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十八話 東海探題の領国帰還

 永禄十一年、義輝が京を奪回した年に朝廷より改元の内意があり改元が行われた。戦乱が続いた為であったが将軍が帰還した事を機に戦が続かぬことを願っての事であった。式部大輔を勤める高辻長雅が勘申を行い{元亀}となった。三好三人衆は粘り、芥川山城より退いたが飯盛山城を中心に河内を抑えていた。紀伊より畠山、摂津の国人領主たちと朝倉勢、六角勢が攻めていても崩れる事無くひたすら守りを固めていた。


 その頃今川勢は領国に引き上げを終えていた。帰国したのは同盟を結んでいる北条より里見との戦いでの援軍を求められた事と伊勢長島で一向一揆と旧織田家臣たちとの衝突が起き一向一揆の反撃で古江木城が攻め落とされるなどしたため、東海探題として事に当たりたいと将軍義輝に申し出ていたのであった。将軍家も今川が京で存在感を増すことに懸念があり幕臣たちは歓迎し、義輝も丁寧に義元に礼を尽くして送りだしたのであった。


 管領代の六角も今川の帰還に内心安堵しており円満に畿内から抜け出すことが出来たのであった。


「上手く抜け出せたの、一向宗も偶には良いことをするものであるな」


 義元がニヤリと笑う。


「真に、長島の連中にはしこたま礼を弾まねばなりますまい、鉛の弾で」


 朝比奈信置が得たりと答える。


「そうだな、そう言えばこの件を石山の顕如に抗議したら{我関せず}と言いおった。食えぬ奴じゃ」


 そう言って義元は傍にいる元康に向く。


「次郎三郎(元康)は尾張衆を率い長島を攻めよ。北伊勢の国人衆で長島の味方をする者も叩いてよい。公方様のお墨付きじゃからの」


 六角とも談合が済んでおり梅戸や千種等六角所縁の国人達もその時は一緒に攻める話になっていた。


「承知いたしました、御屋形様はこのまま駿府へ?」


「うむ、氏真もよくやっておるからの賞してやらねばの」


「最近は武田も手詰まりの様、お気を付けください」


「確かにの、油断せぬようにせねば」



甲斐国 躑躅ヶ崎館


「ええい、忌々しい!」


 武田信玄は手に持った扇子で膝を叩いた。乾いた音が館の広間に響く。


「御屋形様、落ち着きなされませ{大将たる者、静以って幽}とも言いますぞ。


 宿将馬場美濃守が窘めた。


「判っておる、北信濃も上野も上手くいかぬのでな。少し滅入ったのよ」


「手合いを変えるのも一興ですが」


 もう一人の宿将内藤昌豊が口を挟んだ。


「むう、確かにな、となると南じゃが…」


 馬場美濃守が言い淀む。


「美濃守殿、某に遠慮は無用ですぞ。叔父御の事はやむを得ぬ事と思うております」


「そうか、相済まぬな三郎兵衛尉、御屋形様、武田の取るべき道はもはや南(駿河)しかありませぬ」


「うむ、覚悟を決めるか、三郎兵衛尉よ、暫く辛抱してくれい、兵部の頭が冷えたら又召しだす故に」


 信玄が言うと三郎兵衛尉こと山県昌景は頭を下げるのであった。



甲斐国 東光寺


 永禄九年にこの寺に信玄の嫡子である義信が謹慎している、理由は父である信玄が家督をいつまでも譲らないため信玄に抗議して勘当されたからであった。廃嫡されると言う話もあったが後継者選びが難航しているため現在は沙汰止みになっている。


「成程、自重せよと?」


「は、このままでは義信様は廃嫡されお方様も危うくなるでしょう。飯冨殿や穴山彦八郎殿も同じく。そうなっては御仕舞です」


「…」


「生きてこそ又浮かびましょう、その時には氏真様も御味方いたします」


「判った、妻や子らの為に生きようぞ」


 義信は動くことはなくそのまま過ごすのであった。



駿河国 今川館


「では、義信殿は自重を約束してくれたか」


 密かに送っていた使者からの報告を受け義元は安堵していた。正室に入っていた娘が嘆く事にならずに済んだ安堵と武田家中に親今川派を遺すことが出来たという理由での安堵も含まれていた。


「はっ、ですが義信殿とその家臣が逼塞した事で駿河へ侵攻を主張する者の勢いが増し信玄公もその気になっておるとか」


「で、あろうな、ならば甲斐との境、守りを固めねば」


「直ちに」


 義元は溜息をつき、傍にいる氏真を向く。


「北条からの頼みで里見攻めの援軍を出さねばならぬ。大将には氏真を宛てようと思っておる」


「なんと、某自身が出向くのですか?」


「そうだ、其方も東海探題を継ぐ者、戦場での武功無くば誰もついては行かぬだろう」


「そうでした、お任せください、必ずや今川家当主として働きまする」


 こうして氏真は兵を一万従えて北条へ援軍として立った。その軍勢が駿河を出立しているのを冷めた目で見ている者がいた。


「今川の雛鳥が行ったか、好機であるな。御屋形様に言上いたすとするか」


 今川家が敵味方を区別するために笠験(かさじるし)として使っていた今川赤鳥から氏真を雛と例えた人物は菅笠を深く被った姿から顔は見えなかったがその口角は上がっていた。


 踵を返し向かう道は北に繋がる道、甲斐に向かう道であった。




※今川赤鳥は女性の使う櫛を意匠としている物ですが笠を被った人物は其れを知ったうえでもじって例えています。



なおこの小説はフィクションであり登場する人物・団体・組織等は完全な架空の存在です。


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タイトルは武田関係とかになると思います
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