表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特殊警察ガイアスワット  作者: まとら 魔術
第2章「真月団の挑発」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/14

ACT.10 救出

「また会おうぜぇッ……!」


 血の混じった唾を撒き散らしながら、神無月煉は狂ったように笑った。

 直前に仕込まれていた小型の爆薬が、天井の梁を砕いた。

 天井裏の古い配線に偽装していた。

 あらかじめ用意されていた逃走経路。神無月は、それすら“演出”に変える男だった。

 爆音と共に天井が崩れ、スモーク弾が撒かれる。

 彼の姿は黒煙に飲まれ、跡形もなく姿を消した。残されたのは焼けた金属臭と、血に濡れたコンクリの床。

 焼けた鉄骨がまだかすかに熱を帯び、冷気と蒸気が交じり合っている。


 後藤田美海は、無言のまま煙の奥を睨んでいた。


「逃げられたのね……」


 飯泉リリの声が背後から届く。

 片膝をつく美海は立ち上がる、肩口から火花が散った。


 そのとき――


「鑑識班、進入します!」


 無線越しの声とともに、白衣を着た鑑識隊員たちが駆け込んできた。

 廃工場の床には黒く焦げた薬品跡、焼け落ちた天井の断熱材が散乱している。

 一人の鑑識隊員がしゃがみ込み、鉄板に焼きついた足跡の石膏採取を始めた。


「関節軸の素材……カーボンじゃない。これは……チタンセラミック複合材。しかもナノレベルの多孔構造。民間市場にはまず出回らない」


「軍用等級ってこと?」


「ああ。おまけに精製ナノ素材。下手すりゃ、自衛隊でも使ってねぇ代物だ」


 美海は黙って頷いた。

 そんな美海に、飯泉リリが歩み寄ってくる。


「――ふぅ、やれやれね」


 疲れたように一度息を吐き、リリはガイアスーツのマスクを外すと、額にかかる前髪を指で払った。


「……美海、あなたとは……良いコンビになりそうね」


 美海は意表を突かれたように視線を上げる。


「えっ?」


「なによその顔。褒めたのよ、これでも」


 少しだけ口元を緩め、リリは背中越しに歩き出す。


「ただし。今度からは――最初の突入は私にやらせなさい。あなた、突っ込みすぎよ」


「……了解、隊長」


 夕焼け色の光が、崩れかけた廃工場の割れた天窓から差し込んでいた。

 床の上には拘束された真月団の団員たち。手錠の音が静かに響く。


 焼け焦げた空気と、冷たい鉄の匂い――

 その中に、確かに微かだが“正義”の手応えがあった。


 薬品の臭いがまだ立ちこめる廃工場の一角。瓦礫と煙が交じり合い、懐中電灯の光だけが壁を揺らす。


「ここか……!」


 重たい鉄扉を蹴破ったのは、後藤田美海である。ガイアスーツの胸部が、点滅する赤い警告灯に照らされて、不穏に輝いている。

 中は狭い鉄格子の牢だった。手錠と足枷に繋がれ、三輪巡査がうずくまっている。


「……あっ……後藤田さん……!」


 顔を上げた三輪巡査の声は、擦れた、涙まじりの嗚咽だった。青あざと血が滲む頬には、執拗な拷問の痕が生々しい。


 美海は無言で手を伸ばし、制御装置にナノブレードを突き刺す。


「もう……大丈夫。あなたはもう、独りじゃない」


 電子錠が解除されると同時に、美海は三輪巡査を両腕で抱き上げた。彼の目に涙が溢れる。


「……警察、辞めようかと思ってたんです……」


 美海は黙ってうなずいた。だがその瞳は、かつての自分を映すように、どこか揺れていた。


「ボクも昔、誰かに助けられた……顔も、名前ももう覚えてないけど、手の温もりだけは覚えてる。守られた痛みを、守る力に変える。それが、ボクの“正義”なんだ」


 美海のガイアスーツが微かに軋む。背後からエンジン音が再び響いた。


「隊長!」


「こっちは片付いたわ。あんたこそ……イイところ持ってくじゃないの!」


 飯泉リリのガイアオルカが、戻ってくる。後ろには、縛られた他の団員たちが列をなしている。

 三輪巡査の手が、美海のスーツ越しに震える。

 光が差し込んだ瞬間に三輪の泣き顔。


「……また、現場に戻れますか……?」


「戻れる。あなたが“守られた”事実を忘れなければ」


 煙の向こうで、神無月煉の不敵な笑みだけが脳裏に焼きつく。


「また会おうぜ、“正義”の諸君……」


 がらんどうのアジトに風が吹き込み、折れた梁がきしみ、廃墟の静けさが再び支配し始めた。


 翌朝、徳島県警本部。空は厚い雲に覆われ、庁舎の屋上に打ちつける雨が、昨夜の戦いの痕を洗い流す。


 後藤田美海は静かに屋上の手すりに身を預けていた。目を閉じれば、まだ三輪巡査の涙のぬくもりがスーツ越しに残っている気がした。


「美海」


 背後から、飯泉リリが声をかけてきた。缶コーヒーを2本、無造作に差し出す。


 美海は受け取った缶コーヒーを強く握りしめ、小さく首を振った。


「……ありがとうございます……でも、まだ胸のざわめきが消えなくて」


指先が、かすかに震えていた。


「当然よ。あいつ……神無月煉。逃げたままよ。次に現れるときは、もっと大きな何かを背負ってくる」


「ええ。あの目、完全に“覚悟”していた」


 雨の音が二人の沈黙を埋めた。


「でも私は――もう、立ち止まらない。あの子たち(仙石兄弟)も、いつか口を開く。真月団の闇の中で見たものを」


 リリは黙ってうなずくと、振り返りざまに言った。


「あいつ、また来る。今度は“正義”の皮を被って、こっちを試すつもりよ」


 場面は変わり、ある廃駅跡。朝日が昇りかけたホームに、鉄粉と油の混じった空気が立ち込めている。


 誰もいないはずの暗がりから、コツン、と靴音が鳴った。


 薄暗い改札前。傘もささず、神無月煉が立っていた。黒いフードに隠れた目は、雨粒を受けながらも、確かに笑っていた。


「やっぱりさ……警察って、いい面してやがる」


 脇には、研究者風の女が立っていた。白衣のポケットに、徳島県警のIDカード。


「“Z因子”の抽出は完了。ナノ触媒も有効量確保済み。次は……選別ね」


 神無月は顎を上げる。


「じゃあ、“正義”を晒すゲームの始まりだ」


 背後の壁には、スプレーで赤く書かれた言葉。

 それは「Justice=Joke」と描かれていた。


 神無月が懐から一枚の写真を取り出す。それは、若き仙石兄弟の一枚だった。


「この子らに選ばせてやろう……“守られる幸福”か、“壊す自由”か」


 朝の徳島駅前。曇天の下、人々が行き交う中、一台のタクシーが滑り込む。

 トランクには東京警視庁のタグ。ドアが開き、オレンジのポニーテールがふわりと揺れた。


「ついに来ちゃった……徳島。ていうか、警部補がこんな地方の特殊部隊って…………マジかよ、これが“キャリアの現場”? 聞いてないってば……」


 圓藤アニー。警察庁キャリア組、階級は警部補。

 彼女はまだ知らない。――この地方都市で、自分が何と向き合うことになるのかを。


The Next Misson

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ