第四話 言わない女
二人きりで過ごした時間は短かった。
浅川はずっと黙ったまま携帯を操作していたし、僕は、同好会のデータ整理と管理日記をつけ続けていた。
浅川はすこし苛立っているようにもみえた。僕にはなぜ浅川とこの部屋で二人きりになっているのか、状況が整理できないでいた。
僕はずっと緊張していた。
でも、互いを気にしながら続いた居心地の悪い時間は、すぐに終わった。
浅川が、「じゃあね大道くん」と言い残して、急に帰ったからだ。
僕がこの二日で感じる限り、浅川めぐるという人は、他人に説明を求めて来るくせに、自分が全く説明しない系女子のように見えた。
それでも、単に不器用なだけの優しい女の子だと思うことにした。そうじゃなかったら、裏庭の隅っこで泣いたりするものか。
結局、僕は浅川の行動の理由を全く理解できないでいた。なぜ泣いたのか。なぜ同好会に顔を出したのか。
次の日、僕は登校の通学路で、日課の写真撮影のことも忘れて、浅川めぐるのことを考えていた。
朝のホームルームが終わった後、僕の足はすぐに浅川の席へと向かった。SNSや配信動画の話で盛り上がる男女集団の隙間を抜けて、僕は彼女の前に立った。
輝く黒髪とその向こうの横顔に向かって、僕は話し掛ける。
「昨日は何で」
と言いかけたところで、彼女は目を背けたまま、あからさまに拒絶の雰囲気を示したのだが、僕は止まらなかった。止まらなかった理由はわからない。一刻も早く、浅川の気持ちが知りたい。そういうことなんだと思う。僕は続けた。
「何ですぐに帰ったんだ。きらりちゃんが来ると言っていたのに、来なかったし」
浅川は振り向くことなく、表情も変えずに、なにか言葉を呑み込んだようにみえた。かと思ったら、浅川は立ち上がった。
背筋をのばした美しい歩き姿をみせて教室を出て行った。廊下に出たとき、ついてこいとばかりに僕を一度見て、裏庭のほうに消えた。
僕は浅川を追いかけた。しだれ桜の下にいるものだと思った。
風が緑の枝を揺らしているだけだった。
「逃げられたか……」




