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特殊警察ガイアスワット  作者: まとら 魔術
第4章「さらなる新隊員と幹部のせがれ」

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ACT.21 原菊ジュン子

 朝。


 徳島県警本部。


 ガラス張りの正面玄関に、光が差している。


 自動ドアが開く。


 ヒールの音。


 コツ、コツ。


 黒髪ロング。

 背筋は伸びている。

 スーツ姿。


 だが、どこか現場の匂いがあった。


 原菊ジュン子。


 受付の警官が一瞬、目を止める。


(なんだ、この空気)


 彼女は周囲を見渡す。


 静かすぎる。


「……ぬるいな」


 小さく呟いた。


 ガイアスワット課・会議室。


 ドアが開く。


 中には、後藤田美海、飯泉リリ、圓藤アニー、井上風見。


 空気が止まる。


「本日付で配属になりました――」


 一礼。


「原菊ジュン子や」


 間。


「よろしく頼むで」


 アニーが少し目を丸くする。


(関西弁……強い)


 リリが腕を組んだ。


「大阪府警からの出向。そう聞いてるけど?」


 ジュン子は即答した。


「出向ちゃう」


 一拍。


「飛ばされたんや」


 空気が一段、締まる。


「上司の不祥事、表に出しただけや」


 一歩、前へ出る。


「“内部で処理しろ”言われたけどな」


 肩をすくめる。


「そんなもん、警察ちゃうやろ」


 美海がニヤッとする。


「いいね。気が合いそうだ」


 リリの視線が鋭くなる。


「ここは大阪じゃないわ。勝手な正義で動かないで」


 ジュン子が笑う。


「勝手な正義やない」


 一歩、詰める。


「筋を通しただけや」


 沈黙。


 空気が張る。


 だが、井上が口を挟んだ。


「……いい」


 短く。


「現場で見せろ」


 地下駐車場。


 黒い車体。


 低く構えたRZ34フェアレディZベース。


 ガイアクラーケン。


 ジュン子が近づく。


 ボンネットを軽く叩く。


「よろしくな」


 ドアを開ける。


 乗り込む。


 ダッシュボードが淡く光る。


 起動待機。


「……ええやん」


 ジュン子は笑った。


「これで、腐っとるもん全部叩き直したる」


 徳島市内、屋台通り。


 着任初日の説明は、ろくに頭に入らないまま終わった。

 気づけば、夜だった。


「うっま……!」


 ジュン子が箸を止める。


「徳島ラーメン、最高やん……!」


 その直後だった。


 遠くで、怒号が聞こえた。


 ジュン子の目が変わる。


「……あーもう」


 箸を置く。


「飯の時間、邪魔すんなや」


 ネオン。


 濡れたアスファルト。


 酒の匂い。


 男が倒れている。


 平尾達郎。

 “あの店”の件で、四十谷に目をつけられていた男だった。


 息が荒い。

 口元に血。


「やめ……」


 言葉が続かない。


 その前に立つ影。


 四十谷翔。


 高そうなジャケット。

 整った顔。


 だが、目だけが冷たい。


「なに?」


 軽く首を傾げる。


「まだ喋れんの?」


 笑う。


 足が上がる。


 ドンッ!!


「ぐっ……!」


 平尾の身体が跳ねる。


「調子乗んなって言ったよな」


 四十谷は見下ろす。


「“あの店”、誰のもんか知ってる?」


 蹴り。


 横腹。


「ぐあっ!」


「知らんのに、偉そうにするからや」


 少し離れた場所に、人影。


 スマホ。

 動画。

 誰も止めない。


 関わりたくない。


 その空気だけが、そこにあった。


 一人の若い巡査が立っている。


 拳を握る。


(止めないと)


 一歩、踏み出す。


「やめろ!」


 声は震えていた。


 四十谷が、ゆっくり振り向く。


 目が合う。


 一瞬。


 空気が変わる。


「……あ?」


 近づいてくる。


 ゆっくり。


「お前、誰だ」


 巡査は名乗る。


「徳島県警――」


 その瞬間、四十谷が笑った。


「ああ」


「“うち”のやつか」


 一歩、さらに詰める。


「親、誰か分かって言ってる?」


 巡査が止まる。


「県警本部の警視だぞ」


 低い声。


「生活安全部の幹部だ。お前の署にも話が通る」


 さらに、笑う。


「お前、名前覚えたからな」


 巡査の喉が鳴る。


 無線に伸ばしかけた手が、止まった。


 署の廊下で聞いた名前。

 先輩たちが、声を落として話していた名前。


 “揉めるな”。


 その言葉が、頭をよぎる。


 平尾が、かすかに手を伸ばす。


「……たすけ……」


 その手が震えている。


 巡査の視線が揺れる。


 四十谷は、ため息をついた。


「ほら」


 巡査の肩を叩く。


「見て見ぬふり、得意だろ?」


 笑う。


「それが正解さ」


 巡査は動けない。


 拳が、ほどける。


 ドンッ!!


 さらに一撃。


 平尾の身体が跳ねる。


「……っ」


 声にならない。


 四十谷は靴を払う。


「もういいよ」


 振り返る。


「死なない程度にしてやる」


 去っていく。


 静寂。


 巡査は立ち尽くす。


 目の前には、倒れている男。


 救急要請だけでも。

 無線だけでも。

 それすら、遅れた。


(……俺は、何もしてない)


 遠くでサイレンが鳴る。


 遅い。


 あまりにも。


 ネオンが点滅する。


 その下で。


 “正義”は、何もできなかった。


 その少し先。


 屋台の前で、ジュン子が立っていた。


 箸は、もう置かれている。


「……腐っとる匂いがするな」


 彼女は、ネオンの方へ歩き出した。


 The Next Mission

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