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特殊警察ガイアスワット  作者: まとら 魔術
第4章「さらなる新隊員と幹部のせがれ」

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ACT.25 残す

 徳島県警・監察室前の朝、薄い光。

 廊下は静か。


 ジュン子はファイルを胸に抱える。


 ノック。


「入れ」


 室内には井上風見。


 机に書類の山。


 ジュン子、前に出る。


「監察提出用の報告書、作成しました」


 紙の重みを差し出す。


 井上はファイルを受け取る。

 

「正式な監察には、こちらから回す」


 ページをめくると、無駄な音はしない。


 一枚、また一枚。


 四十谷翔の暴行と真月団接触。


 発砲事案が全部、載っている。


 井上、ペンを取り、サインを短く書く。


「報告書、受理する」


 一拍。


 視線を上げる。


「上が揉み消しても――」


 低く。


「我々は記録を残す」


 沈黙。


 それは“勝ち”ではない。


 だが、“消されない”。


 それだけで違う。


 ジュン子の肩の力が、わずかに抜ける。


「……ありがとうございます」


 声は小さい。


 だが、確かに通る。


 ドアを開ける。


 外の光が少しだけ眩しい。


 美海とアニーが待っている。


 ジュン子、出てくる。


 目の下が疲れている。


 少し影。


 でも、ほんの少し笑う。


 アニーが近づく。


「ジュン子さん」


 少し迷って。


「正義って……痛いんですね」


 美海、即答しない。


 ジュン子を見る。


 その傷、疲労、全部見てから。


「痛いほど」


 ゆっくり。


「本物なんだよ」


 ジュン子、鼻で笑う。


「ええこと言うやん」


 一歩、前へ。


「ほな、もっと痛くなるで」


 振り返らず、歩いていく。


 アニー、呟く。


「……でも、消えなかったですね」


 美海、小さく頷く。


「うん、残った」


 廊下の奥にジュン子の背中。


 まっすぐ、その後ろに見えないけど確かにあるもの。


 “記録”。


 “証明”。


 消されなかった事実。


 それが次の戦いになる。


 夜、徳島城公園のベンチ。


 ジュン子、一人。


 風が木々を揺らす。


 携帯が震えて表示。


【父:原菊次郎】


 メッセージを開く。


「余計なことはするんやない」


 一拍。


「組織を敵に回すな」


 画面を見たまま、何も言わない。


 ゆっくり、閉じる。


 ポケットへ。


 星を見上げる。


 ぼやけている。


 遠く、サイレン、ガイアマシンの音。


(まだ動いとる、まだ終わってへん)


 小さく。


「……父ちゃん」


 少しの沈黙。


「うちはな」


 拳を軽く握る。


「守るで」


 静かに。


「……あんたが守れんかった正義」


 風が髪を揺らす。


 カメラ、上昇。


 徳島の夜景。


 光、点、広がる。


 県警本部・取調室。


 白い蛍光灯。


 四十谷翔が机の向こうで足を組んでいる。


 余裕。


 扉が開く。


 美海が入り、向かいに座る。


「……楽しい?」


 翔、笑う。


「何が?」


 美海、視線を外さない。


「全部」


 間。


「殴るのも、逃げるのも、守られるのも」


 翔が鼻で笑う。


「当たり前だろ」


 一歩も引かない。


「許されるんだから」


 美海、わずかに前へ。


「そうだね」


 静かに。


「許されるのは――」


 一拍。


「パパと、その知り合いだけだからね」


 空気が止まる。


 翔の目が細くなる。


 美海の手、机の上。


 握る。


 力が入る。


(今なら、殴れる)


 一瞬、揺れる。


「やめろ」


 井上の声。


 背後。


「ルール違反だ」


 久保舞も一歩前。


「ここで壊れたら、全部無意味になる」


 美海は目を閉じる。


 息を吐き、手を開く。


 翔が笑う。


 勝ち誇る。


「ほらな」


「おままごとだ」


 その時、ノックの音がして、扉が開く。


 スーツの男。


 弁護士。


「四十谷翔さんの弁護人です」


 書類を提示する。


「勾留請求が却下されました」


 一拍。


「身元引受人のもとで、在宅捜査に切り替わります」


 誰も動かない。


 井上が書類を見る。


 歯を食いしばる。


「……銃を使った案件で、勾留請求却下か」


 低く、短く。


「普通じゃあないな」


 ジュン子は廊下でそれを聞いた。


 足が止まる。


 取調室の中。


 翔、立つ。


 余裕の表情だった。


「じゃあな」


 美海を見る。


「正義の人」


 笑いながら、出ていく。


 美海は残り、動かない。


 拳が震えている。


 外、ジュン子。


 壁に手をつく。


(……守る言うたのに、もう、逃げられとる)


 遠く、またサイレン。


 徳島の夜は、止まらない。


 でも、正義は、簡単に通らない。


 県警地下駐車場の夜。


 コンクリートと湿った空気。


 ガイアクラーケン。

 黒いRZ34ベース。


 ジュン子が運転席に座る。


 無線が生きている。


 井上の声。


「……原菊」


 一拍。


「正式な出動命令は出ていない」


 つまり。


 やるな。


 そういう意味だった。


 ジュン子はキーを回す。


 低い振動。


「知っとるわ」


 静かに。


「せやけどな」


 ハンドルを握る。


「被害者保護の確認は、職務やろ」


 一拍。


「命令が止まっても」


 アクセルに足を置く。


「被害は止まらへん」


 前を見る。


「うちは――」


「それでも追う」


 無線の向こう。


 少しだけ沈黙。


 井上の声が落ちる。


「……面会記録は残せ」


 ジュン子は、小さく笑う。


「最初からそのつもりや」


 ガイアクラーケンが発進する。


 古いアパート。


 階段が軋む。


 ドアをノック。


 中から、弱い声。


「……誰ですか」


 室内が暗い。


 包帯をつけた平尾が出る。


 顔に痣。


 テレビでニュース。


「四十谷翔、釈放――」


 平尾が顔を歪める。


 ジュン子はリモコンに目をやる。


「……消してもええか」


 平尾は小さく頷く。


 画面が消える。


「徳島県警や」


 一拍。


「……遅なって、すまん」


 平尾、苦笑。


「来ないと思ってましたよ」


 間。


「結局、あいつは……」


 言葉が止まる。


 ジュン子、中へ入る。


「終わってへん」


 低く。


「終わらせへん」


 平尾、目を上げる。


「……何ができるんですか」


 ジュン子は迷わない。


「証拠、集める」


 一歩。


「証言、守る」


 もう一歩。


「もう一回、捕まえる」


 平尾は初めて、少しだけ見た希望の色。


「……本気ですか」


「当たり前や」


 一拍。


「正義は、やり直し効くからな」


 病院、昼に近い朝。


 白い廊下は静かだ。


 美海は歩く。


 ドアを開ける。


 仙石幸昌と仙石守信の兄弟が座っている。


 沈黙。


 だが、前と違う。


 “空っぽ”じゃあない。


 病室の隅には、担当医と支援員が立っている。


 美海がゆっくり入る。


「……おはよう」


 幸昌は顔を上げる。


 少しだけ震えながら。


「……おはようございます」


 美海は一瞬だけ止まる。


 息を止める。


(戻ってきた)


 守信は小さく言う。


「……お母さんは」


 美海は担当医と支援員を見た。


 それから、二人へ向き直る。


 逃げない。


「亡くなった」


 一拍。


「でも」


 美海は二人を見る。


「君たちは、まだここにいる」


 幸昌の目に、涙が浮かぶ。


 でも、崩れない。


「……はい」


 美海は頷く。


「それでいい」


 ジュン子――平尾の前。


 美海――子供たちの前。


 二つの“正義”。


 どちらも必要だった。


 徳島の空に、朝の光。


 守るというのは、戦うことと同じくらい、続けることだ。


 The Next Mission

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