にもさらされ、一部しか読めない。
「『このさき』しか読めないわね」と浅川。
きらりちゃんは、「そーですね」といつもの笑顔を見せて言った。
僕は大きくうなずいた。
「そうなんだよ。この先に何があるのか。どういうことを伝える看板なのか、全くわからない」
僕は看板を撮影した。以前撮ったときには冬だったから周りの景色が違った。今回は三人で来た記念ということもあるし、いろんな角度から、看板を撮ってみた。
ひとしきり撮影を終えてから、僕は胸を張る。
「よし、これで一つ、このまちの謎が増えた」
しかし、浅川は冷たい声で言うのだ。
「これだけ?」
「ああ」
浅川は口もとに手を当てて少し考え込み、きらりちゃんに話を振った。
「きらり、『このさき』に続くの、何だと思う?」
一瞬だけ間があって、きらりちゃんは答える。
「ええと、めぐる先輩なら、どう言いますか」
質問に質問で返していた。
「あのね、きらりにきいてるのよ。私は、このさき工事中、このさき私有地、不法投棄禁止、立ち入り禁止とか思いつくけど、きらりなら、どう思う?」
丘野下きらりは、「んー」と言いながら頭上をみあげ、「うん」と頭をもとの位置にもどしてから答えた。
「このさき、なにかが起こる! このさき、何かが変わる! このさき、異世界! とか」
浅川めぐるは微笑ましそうに何度か頷いていた。
色んな見方があるものだ。
二人がアイデアを出したので、僕も参加せざるをえない。
「読める人には読めるみたいなものなのかもな。あとは、誰かの悪ふざけの可能性だってある。もしかしたら、苗字とか名前かもな、コノサキさんとか」
そこで浅川は小さく息を吐いて、
「大道くんの発想は、あまり面白くないわね」
などと言った。気に入らない。
「そういう浅川だって――」
僕が浅川に言葉の刃を向けようとしたとき、浅川はかぶせるように、
「そうね。きらりのがよかったわ。きらり、優勝」
「やったー。ありがとうございます。めぐる先輩!」
浅川に抱き着くきらりちゃんなのであった。
きらりちゃんの元気が戻って何よりだ。
話が一段落ついたところで、部室棟に帰ろうと看板に背を向けたのだが、浅川に呼び止められた。
「大道くんは、この先に進んだことがあるの?」
「ないよ。不法侵入になりかねない」
僕が即答して、きらりちゃんが、
「三人で、行ってみましょうよ!」
と言ったとき、浅川は携帯を操作し、その後すぐに、きらりちゃんもスカートのポケットから携帯を取り出した。メッセージのやり取りをしているようだった。
少し経って、きらりちゃんがスマホをしまって、
「やっぱやめましょっか! 幽霊出たらこわいし!」
心なしか、浅川が不機嫌そうな顔をしたように見えた。




