ACT.27 巨大な翼
徳島城公園上空。
午前九時十二分。
徳島県警通信指令室では、電話が鳴り続けていた。
『巨大な鳥が飛んでる! 木が倒された! 人を襲おうとしてる!』
オペレーターが顔を上げる。
「徳島城公園周辺から、同時通報多数!」
警察ドローンからの映像が、大型モニターに表示される。
巨大なアオサギ。
翼開長、約四・五メートル。
城山の上空を旋回し、翼を打つたびに木々が激しく揺れている。
公園から逃げる観光客。
飛び交う悲鳴。
民間の撮影用ドローン。
さらに上空には、報道ヘリ。
通信指令官が声を上げた。
「周辺の民間ドローンへ退避要請! 報道各社へも接近自粛を要請しろ! 航空関係機関にも連絡!」
民間ドローンと報道ヘリが入り乱れ、上空は混乱していた。
徳島城公園北口。
臨時現場指揮所。
規制線。
パトカー。
消防車。
救急車。
前夜の徳島沖襲撃事件との類似性から、真月団関与の可能性が浮上。捜査一課の事件担当班も現場へ入っていた。
佐藤課長が怒鳴る。
「市民を下げろ! 公園内を封鎖! 市街地側の避難を優先しろ!」
地図を叩く。
「市民への直接攻撃が確認された場合は、武器使用も検討する! ただし、独断で撃つな!」
周囲の空気が張り詰める。
その時、後藤田美海がモニターへ近づいた。
「待ってください」
静かな声。
全員の視線が集まる。
美海は映像を止めた。
拡大。
「翼の付け根です」
金属の反射。
皮膚の間を走る、配線のようなもの。
「自然の個体じゃあない」
一拍。
「生物兵器の可能性が高いです」
沈黙。
佐藤課長の顔が曇る。
「……また真月団か」
少し離れた位置では、原菊ジュン子がガイアクラーケンの車載センサーを操作していた。
望遠映像を拡大。
さらに拡大。
翼の根元。
金属プレート。
固定ボルト。
皮膚の裂け目から、繊維状の人工物が覗いている。
ジュン子の表情が変わる。
「間違いない」
無線を開く。
「翼の付け根に補強プレートを確認。人工筋繊維らしき構造と、制御コードも見える」
一拍。
「生体改造個体で間違いないで」
美海は空を見上げる。
巨大アオサギ。
赤い目。
一瞬だけ、現場指揮所の方へ顔を向けた。
まるで、観察しているように。
「誰かに操られてる……」
美海が小さく呟いた。
その瞬間。
巨大アオサギが急旋回する。
そのくちばしが、徳島市街地へ向いた。
警報。
無線。
悲鳴。
リリが叫ぶ。
「ガイアスワット、出動!」
徳島城公園――「逃走」
避難誘導が続いている。
巨大アオサギは、なおも公園上空を旋回していた。
巨大な翼が、空気を打つ。
突風。
街路樹の太い枝が折れ、案内板が吹き飛んだ。
市民が悲鳴を上げる。
捜査一課の浅井龍五郎が無線を握る。
「退避区域を広げろ! 飛行方向を監視!」
一拍。
「市街地側の道路を封鎖しろ! 落下物にも注意!」
刑事と制服警察官が、それぞれの配置につく。
その時、巨大アオサギの赤い目が、強く光った。
翼の付け根。
金属プレートの奥で、青白い光が走る。
何かが作動した。
美海が双眼鏡を覗く。
「翼根部の発熱が上昇!」
アニーが車載モニターを見る。
「外部からの制御電波を受信!」
画面に、解析結果が走る。
「既知の離脱コードと一致しました!」
「制御信号の周期が変化!」
「飛行方向の変更と同期しています。外部から誘導されています!」
巨大アオサギが急上昇した。
一気に高度を上げる。
刑事の一人が叫ぶ。
「撃ちますか!?」
浅井は上空と周囲を見た。
市街地。
逃げ遅れた観光客。
住宅地。
報道ヘリ。
出現から十数分。
すでに民間ドローンが飛び、遠方からは報道ヘリも接近していた。
「駄目だ!」
即答。
「流れ弾と、撃ち落とした場合の被害が大きすぎる!」
巨大アオサギが眉山方向へ急旋回する。
巨大な影が、南西へ加速した。
ジュン子が望遠スコープで追う。
「離脱する! 南西方向や!」
アニーがモニターを確認する。
「制御信号、まだ続いています!」
美海の顔色が変わった。
「誰かが操作してる」
小さく。
「真月団だ」
やがて、巨大な影は山の向こうへ消えた。
浅井が拳を握る。
「……逃がした」
一瞬、誰も言葉を発しなかった。
現場には、倒れた案内板。
散乱した枝。
避難する市民。
美海は空を見上げた。
もう、影はない。
リリが無線を開く。
「全隊員へ」
冷静な声。
「事件は終わっていない」
一拍。
「ここからが本番よ」
The Next Mission




