ACT.24 権力の子
夜、徳島県庁通り、雨上がり。
信号が、濡れた路面に滲んでいる。
黒い60系プリウスが、暴れるように車線を裂いた。
真月団による制御系改造車。
モーター出力も、足回りも、市販車のままではない。
キィィィィ!!
タイヤが悲鳴を上げる。
後方、青赤灯。
四台が、獣のように追う。
ガイアドルフィン。
GRカローラベース。
運転席の美海が、歯を食いしばる。
「逃がすな!」
隣車線には、ガイアオルカ。
C8コルベットベース。
リリの無線が飛ぶ。
《隊形B。一般車優先。無理に詰めない》
一拍。
《アニー、前へ。ジュン子、右を潰して》
ガイアクラーケン。
RZ34フェアレディZベース。
黒い鼻先が、獲物へ寄る。
ジュン子が低く言う。
「追跡継続。原菊ジュン子」
アクセル。
「現行犯で行くで」
アニーのガイアツナが、インへ飛び込む。
ロータリーエンジンが、軽く鋭く吠える。
「前出ます!」
プリウスの鼻先を読む。
通信にノイズ。
割り込む声。
翔。
《俺を捕まえたら――》
笑っている。
《親父も道連れだぜ。それでもいいのか!?》
一瞬だけ、沈黙。
ジュン子の瞳が止まる。
大阪にいる父。
警察幹部。
“組織には逆らうな”
“家を背負ってることを忘れるな”
幼い頃に触れた、警察章の冷たさ。
(うちも……“権力の子”やった)
現在。
プリウスが急旋回する。
タクシーの鼻先をかすめる。
「ジュン子!!」
美海の叫び。
一瞬の躊躇。
ある。
だが、消える。
「関係あるか!!」
ジュン子は踏み込む。
「親が何者でも――犯罪は犯罪や!!」
ガイアクラーケンが前へ出る。
車体が沈む。
トルクで、プリウスの横へ並ぶ。
美海が笑う。
「来たな」
四車が包囲を作る。
ガイアドルフィンが前。
ガイアオルカが左。
ガイアツナが後方。
ガイアクラーケンが右。
逃げ道を削る。
リリの無線。
《ボックス形成。押し出すんじゃない。逃げ場を削って止める》
翔が焦る。
「くそ……!」
ハンドルが乱れる。
ジュン子が並走しながら通信を開く。
「聞け、翔!」
一拍。
「親の名前は盾やない!」
さらに一拍。
「責任や!」
プリウスの進路が絞られる。
右。
左。
前。
どこにも逃げ場がない。
翔が無理にハンドルを切る。
キィィィィィ!!!
車体が振られる。
中央分離帯手前。
プリウスが斜めに滑り、停止する。
蒸気。
沈黙。
四台が周囲を塞ぐ。
「対象停止。全員、着化準備」
リリの声。
四人は一斉に、車内でスイッチに手を置いた。
上着を払い落とす。
下には、すでにアンダータイツ。
認証ラインが走る。
「ライズアップ!」
四人同時。
光が身体を走る。
装甲展開。
神経リンク起動。
HUD起動。
四人が降車する。
「徳島県警だ! 車から出ろ!!」
黒いプリウスのドアが開く。
四十谷翔が出てくる。
笑っている。
負け惜しみだ。
「お前も同じだろ」
ジュン子を見る。
「幹部の娘が」
ジュン子が一歩前へ出る。
「せや」
一拍。
「だから、止める側におる」
翔の顔が歪む。
「どうせ俺を殺せない」
拳銃。
ガチャ。
銃口をジュン子へ向ける。
「お前らの正義なんて――」
笑う。
「おままごとだ」
ジュン子はブラスターを構える。
「……あんたの」
低く。
「“親の名”を」
一歩。
「正義の免罪符に使わせん」
指が震える。
引き金に、かからない。
(撃て……撃てるはずや)
父の顔。
上司。
権力。
全部、過る。
身体が固まる。
翔が嗤う。
「ほらな」
引き金を絞る。
バンッ!!
銃声。
だが、翔の腕から血が飛ぶ。
「がっ!!」
銃が落ちる。
カラン。
撃ったのは、美海だった。
ブラスターを構えたまま、視線は逸らさない。
「正義を信じるなら」
煙が上がる。
「止まるな。でも、無理に一人で撃つな」
ジュン子の息が詰まる。
膝が、少し落ちる。
かすかに涙。
「……おおきに」
すぐに、顔が戻る。
ジュン子は踏み込む。
翔へタックル。
地面に押さえ込む。
「四十谷翔」
手錠。
カチッ。
「公務執行妨害、銃刀法違反、傷害の疑いで現行犯逮捕や」
翔は、なお笑う。
「終わらねえよ。真月団は――」
美海が遮る。
「それは次で聞く」
サイレンが近づく。
赤色灯。
ジュン子はまだ震えている。
美海が隣に立つ。
「最初から撃てる奴なんかいないよ」
間。
「でも、次は撃てる」
ジュン子は小さく頷く。
四人が並ぶ。
新しいチームみたいに。
アニーが小声で言う。
「……今、完全にヒーローでしたね」
リリが即答する。
「仕事よ」
美海。
「うるさい」
ジュン子は、少しだけ笑う。
そして遠く。
誰かが見ている。
神無月煉。
拍手。
「面白くなってきた」
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