第26話 ヒュースターの被害!
ムーチーはクライシスについて行き、研究所に入ると中は騒然としていた。
「早く!」
「これで応急処置して!」
「あわわぁ。」
その混乱の中心にいるのはオーウェドさんだった。
「オーウェドさん!大丈夫ですか?」
近づくと体で見えなかった左腕が見えた。
「そんな……、肘から先が……。」
オーウェドの左腕は肘から先が無く、自分の氷魔法で凍らせていた。
今治療中なのは、太ももの切り傷にポーションを掛けている。
「ムー、これが現実だ……。君を呼んだ理由はついて来てくれ。」
クライシスに言われるがまま後をついて行った。
奥の部屋には村長とは別のゴブリンがいた。
「肌の色が……紫?」
ムーチーは衝撃が隠せなかった。
《ガンッ。》檻に体当たりをして、2人を威嚇してきている。
「私たちの予想は……変異種ではなくヒュースターだ。」
ムーチーはクライシスを見た。
「確証はない。でもゴブリンの肌は基本緑色、そして左耳を見て。」
言われた先を見ると耳には大きなイヤリングがついていた。
「モンスターがイヤリングなんかつけるわけがない、それもゴブリンが……。」
クライシスが言い切った。
『クースさんの言っていることは正しい。ただ、僕はなぜここに?』
ムーチーの困った顔を見てクライシスは本題に入った。
「ギルマス命令だ。特殊スキルを試してくれないか?」
ムーチーは固まった。
◆◇
「ムー……、大丈夫かい?」
クライシスに声を掛けられ、我に返って頷いた。
『昨日、ギルマスから追加で言われたクエストだ……。』
「そういえばシンク村で見つけた皆にスキルは使ったのかい。」
ムーチーには目から鱗の情報だった。
「考え着きもしなかったです……。」
しょぼくれたムーチーを見て、クライシスは失笑した。
「じゃあ、先に村長ゴブリンで試してみよう。」
クライシスは気楽に声を掛けた。
「あの、オーウェドさんは……。紫のゴブリンはどこで見つかったのですか?あと、他の騎士団の人達は無事ですか?」
一気にこみ上げた思いをクライシスにぶつけた。
そんな必死なムーチーに微笑み、優しく答えた。
「新たな犠牲の村だよ。きっとムーとは関係ないよ。」
そっと慰めて、隣の村長ゴブリンの前に移動した。
「さぁ、ためしてごらん!」
ムーチーは困って、クライシスへ視線を向けた。
「まさか、使い方が分からない……とか?」
ムーチーは少し悩んでから困ったように頷いた。
「心の中で特殊スキル、で名前を順に唱えた後、発動ってだけ言えば大丈夫のはずだよ?最初だから上手くいくかは分からないけどね?」
クライシスはウインクで場を和ませた。ムーチーはクライシスの言葉を思い出し、右手を突き出しながら心の中で唱えた。
『”特殊スキル:判別取得”。』
「発動!」
すると突き出した右手の前にどこからともなく、紙がひらりと現れた。
不思議に思いつつ、掴んだ。
「意外な結果だね、わくわくの中身だね。」
クライシスは目を輝かせ、ムーチーの右手を凝視している。
ムーチーは不安になりながらそっと右手を開いた。
――――
・種族:ゴブリン
・出身:シンク村
・名称:村長
・■□:■□■□
・■□:■□■□
――――
「一部文字化けしているけどそれは使い続けるか、能力が上がれば分かるってことかな?」
クライシスは考えながらギルドカードを取り出した。
――――
ギルマスへ
・ムーの特殊能力を村長ゴブリンで試した。
――――
・種族:ゴブリン
・出身:九弾村
・名称:村長
・■□:■□■□
・■□:■□■□
――――
・一部文字化け。
クライシス。
――――
「さて、ギルマスに送ったからこれで起こられないぞ?ムー、本命だ!」
隣の紫ゴブリンの前に移動した。
◆◇◆◇
前で威嚇する紫のゴブリンを前に、深呼吸をして右手を前に出した。
『村人じゃありませんように……。”特殊スキル:判別取得”。』
「発動!」
また紙がひらりと現れたので掴んだ。
ムーチーは右手をずっと見て、内容を見るか悩んでいた。
「ムー、悩んでも仕方ない!」
クライシスは強制的にムーチーの手を開いた。
――――
・種族:ゴブリン(亜種)
・出身:シンク村
・名称:■□■□
・■□:■□■□
・■□:■□■□
――――
「ほら、よかったじゃないか!クダン村は5つ目の被害の村だな。他にもヒュースターになりたてがいるかもしれない!」
被害者が出る前に報告をとクライシスはすぐにギルマスへ再度メッセージを送った。
――――
ギルマスへ
・紫のゴブリン。
――――
・種族:ゴブリン(亜種)
・出身:シンク村
・名称:■□■□
・■□:■□■□
・■□:■□■□
――――
・親しいと見える範囲が違う可能性あり。
・クダン村にはまだ、ヒュースターになりたてがいるかも。
クライシス。
――――
ギルマスは2つのメッセージを見て、すぐにユウラの取りに内容をそのまま書いて送った。
「やはり、彼は役に立つな……。」
「ギルマス、ヒュースターの被害が出たのに、捕獲のみでいいのですか?」
横にはサブマスがいた。
「あぁ、これを見たまえ。」
ムーチーの特殊能力で出た紙を見せた。
「こんな能力が……。」
サブマスは衝撃を受けた。ただの役立たず、村人の唯一の生き残りなだけ。ただの案内人程度にしか思っていなかったのだ。
◆◇◆◇◆◇
ギルマスからクライシスへメッセージの返信が来た。
――――
・ムーチー君に兎と蝙蝠も調べて報告。
・蝙蝠は今晩か明日でいい。
・兎はギルドカードにて私にすぐ報告。
ギルドマスター タッコル。
――――
「よーし、ムー君。エヴィーもよろしく頼むとさ!」
クライシスは左手でムーチーの右肩を叩いて、そのまま連行した。
ムーチーはされるがままついて行った。
「ほい、よろしく!」
数日ぶりのエヴィーを撫でてから、同じ行動をとった。
『”特殊スキル:判別取得”。』
「発動!」
紙の中は予想通りだった。
――――
・種族:兎
・出身:シンク村
・名称:エルヴィル
・■□:■□■□
・■□:■□■□
――――
「まっ、そんなもんだろ。今日でも明日でもいいから蝙蝠ちゃんの方もよろしく!じゃっ、私は忙しいから。」
クライシスはサラッと仕事に戻った。
ムーチーはそのままクエストの下水の掃除へ向かった。
「誰もいない。ちょうどいいや!」
下水に近づいてから匂いが酷くなっていた。
「これじゃあ誰も近づかないし、誰もクエストを受けたく無いか……。」
ムーチーは長靴とスコップ、バケツ、袋をギルドから渡されていた。
「このドブの底に腐った泥が臭ってるのか……。」
ムーチーら1人での作業なので、気付かぬうちに独り言を言っていた。
バケツに袋を入れて泥を入れていった。
「うひぃ、臭い。」
そこからは黙々と水上へ作業を続けた。
「この溝に落ち葉と泥が溜まってるから水が流れないのか……。」
スコップで頑張って掘り出した。
「うわっ!」
詰まっていた泥と落ち葉に隙間ができ、水が勢いよく流れて来た。
「泥々になったよ……。これいつから放置してたんだよ……。」
泥と落ち葉の入った袋4袋を近くのゴミ捨て場に持って行き、汚れたまま宿に帰った。
道中変な目で見られたがドブの匂いがするのでみんな近づかなかった。
ローユンが宿の中で外の騒ぎを聞きつけて外に出た。
ちょうど目の前に泥々のムーチーがいた。
「こら、ムー。ドブの掃除しただろぉ!」
と睨まれた。
「ちょっとこっちおいで。」
ローユンに連れられ、宿の裏に向かった。
「ナオハ!このくっさいの宜しく!」
裏口からナオハが出て来て、鼻を摘んだ。
「くっさい!"クリーン"」
魔法で匂いと汚れを消してもらえた。
「魔法、使えるんだ……。」
ムーチーは羨ましそうに呟いてそのままお風呂に連行された。




