128 保存食を作ろう 4
ドカッ!バキッ!ゴキッ!……という、破壊音が広場に響く中、俺は魚の下処理を終わらせ、肉の薄切りに取り掛かった。
『イツキ、これくらいか?』『ムム、なかなか難しいぞ』
『ねえイツキ!これ、爪でシャッて切ってもいい?風、難しいの』
俺の横でりんごより程の大きさの果実をロトムがシルフと一緒に風を操って切り、クオンがいちじくに見た目がそっくりな果実を見本で切って見せたように縦に五ミリに薄切りにしようとして、細かい風の制御が出来ずに果実の下の台の板を切ってしまっていた。
「うーん。クオン、シルフに爪に風を纏わせて貰って、果実の上から切る場所をそっとなぞってみたらどうかな?シルフもクオンも魔力をあんまり込めないで、そっとだぞ?それなら出来そうか?厚さは太くなっても大丈夫だからな」
俺の言葉に、ペタンとしていたクオンの大きな耳がピンと立ち上がり、瞳がキラキラと輝き出し、尻尾がパタパタと揺れ出した。
『うん、やってみるね!イツキ、ありがとう!』
こうかな?と小首を傾げながら爪を出してシルフと相談しているクオンを、今すぐ抱きしめてもふもふしたい!という衝動に戦いながら、ひたすら肉を薄切りにしていると。
『イツキ!ねえ、これで大丈夫?もっと蹴った方がいい?』
そう言いつつドカッとセランが後ろ足で岩塩の塊を蹴り飛ばすと、ポロっと割れて掌大の岩塩が飛び散る。
「うーん、ラジ、ジオ、どうだ?これを蹴って細かく割れそうか?」
掌大の岩塩の欠片をジアとラジ、ミラの兄弟の前に置くと、 ラジが助走をつけて、ダッシュしながら蹴りを放った。
ピシッと割れた岩塩の欠片は、砂利くらいのサイズになった。
「うーん、もうちょっと砕かないと、すり鉢で擦れないかな。そうだな、セラン、今ラジが砕いた岩塩を、上から前脚を勢いよく振り下ろしてもっと砕けないかな?痛いかもしれないから、最初はゆっくりだぞ?」
『やってみる!うーんと、こう、かな?』
ミラがラジが砕いた砂利くらいの大きさの岩塩を布の上に一カ所に集め、セランがその上に前脚を少し上から振り下ろすように踏みしめた。
ガツッという音がして粉砕されて少し小さくなった岩塩が飛び散ったが、やはり見ていると蹄が痛そうだ。
「あー、痛そうだな。他の方法考えるから、セランは無理しないでいいぞ」
『うーん、ちょっとだけ痛かったけど、大丈夫だよ?』
「いや、これは皆で分業してやっているからな。セランが痛い思いをする必要はないからな。ごめんな」
『ううん、大丈夫!じゃあ、大きいのを、もっと勢い良く蹴っ飛ばすね!』
そう言うと助走をつける為にダッシュで駆けていくセランの姿に、フェイに目線で頼む。
「うーん、石臼に入れるには大きいし、誰にやって貰ったらいいかな・・・・・・」
砂利サイズでいくら岩塩が石よりは脆くても、砕くには力が必要になる。
『砕くの、できる、よ!』
誰に頼むか悩んでいると、横で小さくなるのを待っていたクー・シーの子の一人、メロが申し出てくれた。
メロは最初に家に来た時はまだ立って歩けなかったが、今では立って言葉も話せるようになって来ていた。
「まだ大きいけど、何か方法があるのか?」
『うん!お父さん、石に、バンッて叩きつけてた!』
そう言うと、布がずれないように重しにしていた石の前に行き、手に持った大きめの砂利サイズの岩塩を勢い良く叩きつけた。
すると端が細かく割れ、細かい岩塩の破片が飛び散る。
おお、あそこまで砕ければ、もうすり鉢でいけそうだな!
「凄いな!じゃあ、手が痛くならないように、大きい子で交代してやってくれるか?小さい子は、細かい破片を集めてすり鉢で擦って細かくしてくれね」
『『『『『わかった!(ワンッ!)』』』』』
こうして岩塩の方も問題なくなり、子供たちが楽しそうに、あるいはムームー唸りつつ作業を進み、どんどんさらさらな塩と干した果実が増えて行ったのだった。
そうしてある程度さらさらな岩塩が溜まったところでソミュール液を作ることにした。
ソミュール液は簡単に言えば塩水だけど、本当は砂糖も入れた方がいいんだけど、ないからな・・・・・・。蜂蜜もないし、ああ、冬に集めた精霊の力の籠もった果実の中に、皮を剥いたらほぼ甘い果汁の実があったな。お肉の方には、試しに使ってみよう。魚の方は・・・・・・臭み取りに香草とこっちは酸っぱい柑橘系の果実があったから、それを少し絞ってみるか。
それなりに大きめの盥をいくつか井戸の近くに出し、交代ですり鉢で岩塩を擦ってくれているクー・シーの子と、大きな岩塩を砕き終わって皆の作業を見ているセランとフェイを呼んだ。
『僕にも、まだ出来る作業あるの?』
「もちろんだよ。この盥にウィンディーネに頼んで水を入れて貰っていいか?」
『うん、任せて!』
子供たちの様子を井戸の上で見ていたウィンディーネにセランが頼むと、うれしそうに井戸へ戻って行き、ザバーっと水が噴き出し、盥の中を満たした。
その様子を見て、セランとウィンディーネがキャッキャと楽しそうにはしゃいでいた。
あー、ウィンディーネも子供たちが好きだし、一緒にやりたかったのかな?だったら二人に魚を洗えるか聞いてみるか。
とりあえず水が満たされた盥の中に、10%までになるように塩を入れて味を見ていく。
少しだけしょっぱめなくらいにし、その一つに砕いていない胡椒の実と香草を、もう一つに果汁の実を二つ入れてかき混ぜて味をみて、その味に合うように香草を入れた。
とりあえずどんな味になるか試してみないと分からないし、今回は適当にやってみよう。また後で別の味で作ればいいしな!
「うん、これでジャーキーの方はいいかな。クー・シーの子達は、この盥の中に、俺が切った薄切りのお肉をきれいに並べて漬けて行ってくれるか?お肉はここに置いておくな。岩塩を擦る方と、交代でゆっくりでいいからな」
『『『うんっ!(ワンッ!)』』』
お肉の方を任せると、魚の方のソミュール液も作る。
こっちは酸っぱい柑橘系の果実を搾って入れ、臭み取り香草を多めに入れた。
「セラン、ウィンディーネ!このひらいた魚を、きれいに水で洗ってからこの盥に入れることは出来るか?この盥の中の水には塩が入っているから、気をつけてな」
井戸の脇の普段洗い場にしている場所に大きな盥を置き、その中にひらいた魚を入れていく。ひらいた時にも洗ったが、漬ける前にもきれいに洗った方が臭みが違うだろう。
『頑張るよっ!』『ーーーー!』
セランはうれしそうに、ウィンディーネは楽しそうに井戸から跳ねて返事を返してくれたので、フェイに二人を託し、他の作業を見回ることにしたのだった。




