十六話 山科の戦い
なおこの小説はフィクションであり登場する人物・団体・組織等は完全な架空の存在です。
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山科に布陣した三好方であったが、深刻な状態に陥っていた。
「領国からの兵の集まりが悪いだと」
「それと摂津や河内の国人達が集まりませぬ、中川も、池田も和田も病などを理由にして参じませぬ」
「おのれ、臆病風に吹かれおって、大方大樹公から手紙が来て味方せよ言ったのであろう」
三人衆の一人三好長逸が忌々しそうに吐き捨てると、三好宗渭も悔しそうに言う。
「山科を挟んで敵軍が集まっておらねば皆城ごとすりつぶしてくれよう物を!」
二人の激高ぶりを見て逆に冷静さを取り戻したのか岩成友通が二人を窘める。
「それはこの戦の後で考えましょう、まずは山科の向こうに居る六角、今川を何とかしませんと」
「…そうであった。ここを凌げば奴ら等何ほどもない友通、済まぬな」
長逸が謝罪し、三人は具体的な対策を練るのであった。
□
山科は近江から京へ入る入口に当たる場所である。嘗ては本願寺が広大な伽藍を築いてたのだが、天文の錯乱という法華一揆と一向一揆の争いの中で徹底的な焼き討ちにあいこの時は伽藍の跡が残るのみであった。さして要害の地でも無いがここを越えられると都となるのでここで三好は食い止めなければ総崩れになる恐れがあった。
「三好は数こそは揃えておりますが摂津や河内の国人達の動向が定かならず浮足立っているのは間違いありません。ただ三人衆や阿波から援軍として来ている篠原らの戦意は高いものと思われます」
南陽坊の報告は相変わらず正確だ。服部衆に調べさせても判らない部分も細かく調べてくる。雪斎師匠が京の建仁寺や妙心寺に居たので南陽坊率いる坊主衆はこの辺りに強いコネクションを持っている訳だな。
「なるほどな、彼らを打ち砕くことが出来れば軍勢は瓦解に追い込めるな」
早速忠勝や康政達に情報を伝えよう。
そして翌日進撃する六角、今川軍は三好と激突する。
事前に六角と今川どちらが先陣を切るか話し合われたが、どちらも先陣を望んだため折衷案として両軍が右と左に先鋒を布陣して攻めることとなった。六角側の先鋒は蒲生、今川方は徳川である。
「忠勝、先鋒は任せる。敵陣を切り裂け」
「承知!腕が鳴りますぞ」
「一益、敵陣の度肝を抜いてやれ。忠勝と蒲生勢に切り裂かせる」
「お任せを」
滝川一益は今川が織田領に侵攻した時今川に従う選択をした。これには驚いた。一益は信長の小姓をしていた池田恒興と縁戚と言う話だし桶狭間で討ち死にした前田利家の兄に一族が養子に入ってたのにだ。
本人に尋ねたら一族を養うのに心苦しいが今川に付くと言ってたのでそこは逆に信頼できた。下手なお追従は信頼できないし、南陽坊たちの調べでも怪しい所は無いので所領を安堵して配下にした。鉄砲に詳しいので得難い人材だ。
「敵勢、動きました!」
本陣詰めの榊原康政が声を上げる。
「良し!忠勝に合図を送れ、兵を進めさせろ。一益、敵陣にあれをお見舞いしろ」
「承知!火蓋を切れ、打ち込むぞ!」
一益の合図で兵が導火線に火を付ける。
「棒火矢放て!」
筒状の発射機に収められた棒火矢の後ろから火が付き火薬の推進力で飛ばされた棒火矢は空気を切り裂くような独特な音を響かせながら敵陣に飛んでいきそこで弾けた。轟音と中に詰まって居た物を飛び散らせながら。
□
うん、うまく敵陣で棒火矢は爆発したようだ。これは打ち上げ花火を改良して作ったもので戦場で大きな轟音を出して敵を動揺させ更に先端部に詰められた先の尖った小石をばら撒くというものである。本来なら鏃みたいなものを詰めた方が効果は高いと思うがこの時代は鉄も貴重品なので石工たちが石を加工するときに出る砕けた小石を集めて作った。それでも十分効果は出るのは確認したしね。この時代は盾を持って戦う物は居ないからこんなの飛んできても防ぐのは難しい、まして甲冑も持たない雑兵はひとたまりも無いだろう。
「敵陣崩れたぞ、掛かれ!掛かれ!」
忠勝の激が聞こえ敵陣に雪崩れ込んでいく。この衝撃で三好方は完全に浮足立ち六角勢に対峙していた者たちも蒲生勢に押されて完全に前線が崩壊している。
「殿、三好勢引いていきます、御味方大勝利ですな」
一益が晴れやかにやって来た。
「うむ、山科より三好勢を叩きだしたら一度兵を引かせよう、深追いは禁物だからな」
「ですな、使番を差し向けます」
一益有能だな。スカウトして正解だった。
「御注進!」
使番が慌てて駆け込んできた。どうした?
「前田慶次殿敵陣に一騎駆け!本多勢を追い越しております!釣られて本多勢突出!」
「な!慶次め~、殿申し訳ありませぬ、連れ戻します!」
そういや一益の甥の慶次郎も付いてきてたんだっけ。前田利家が戦死したから荒子の前田家は敵対するかと思ったが当主の利久は当主の座を慶次郎に譲って隠居で手打ちを願って来たんで受けたんだった。あいつなら一騎駆けはやるだろうなあ。
「一益頼む…」
慶次に煽られて忠勝も突撃しちゃうしどうすりゃいいのよ。
俺は天を仰ぐのであった。




