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 「まさかセラフィーヌ嬢と結婚しないと言うつもりか?」

 「……父上、流石に私でも分かっています。貴族の結婚は、義務であると」

 

 リュシュアンが2年の遊学を終えて帰国したその日、久しぶりの親子の会話は、最初こそ穏やかに進んでいた。


 しかし、それが自身の婚約の話になると、リュシュアンの表情は硬くなった。


 「結婚はします。でも、子どもは作りません。……いや、作れないと言った方が正確でしょうか」

 

 「女嫌いは……結局治らなかったのか」


 「残念ですが、もう治ることはないかと」


 父の問いに、リュシュアンはただ淡々と答えた。その声音は、迷いも揺らぎもない。まるで既に決定事項であるかのように。


 (羽を伸ばせる遊学先で、好みの女にでも出会って多少は改善すると思っていたが……)


 帰国前よりも頑なな態度を示す息子に、ヴァルクラー侯爵はこめかみを抑えた。


 立派に成長した外見とは裏腹に、中身はまるで、甘ったれた子供のまま。成人した貴族の放つ言葉とは到底思えなかった。


 「子をなすことも、貴族の義務だ。ヴァルクラー家にはお前しかいない。このままだと、我が家は断絶する。分かっているのか……?」


 「大丈夫ですよ。ただ、別の手段を取れば良いのです。例えば、父上が後妻を迎えるとか」


 「……それは、できない」


 亡き母を父が今でも深く愛しているのをよく理解した上で、リュシュアンはあえてその案を口にした。


 案の定、即座に拒絶する父を見て、リュシュアンは薄く口角を上げた。


 「父上の後妻を取らないという我儘が許されるのなら、私が子作りしないという主張も受け入れるべきです」


 リュシュアンは、目を細めた。

 傾国の美女と持て囃された母を彷彿させる、はっと息を呑むほど美しい微笑みだった。


 「そうでなければ、遠縁から養子を取りましょうか。または、そうですね、セラフィーヌ嬢に私ではない、別の男の子を産んでもらえばいい。彼女は母上の姪ですから、血筋としてそれでもいいでしょう?」


 「リュシュアン……!お前……!!」


 自らの不出来を悔いるのではなく、むしろ、悪いのは自分ではないと堂々と責任転嫁する息子の態度にヴァルクーラ侯爵の頭にどんどん血が上っていく。


 リュシュアンはそんな父親に冷ややかに見下ろした。


 長身の親子が睨み合う中、暖炉の燃える音だけが静かに響く。


 一触即発の空気が張り詰めたその時、控えめなノックが場を断ち切った。執事が申し訳なさそうにドアを開ける。


 第三者の登場に、二人は睨み合いを解き、怪訝そうな視線を執事に向けた。


 「……旦那様に手紙を持ってきた使者がいます。今、お読みいただきたいと。いかがいたしましょう……?」


 「……今か?誰からの手紙だ」


 「クレルモラ前伯爵から、だそうです」


 5年前にこの世を去った人物の名に、侯爵の表情がわずかに強張る。


 「……それは本物か……?いや、直接確かめたほうがいい。よい、今から使者に会おう」

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