115 雨上がりとニキニキ
オズの話を聞いてから、体力の回復を願い、家にいる時はなるべくオズを散歩へ連れ出すようになった。
それでも雨期の今は小雨の時までで、大雨の時は子供たちも日課から戻ると家で遊ぶようにしていた。
朝から豪雨の時はケット・シーとクー・シーの子供たちはお休みの時が多いけど、朝が小雨だったりする時もあるからな。雨期でも子供たちが来てくれると賑やかで楽しいけどな!
小雨の時は最近では午後からは森へ行って雨期にしか生えない精霊の力を宿した植物を探しているが、雨が強い時は森へ行かずに家で遊ぶことになる。
家での遊びは、ケット・シーの子供たちは家の中の大木のの枝に作りつけたキャットウォークや、階段の上り下りの出来ない子猫子犬達の為に設置してあるスロープが滑り台として遊具にもなっている。
キャットウォークは、床横の太い幹をシンクさんの娘のシーラちゃんを始めとした子猫たちが皆上ろうとするので、爪で幹に傷をつけるのはドライアードに申し訳ない!と、ドワーフ達に相談して、少しずつ俺が設置している。
蔦を編んでロープを作り、それを板の両端に結んで繋いで行き、上部を大木の枝に結んで階段に。そして枝と枝の間にもロープで板を吊るして渡し、大木の幹の周囲を周回出来るようにしたのだ。
これはケット・シーの子供たちがとても喜んで、猫気質が強いシーラちゃんなど、他の子が走り回っていても気づくとそこで昼寝をしている。
布をトントゥから毛皮と交換していつでも手に入るようになったので、冬の間にハンモックも吊るしてみたら、ほぼシーラちゃんの指定席になってしまった。
たまにシュウとシーラちゃんがハンモックにどちらが寝るかでみゃうみゃうぎゃうぎゃう言い争っているが、大抵シーラちゃんが勝つ。二人で寝ていることもあるが、やはりシーラちゃんはシンクさんの娘だな、としみじみと思ってしまった。
階段替わりのスロープは家の中の土間、地面の上から玄関から続く廊下へと渡してあるが、雨期だと地面が水溜まりになるのでドライアードと相談しつつ着地地点には土を足してあるので雨でも使用出来た。
更に今年はスプライト達に頼んでそこにふかふかの芝のような草を生やして、とどんどん進化していたりもする。
ただそれだけでも雨期の間は退屈になるので、ケット・シーの子もクー・シーの子も一緒に楽しく遊べる遊びがないかといつも考えている。
『イツキ、何しているの?』
「お、クオン。これは縄を編んでいるんだ」
『いつもよりも太いよ?これ、どうするの?』
いつも編んでいるのは、キャットウォークなどにも使っている蔦を二本編んだ物を三本纏めてさらに編んで作った縄だ。今回はその縄を更に二本使って編んだかなり太めの縄となる。それをかなりの長さになるように編んでいた。
「これは、新しい遊び道具を作っているんだよ」
『遊び道具っ!!これ、どうやって遊ぶの?』
クオンの大きな声に、近くで寝ていたロトムやクー・シーの子供たち、それに上からシュウがぴょんと飛び降りて来た。皆の期待の眼差しが注がれ、どうしようか悩む。
うーん。やっぱり雨期は子供たちも退屈しているよなー。本当は雨期が開けたら外でアインス達に頼んで大縄跳びを今年こそやってみようと思って編んでいたんだけど、室内か……。
よし!と、今作っている縄を横に置き、短めの縄を新たに太目に編み、くるっと輪が二つになるように真ん中でしっかりと結んだ。
「ほら、クオン。引っ張りっこしよう。そっちの輪を噛んで、引っ張ってみて」
『これを?やってみるの』
輪の片方を手に持ち、もう片方をクオンに差し出す。
小首を傾げながらクオンがもう片方の輪を噛み、そして引っ張る。それに合わせて俺も輪に力を入れて引っ張った。
『んんんんっ!んん!!』
ぐいぐい引っ張ると、不思議そうな顔をしていたクオンの瞳が輝き出し、楽しそうに腰を入れて力を込めて引っ張り出した。
「うおっ、うわぁっ!あああぁあ……。ごめんな、クオン。俺だと勝負にならないから、こっちは次はロトムだな」
あっという間に俺の手はクオンの引っ張る力に耐えられなくなり、手からすっぽ抜けてしまった。
そのままの勢いで尻もちをついたクオンのきょとんとした顔にかわいいなぁ、とデレデレしつつ、近くで伏せていたロトムに後を頼んだのだった。
その後はクー・シーの子供たちにも強請られて様々な大きさで縄の輪を作り、その様子を見ていたケット・シーの子供たちの為に輪を作った太目の縄をぐるっと巻き付けてボールも作った。
そのボールにはクー・シーの子供たちやクオンやシュウなども食いつき、広い部屋の中をボールを追って皆で追いかける姿を見守ったのだった。
そうしてのんびりと子供たちと楽しみながら雨期を過ごしていると、晴れ間がのぞく日が増えて来た。
「おおっ!今日は朝から晴天だな!そろそろ雨期も明けるかなー!」
『そうですね。ああ、やっぱり雨期明けですね。ほら』
玄関の階段の上で雲一つない空に登る朝陽を眺めていると、隣に立つドライにホラ、と羽で示された先には。
「おおおおおっ!ニキニキかー!あれ、じゃあ本当にもう今日で雨期が明けたってことか?」
『まあ、そこはホラ、精霊の力が大分戻って来ているから、ニキニキが生える時期が長くなった、とかでは?なんかあっという間に広場が埋め尽くされそうだよ』
ドライと話している間にもにょきにょきとニキニキが地面から顔を出してあっという間に大きく成長し、気づくと台所もニキニキが占領していた。
「うわぁ……。これは、もう、採っても無駄そうだよなぁ。とりあえず今日のスープの分を採るか。ドライもアインス達に声を掛けて台所だけでも採ってくれないか?」
『どうせすぐに生えて来そうだけどね。まあ、鬱陶しいから食べる間だけでも持つように刈っておくよ』
そう、ニキニキは採っても採っても、それこそ振り向けばもう刈った場所に生えて来ているくらいに繫殖力が高すぎるのだ。
雨期明けの何日間か森のあちこちを占領し、気づくと姿を消す精霊の力を宿した植物だ。
去年は子供たちと一日中採ってたんだよなぁ……。翌日にはすっかり元に戻っていて諦めたけど。まあ、でも、今年も今日は子供たちが楽しそうにニキニキを追い回すかもしれないな。
もう一度明るくなって来た空を見上げ、今日は子供たちが全員揃いそうだと微笑みを浮かべたのだった。




