141 赤ちゃんへの祝福と魔力
↓今回もククルカンのセリフが読みずらいですが、流し読みでご対応をお願いします
沼地でお世話になっていた精霊達に別れを告げ、ユーラとキキリに改めてどれだけこの守護地の精霊達にお世話になっていたかを話しながらククルカンの巣が見える処まで戻って来た。
「……まだククルカンは泣きわめいているだろうな。まあ、あの泣いて見悶える姿を見るのも今日で最後だと思えば、もうちょっとくらいは耐えられるか。最後に赤ちゃんに挨拶をしてから戻ろうな」
「う。しゅくふく、する」
『ギャウッ!』
張り切るユーラとキキリを微笑ましく見守り、そして覚悟を決めて巣に踏み込むと、そこにはーーーーーー。
『あぁあああああぁあああっ!わ、私の子、あなたはやっと生まれてくれた、私の、最初の大切な、大切な我が子ですぅううう、だからっ、ホラ、私の魔力を、食べて下さいぃいいいいっ!な、何が気に入らないのですかっ!私は、私はあなたの、生みの親なのにぃいいいいっ……うううううぅううううううっ』
無事に割れた殻から抜け出した小さな生まれたばかりの赤ちゃんへ手を差し出しながら泣き叫んで項垂れる、ククルカンの姿があったのだった。
「誕生に、しゅくふく、を……」
『祝福を……』
泣き叫ぶククルカンにはもう慣れたが、その叫んでいる内容がさすがに聞き逃せず、思わずキキリにどういうことか尋ねると、生まれたばかりの赤ちゃんは自力で食べ物を食べられるようになる最初の何日かは親の魔力が食事になる、ということを教わった。
ああ、それで乗り出すようにして指先を差し出していたのか。一瞬感極まって赤ちゃんを襲っているのかと思っちゃったよ……。
巣の上に乗りあげて短い手を差し出す構図は、まるで上から覆いかぶさって潰そうとしているかのようにも見えたのだ。
そこでとりあえずユーラがククルカンに「しゅくふく、する」と告げてどかし、改めてユーラとキキリと一緒に殻から出て来た赤ちゃんと対面している、という訳なのだが。
まあ、ククルカンは『せ、世界樹の守り人であるユーラ様から、う、生まれたばかりの我が子が、しゅ、祝福をぉおおおおおおおっ!!!!』って感極まったのか固まって後ろに倒れたんだけどな。そんなククルカンを一切気にせず、そのまま踏んで乗り越えようとしたユーラは、一体どこを目指しているんだろうか……。
うんしょ!とばかりにククルカンの体に乗り上げようとしたユーラを慌てて脇に両手を入れて持ち上げたけど、巣が高さがあるのでちょっと身長が足りなかった。そこでつい転がったククルカンの腕が丁度いい高さだったから、その上に乗せた俺も、まあ、どうかと思うけど。ククルカンだし、そんな扱いでも仕方ないよなっ!
ユーラとキキリが赤ちゃんに向き合い、祝福の言葉を告げると指先を赤ちゃんの額に触れるか触れないかの箇所に伸ばした。するとそこに、小さな柔らかな光が宿る。
その光はまるで吸い込まれるかのように、赤ちゃんの中へと消えて行った。
ううううぅう。いい光景だなぁ……。小さな赤ちゃんとキリッとした顔つきのユーラ、尊い……。
そうほのぼのと小さな子供と子供のドラゴン、それに小さな小さな蛇の赤ちゃんの交流する姿をほっこりと見守っていると、聞き逃せないユーラとキキリの声がした。
「ダメ、コレで我慢。イツキ、めっ!」
『ギャウ!もっと大きくならないと、ダメ、だよ』
んんん?何がダメなんだユーラ、キキリ。それにそこに俺の名前があるとかなり不穏に感じるんだけど?
『うん、そうだね。君はまだ生まれたばかりだから、親元にいないとダメでしょ。……食べず嫌いはいただけませんね。固形物が食べられるようになるまでの、ほんの少しの間くらい我慢しなさい』
んんんん?ドライも、もしかしたら赤ちゃんが言っている言葉が分かるのかっ!!って、ええええぇえっ!生まれたばかりの赤ちゃんって、自我はないんだよなっ?なんで三人は平気で会話なんてしているんだっ!?
あまりの驚きについ呆然としてしまったが、慌てて隣のドライの羽をボスボスと叩いて問いかける。
「な、なあ、ドライ。なんでユーラもキキリも、それにドライもまだ赤ちゃん相手に話してるみたいな会話になっているんだ?まだ生まれたばかりだから、この子に意識はないんだろう?」
『……この子は、ずっとイツキと毎日接していましたからね。どうやら卵の時から自我はあったようですよ?でも、生まれたばかりの赤ちゃんだからといって我儘を許すかどうか、となると……。イツキ、ちょっと父さんを急いで呼んで来ますので、大人しくここで待っていて下さい』
「あっ、ドライっちょっと!!……って、え?なんか卵を撫でていた時から、話し掛けると返事しているように揺れていたのは、本当に卵の時から自我があったっていうのか?えええっ……?」
言うだけ言って飛んで行ってしまったドライを見送り、言われた言葉を思い返してただ驚いていると。
「う。この子、自分、ある」
『祝福で、意志、もっとはっきりした』
ユーラとキキリがきっちりと肯定してくれた。
ユーラとキキリの祝福で灯った光が赤ちゃんに吸収されたように見えたのは、もしかして魔力を少しだけ分けて成長させた、とかか?うーーーん、待てよ。今までの会話を思い返してみると……。もしかしてこの子、親の、ククルカンのご飯になる魔力を拒絶していたりしないよな?ま、まさか……。
何かを探すかのように辺りを見回すように、弱弱しく揺れていた赤ちゃんをじっと見つめると、俺の方に首を伸ばして小さな口を開いて。
『ピュッ……!』
とかすかに鳴き声を上げた。
その鳴き声は、俺を求めているように胸に響き、胸がいっぱいになってつい指先を赤ちゃんへ伸ばそうとすると、ガシッとキキリに止められた。
『今、ダメ』
「ダメ、待つ。それから」
しっかりとアーシュが来てからだ、と止められ、そのままアーシュが来るのを待つことになったのだが。
『……お前は、なあっ!何度、何度、手を煩わせれば気が済むんだあぁっ!!あっ!自分の子の管理くらい、自分でしろっ!!』
結界を文字通り飛んで越えて来たアーシュは、そのまま俺達の後ろに横たわってしくしく泣いていたククルカンの上に蹴りを入れつつ着地した。
アーシュが来た時点で予測出来たので、咄嗟にユーラを持ち上げてククルカンの手の上からどかしたのは、我ながらいい判断だっただろう。
『ああああぅあっ!!そ、そんなっ、私は、子を、待ち望んでいた生まれた我が子を、きちんと面倒みたいのですっ!そ、それなのにぃいいいいいっ!何故、何故、私の魔力を避けるのですか、愛しの我が子よぉおおおおっ』
ゲシッゲシッと蹴り飛ばされながらも、今回はきちんとやっと生まれた自分の子への愛を叫んではいた。
でも、もう聞き慣れはしたが泣き叫ぶ声にげんなりとしてしまう思いは止められず、その我が子への鬱陶し過ぎる愛が原因ではないかな、と事情をはっきりとは理解していない俺も思ってしまったり。
『お前がっ、お前がしっかりしていれば、そもそもこんな事態にまでならなかったんだっ!!……おい、生まれるまではイツキを貸してやったんだ。お前も我儘を言うな』
泣きわめくククルカンを更にゲシッゲシッ蹴っていたアーシュが、最後に森まで蹴飛ばしてこちらに向き直り、顔を巣へ近づけて赤ちゃんを覗き込んだ。
『……フン。気持ちは分かるが、お前の親はアレだ。だから自力で食べて動けるようになるまでは、イツキの家へ来ることは許可しないのは変更しない。だが、そうだな。その卵の殻には、イツキの魔力がしみ込んでいるだろう。それと、おい、イツキ!』
「なんだよ、アーシュ。はっきりとは理解出来てないが、もしかしてこの赤ちゃんがククルカンのことを拒絶しているのか?」
『まあ、そうだな。だからイツキもこの子供を説得しろ。そして今回だけは魔力を渡すことは許可する。それが終わったら戻るぞ!情けを掛けるのはここまでだ。もう当分ここへは来ないからな!』
んんーー……。卵の時から自我があったのが本当なら、俺が撫でていたのも分かっているし、それにずっと卵の脇でククルカンが鬱陶しく泣き喚いていたのも知っているってことだもんな。なら、ちょっとこんな親、嫌だって思うのも無理もないこと、なのかもしれないけど……。
少しだけ考え、俺を見上げているユーラとキキリの頭をそっと撫でてからこちらも俺を見上げている小さな赤ちゃんの前に、目は見えていないだろうけど屈んで向き合った。
「なあ、確かにずっと、ずぅっっっと泣いていただろうククルカンのことは、鬱陶しく感じているのかもしれないけどさ。でも、ずっと君が生まれて来るのを待っていた親なことは間違いないんだよ。だから、ほんの少しだけでも受け入れてあげてくれな?」
そう告げると、沼地へ行く前に撫でた時よりも手の位置を下げ、頭の少し上に手の平を浮かべてそっと撫でる。
元気に育って、会いに来てくれな。俺はいつでも待っているからな。
そう心を込めて、卵を撫でていた時のようにほんの少しだけ魔力を込めたのだった。
……なんでか米の籾摺りまで、なかなか辿り着かない……(毎回タイトルにして、書き直していたり)
気温差になかなか体調が安定せず……コンスタントに更新出来るように頑張ります。
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9/30日にGCノベルズさんより2巻が発売となりましたーーーーっ!
書籍、電子書籍同時発売です。本編加筆改稿&書下ろしエピソード有ですので、よかったらお手に取っていただけるとうれしいです。(特典SSもあります)
それと今年も「次に来るライトノベル大賞」2025が開始になったようです!
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