113 雨期の終わりと 1
遅い時間ですが更新します!
雨期特有の精霊の力を宿した植物の探索は、子供たちも俺も熱中した。
大雨の中での森の探索は俺が危ないので近場に留めたが、小雨になると子供たちと一緒に森へ飛び出してあちこち探索して回った。
子供たちも自分達の住む守護地の森や草原で精霊の力を宿した植物を探し、見つけては俺の元へと持って来てくれた。
本当に精霊の力を宿した植物って不思議だよな!ほとんどそのまま食べられるかお茶にして飲めたり、はては調味料になる実まであったしな!
何日目だったかロトムが見つけて持って来てくれた小さな胡桃のような固い木の実を割ると、出て来たのはなんと!
「うわっ!も、もしかしてこれって……ゴクリ」
ユーラの拳よりも一回り程小さい、固い実を殻に沿ってナイフを入れ、渾身の力を込めて割って現れたのは、ドロッとした褐色色のペーストだった。そのペーストに恐る恐る鼻を寄せて匂いを嗅ぎ、漂って来た香りに思わず指でペーストをすくって舐めてみると。
「や、やっぱりっ!こ、これっ、味噌だっ!豆っぽさはないけど、まんま味噌だぞっ!!」
そう、胡桃のような木の実特有の味は舌に残るが、塩気があって甘味もある、味噌に似た味がしたのだ。
稲に続いて今度は味噌っ!!つ、次は醤油が見つかれば完璧じゃないかっ!
思わず大声で叫びつつぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでしまった。
俺のあまりの喜びように、子供たちもペロリと舐め。
『グルルルル』『あまく、ないっ!』
『なにこれ、しょっぱいのっ!!』
『ぺっ、ぺっ、なに、これーーーっ!!』
『ピュイッ!!』
『みぎゃうっ!!』
と大不評だったが。
因みにフェイは皆の反応を見たのか舐めなかったし、シュウはまた飛び上がって駆け出して行ってしまった。
当然俺はしぶるロトムに頼み、迎えに来たオルトロスにも訴えてアルミラージに貰った方のマジックバッグを渡し、翌日にはそれなりの数の味噌の実を確保することが出来たのだが。
「なあ、アーシュ。俺が子供たちの守護地に行って、精霊の力を宿した植物を採取したらダメか?俺が行けばマジックバッグが使えるから、たくさん確保したいんだ」
子供たちはそれなりに器用に口や前脚を使うが皆四つ足や鳥の姿なので、果物や植物などはたくさんの量を長距離運ぶには適していないのだ。
なのでつい子供たちが持って来てくれる植物が全て魅力的で、自分でも採りに行きたい!とアーシュに声を掛けてしまったのだ。
ケット・シーやクー・シーなら、両手で運べばそれなりに運べるんだけどな。それにカバンを肩にも掛けられるしな。
小麦や野菜などの収穫に来たシェロが、俺が持つマジックバッグに興味を示していたので、実は冬の時間がある時に拙いながらもトントゥから貰った布で肩掛けカバンを作ってプレゼントしたのだ。
シェロの毛並みに生成りのカバンはあっていたが、少し紐の長さが長すぎて肩から落ちてしまった。それを改めて調整してプレゼントした処、森で果物を集めるのに便利だ!とクー・シーの集落で大流行になった。
その後春先からクー・シーの集落の人達は積極的に森で果物や薬草を集めてはドワーフの集落へ持って行って布と物々交換をし、俺に裁縫を習って自分達で肩掛けカバンを作っている。
それを見たケット・シーのシンクさんが目をキラーンとさせて、自分達用もクー・シーに依頼していたけどな。まあ、お互いの交流が深まったのはいいことだ。
『またお前は……。ククルカンの守護地を回るのは許可しただろう。他の守護地でもお前一人が歩き回ることなんて出来ない。そうなったら子供達やキキリが出入りする許可も必要になるだろうが』
ああ、そうか……。ここはアーシュやドライアードが結界を厳重に張ってくれているからそれなりに安全だけど、他の守護地にはそこの魔物もいるんだったよな……。
ククルカンの沼地へ通うにも、アインス達がついて来てくれて何度かに一度は襲ってくる虫や小型の魔物、それに魔性植物を倒している。
俺はいつも守られてばかりなのに、ここの外は魔物が闊歩している場所だということをすっかり忘れてしまうんだよな。
「……そうだよな。つい、もっと色々食べられる物が見つかるかも!ってそれだけ考えていたけど、簡単じゃないよな。とりあえず今は稲が見つかっただけで満足しておかなきゃだよな」
こうして少しずつでも子供たちが欲しいと言えば持って来てくれているのだ。これ以上は贅沢だよな。
『……もう少し待て。もう少し世界が安定すれば、俺達にも余裕が出来る。そうなればもっと精霊の力を宿した植物も増えるだろう』
「……ごめん、俺の我儘だったな。今は稲の収穫を楽しみに、子供たちと一緒にこの森で精霊の力を宿した植物を探すよ」
世界樹の危機が世界崩壊の危機だ、とか世界樹の守り人が生まれて世界の崩壊の危機を脱した、とかそんなことを言葉で聞いただけでなんとなく分かっているつもりだったが、まだまだ俺には実感なんてなかったのだ。
本当に俺は未だに分かっていなかったんだな……。アーシュや子供たちの親御さんの神獣や幻獣達が普段どんなことをしているか、世界の崩壊を止める為に何をしているのか、俺は全く知らないもんな。毎日世界樹へ魔法を掛ける日課を続けて、少しずつ結果が出たと言われて、俺が勝手に解決した気になっていただけだったんだ。
俺の力なんて世界の危機には何の力もない。そう口にしてはいても、ユーラが生まれて成長していることで、もう危機が遠ざかった気になっていたのかもしれない。
ふう……。まあ、そう深刻になっても、俺が出来ることはやっぱり子供たちと楽しく過ごすことくらいしか出来ないんだけどな。そう、それだけしか出来ないんだから、自分の力で出来る範囲でやっていこう。
自分がアーシュに甘えていたことを改めて自覚して、少しだけ気を引き締めた。
『フン。そうだな。雨期が終わり、暑くなった頃、一度お前を人里へ連れて行ってやる。ユーラが生まれる前、約束したしな』
「ええっ!!アーシュ、俺を街へ連れて行ってくれるのかっ!」
あまりの驚きに、少しだけしんみりとした空気が一瞬でなくなっていた。
た、確かにアーシュと約束したけどっ!なんだか魂の管理官に再会して、自分のこととか聞いたからすっかりもういいや、っていう気になっていたんだよなっ!一度街には行きたい、けど、でも、俺が今行っても大丈夫なのか?
『いや、今回は上空を飛ぶだけだ。上から人里の状況を見せてやる。そろそろオズも下界に戻せるくらいに回復したしな』
「あ、空からか。って、アーシュに乗せてくれるのか?また脚で捕まえられた体勢では嫌だからなっ!……って、え?オズ、もう戻すって、まだ意識も回復してないだろっ!!」
一気に言われた言葉に、興奮したまま答えたが、最後の一言の意味に気づいて愕然となったのだった。
長くなりそうなので、ここで切ります。
オズのことなどは次回で!明日も書けたら……更新できたらな、と。
(と言いつつこんな時間なので不明ですが)
新年が始まり、仕事の忙しさになかなか書く気力がなく、ペースが上げられていません。が!今月1/30日についに1巻が発売!なので、今月は頑張って更新したいです。
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短編『断頭台の歩き方 ~悪役令嬢などありえない』
も毛色が違いますが良かったら読んでやって下さい。
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