●ダイオウイカ
再び、社長からの再渡航の命令を受けて戻ってきた高橋課長。
その顔を見て、佐藤主任もすぐに察する。
「またっすね」
「また、だな」
「いつまで続くんですかね」
「社長が飽きるまでだろ」
「いつ飽きるんすかね」
「一応、生きて運べた種をカウントしてるらしい。百五十万いくつくらいっつったかな」
「百五十万!?」
「生物と一緒に持ち帰った海水中の微生物がほとんどだ」
「ああー」
「わざわざ、自動で培養してDNA分類までする機械まで自作したらしいぞ」
「社長の情熱はどこに向かってるんでしょうね」
「それはともかく、俺の情熱は、お前への罰ゲームに向いている」
「は? 罰ゲーム?」
「海草対決」
「まだ覚えてたんすか」
「お前をおもちゃ――お前に試練を与えるという大切な上司の仕事を忘れるわけが無いだろ」
「おもちゃって言いましたね、絶対言いました」
「とにかく罰ゲーム」
「……なんなんすか」
恨めしそうに佐藤主任は高橋課長を見上げる。
「ダイオウイカって知ってるか?」
「ふざけんな死ね!」
「あれって、獲るの難しいんだよなあ」
「イカの寄生虫にやられて死ね!」
「引き上げるとたいてい死んでるらしいぞ」
「ダイオウイカの触椀首に絡めて死ね!」
「ああ、一応獲ってくるつもりはあるんだな」
「うっせーお前なんか上司じゃねー!」
「じゃあ、頼んだ」
***
「獲れた」
巨大な水槽の中を漂う、三体の巨大なイカ。
「どうやった」
「潜水艇とバキューム水槽を比較的浅海用に改造して超パワーアップ。また十億クレジット飛んでいきました」
「ああ、なるほどな。センサーで見てたらありえないような水中機動してたもんな」
「どうっすか」
胸を張る佐藤主任。
「いや、ここまで見事に罰ゲームをこなされると思ってなかった」
「でしょう」
「つまらんやつだな」
「どうしてっすか」
「もっと悩み、悲しみ、怒り、嫉み、ありとあらゆる負の感情を爆発させるお前が見たかった」
「やっぱりおもちゃ扱いじゃないっすか」
今度ばかりは、腕を組んでぷんぷんと怒りをあらわにする。
「で?あの水槽、シャトルに積めるのか?」
「ふえ?」
「標準コンテナサイズより大きいぞ、明らかに」
「……考えてなかったっす」
「……この際、ダブルコンテナサイズの標準化でもするか」
「えーと、僕は……」
「お前がやると計算間違いするから邪魔するな」
「はい」
結局佐藤主任はやり込められて小さくなる。
「それはそうと、あの潜水艇の水中機動はすごかったな、新しい商材になるかもなあ」
「二十億クレジットですよ、原価」
「無理か」
「無理っす」
「じゃ、俺にちょっと任せてみろ」
「無理だと思いますけどね」