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特殊警察ガイアスワット  作者: まとら 魔術
第3章「警部補 圓藤アニー」

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ACT.14 カーチェイス

 サイレンが、銀行前で止まる。


 赤色灯が、割れたガラスに反射した。


 ドアが開く。


 後藤田美海。

 飯泉リリ。


 二人は車を降りた瞬間、現場を見た。


 床に血。

 転がる拳銃。

 押さえ込まれた犯人。

 怯えてうずくまる客たち。

 そして、その中央に立っているアニー。


 リリが短く言う。


「確保、完了ね」


 美海は答えず、まっすぐアニーの前まで歩いた。

 視線が、腕の傷に落ちる。


「……やったじゃん」


 救急キットから簡易止血パッドを抜き取り、傷口へ押し当てる。

 手早く巻いて、最後だけきつく引いた。


「浅い。乗れるなら来て。無理なら残って」


 一拍置く。


「今の判断は悪くない」


 その一言で、アニーの呼吸が少しだけ緩んだ。


 ――だが。


「でも」


 美海の声が変わる。


「遅い」


 空気が締まる。


「……!」


「銃向けられてから動いてる時点でアウト」


 淡々と言う。


「撃たれてたら終わってた」


 横からリリが続けた。


「あと、詰めが甘い」


 顎で外を示す。


「一人、逃げてる」


 その瞬間だった。


 外からタイヤの甲高いスキール音が響く。


 黒いワゴンが、銀行前から急発進する。

 スバル・VNH型レヴォーグ。

 ナンバーは泥で潰されていた。


「逃走車両!」


 制服警官の怒鳴り声。


 美海の目が細くなる。


「……あれ」


 リリも外を見た。


「装備が揃いすぎてる。逃走車まで用意済み」


 視線が、割れたガラス、捨てられた武器、逃走車の消えた方向をなぞる。


「連携も妙にいい」


 短く息を吐く。


「真月団の線、あるわね」


 美海はすぐ無線へ手を伸ばした。


「副課長」


 《了解》


 久保舞の声が即座に返る。


 《対象車両、広域逃走に移行。特殊追跡装備、第三種展開を許可する。致死モード禁止。対象は生かして確保》


 リリが踵を返す。


「行くわよ」


 三人が同時に動いた。


 銀行前の規制線の外側。

 すでに待機していた専用車両へ駆ける。


 ガイアドルフィン。

 ガイアオルカ。

 ガイアツナ。


 ドアを開け、滑り込む。


 シートに身体が収まる。

 ダッシュボードが点灯する。

 認証。同期。展開準備。


 スーツインターフェース起動。


 アンダータイツのラインが淡く発光する。


「ライズアップ」


 三人の声が重なった。


 車内で装甲が展開する。

 光のラインが肩、胸、腕、脚へ走り、分割装甲が身体を包んでいく。


 緑。

 紫。

 そして、オレンジ。


 美海がアクセルを踏み込む。


「ドルフィン、前に出る!」


「オルカ、右から圧かける!」


 リリが応じる。


 アニーはハンドルを握り直した。

 巻かれた止血パッドの下で、傷が脈打っている。


「……っ」


 痛い。

 でも、意識は切れていない。


 美海の声が無線に乗る。


「アニー」


「はい!」


「その腕、持つ?」


 短い問いだった。


 昨日の夜。

 何もできなかった自分。

 今朝。

 選んで動いた自分。


 アニーは前を見たまま答えた。


「……行けます」


「なら来て」


 それだけだった。


 アニーは深く息を吸い、スタータースイッチを押す。


「……ガイアツナ、起動」


 エンジンが吠えた。

 軽く、鋭く。

 車体が、一瞬で前へ出たがる。


 今度は迷わない。


 アクセルを踏み込む。


 オレンジの車体が弾けるように飛び出した。


 朝の幹線道路。


 黒いVNHレヴォーグが、車列を裂いて走る。


 ブレーキランプが断続的に点滅する。

 クラクション。怒号。乱反射する朝の光。


 その後ろを、三台のガイアマシンが追う。


 先頭にガイアドルフィン。

 右後方にガイアオルカ。

 そのわずかな隙間を縫うように、ガイアツナが食らいつく。


「ドルフィン、後方クリア!」


 美海の声。


「オルカ、右から圧かける!」


 リリが並走しながら応じる。


 三台の連携。

 即席だが、迷いがない。


 アニーは前方のレヴォーグだけを見ていた。


「……速い」


 自然に言葉が漏れる。


 あの動き。

 無駄がない。

 逃げることに慣れているラインだ。


 美海が低く呟く。


「……やっぱりだ」


 リリが続ける。


「ただの強盗じゃない」


 《久保舞より各車両》


 無線が割り込む。


 《対象は資金ルート担当の可能性が高い。致死モード禁止。生かして確保》


 アニーの喉が鳴った。


 視界の端には、歩行者。

 一般車両。

 朝の生活。


 判断が連続で迫る。


 止まる暇はない。


(止める? 追う? 撃つ? 撃たない?)


 頭の中で選択肢が散る。


 けれど。


「……行く」


 小さく呟く。


 アクセルを踏み込む。


 ガイアツナが応えた。

 迷いなく。


 信号を抜ける。

 交差点へ進入。

 左。

 ブレーキを残さず、鼻先だけを入れる。


(前に出る)


 それだけだった。


 川面が黒く光る。

 鉄橋へ入る。

 金属音が反響する。


 レヴォーグがさらに加速する。


「対向、来るわよ!」


 リリの声。


 その瞬間、レヴォーグが対向車線へはみ出した。


 真正面。

 タクシー。


「な――!」


 ドンッ!!


 衝突音。

 ガラスが飛ぶ。

 レヴォーグの車体がスピンする。


 その先。


 歩道。


 立ち尽くす子供。


 時間が一瞬、引き伸ばされた。


 音が遠のく。


(……選べ)


 アニーの両手が、もう先に動いていた。


 ハンドルを強く切る。

 アクセルを残す。


 リアが流れる。

 ガイアツナの尻が滑り出す。

 横へ。

 さらに横へ。


 弧を描きながら、オレンジの車体が歩道際へねじ込まれる。


 ドンッ!!


 軽い衝撃とともに止まった。


 子供の目の前で、ガイアツナが盾のように止まっている。


 一瞬の静寂。


 子供の目。

 涙。

 だが、無傷。


(……生きてる)


 アニーはすぐ顔を上げた。


 逃走車。

 まだ動いている。


 運転席のドアが開く。

 犯人が降りてくる。

 拳銃。

 構える。


 アニーもドアを蹴るように開け、外へ出た。


 一歩。


 踏み込む。


 距離を詰める。


 銃口が上がる。

 引き金に指がかかる。


 アニーは膝を突き上げた。


 ガンッ!!


 拳銃が弾かれ、宙へ跳ねる。

 回転しながら路面に落ちた。


 アニーは右腕を構える。


 ガイアブラスター。

 腕部装甲の内側でエネルギーが収束する。

 照準補助の光が、犯人の胸で止まった。


「アニー!」


 美海の声が飛ぶ。


「非致死で落として!」


 照準。

 胸部中央。

 呼吸。


 引き金にかけた指が、わずかに止まる。


(ここで撃てば終わる。でも――)


 アニーは小さく息を吐いた。


「……殺さない」


 引き金を引く。


 閃光。


 だが、光弾は貫かない。

 非致死設定の拘束・鎮静弾が胸部へ着弾する。


 犯人の身体が揺れた。

 膝が落ちる。

 そのまま路面へ崩れた。


 静かに倒れる。


 遅れて世界の音が戻る。


 サイレン。

 怒号。

 無線。

 割れたガラスを踏む音。


 犯人がかすれた声を漏らした。


「……なんでだよ……」


 涙声だった。


「なんで撃たなかった……」


 アニーはブラスターを下ろす。

 少しだけ息を吐く。


「ここで終わりです」


 一歩、近づく。


「生きたまま吐いてもらう」


 その背後でパトカーが到着する。

 制服が飛び出し、現場を囲む。

 規制線。怒号。確保。


 美海の声が聞こえた。


「……今の」


 一拍。


「悪くない」


 リリが横につく。


「でも、まだ甘いわね」


 アニーは少しだけ笑った。


「はい」


 その返事には、もう迷いがなかった。


 オレンジの車体が、朝の光の中で静かに熱を持っている。


 The Next Mission



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