112 雨期の森
『あーーーー、見つけたっ!これ、今まで見たことなかったの!』
「おお、本当だ。なあ、スプライト達、これは雨期特有の植物なのかな?」
昨日はククルカンの守護地で見た光景から、雨期特有の精霊の力を宿した植物を見つけよう!と子供たちと盛り上がり、さっそく家へ戻った子供たちは親や精霊達に聞いてみたようだった。
結果は、やはりずっと生えなかった精霊の力を宿した植物が、久しぶりに生えて来ている、との回答だったようで、それぞれの守護地で子供たちが昨日帰ってからすぐに探して見つけた植物を持って来てくれた。
ロトムはバニラのような甘い香りのする豆のような植物を。セランはスーッとするミントのような植物で、クオンはスイカのように大きな果実だった。
ライは『これしか運べなかった』としょんぼりしていたが、なんとゴマのような種が詰まった実だった!そしてフェイは花びらから泡が出る石鹸のような花、シュウが銀杏のようなころころとした果実だったが、うにゃうにゃ言いながらゴロゴロ実に身体をこすりつけていたから、もしかしらまたたびに似た物なのかもしれない。
もう、どれもこれも欲しい物で、今すぐ皆の守護地へ行って採りに行こう!と言いたいくらいだった。
でも、全部雨期にだけ生える精霊の力を宿した植物なんだよなぁ……。ああ、残念だ。これがせめて雨期の間中、ずっと生えているなら、絶対にアーシュを説得して収穫しに行くのに。
精霊の力を宿した植物は、大抵短期間だけ生える植物が多い。中には季節中ずっと生えている物もあるが、ニキニキのように気づくとあちこちに茂っていたり移動していたりする物もある。
本当に無秩序に生えて来るからなぁ。まあ、これだけ精霊の力を宿した植物があちこちで見られるようになったのも、世界樹が活性化している影響だと思うと俺だってうれしいけどな!
因みにクオンがひきずって来たスイカのような果実は、スプライト達に食べられると言われて切ってみたが、中身はなんと柘榴のように粒粒が詰まっていて、俺も子供たちもぽかーーん!と見つめてしまった。
ただその隣からユーラが手を伸ばし、その粒粒を口に入れて食べ出したので、恐る恐る食べてみたが、口に入れるとパチンッとはじけ、しゅわっとまるで炭酸のように消えて行く、とっても不思議な触感だった。
これは子供たちの中でも好き嫌いが分かれたが、シュウが口に入れた瞬間、ピョーンッと飛び跳ねてそのまま走って行ってしまったので、皆でポカーンと呆気に取られてしまったよ。
とりあえずシュウの持って来た果物は、ケット・シーの子供たちには危険そうなので近づけないようにしよう、としっかりマジックバッグへしまったが、それ以外はありがたく貰ったぞ!
そして今日は、ここ、アーシュの守護地の森で精霊の力を宿した植物を探してみよう!ということで、子供たちと小雨が降りしきる中意気揚々と繰り出したのだが。
家のある結界の範囲を超え、森の中を歩くこと五分程でクオンが木に絡む、朝顔のような花が咲いた蔦を見つけたのだった。
『ーーーーーー。ーーーー、ーーーー!』
『んんーーー?ええと、このお花、食べられないの?ええーーー』
スプライト達の説明を聞いて、コテン、と顔を傾げながら叫ぶクオンがかわい過ぎるが、フェイに通訳をお願いする。
『この花も、やはり精霊の力を宿した植物で間違いないようです。この花を摘んで干してお湯へ入れて飲むと薬湯になるそうですよ』
『ーーーーーー、ーーーー。ーーーー!』
『ふむ。飲むと冬の体の疲れが癒されるそうですね』
「へえーー。じゃあ、花を摘ませて貰おうかな。この花、全て摘んじゃっても大丈夫かな?」
ふむふむ、いわゆるデトックスウォーターみたいな効能なのかな?精霊の力を宿した植物だし、効果的に期待出来そうだ。
疲れても寝て起きれば体調不良になったことはこの世界に来てから一度もないが、精神的に疲れでダウンしそうになる時はある。子ウサギ達の時のようにな!そんな時に飲むと、効果を実感出来そうだよな。それに、世界樹の泉の水を沸かしてこの花の薬湯を作ってオズに飲ませたら、効果があるかもしれないな!
やはりこの花も種で増えるタイプではないとのことなので、ありがたく咲いている花を摘ませて貰った。
その後も子供たちと茂みを覗いたり、木の上に登ったりと色々探索したが、他には何も見つからず、そろそろ子供たちの迎えが来る時間なので戻ろうとした時。
『あっ、あれっ!!』
あちこちで草を啄んでいたセランが、大きな声を上げた。
「セラン、どうしたんだ?何かあったのか?」
咄嗟に隣を歩くキキリを見たが何も反応しておらず、危険ではないと判断してセランの隣へ歩いて向かう。
『あれっ!あの、明るい色の草が、さっき動いたよ!さささっ!』
へ?さささって動いた、って、草が動いて移動したってことか?
セランが示す辺りを見てみると、確かに明るい緑の中にポツポツとオレンジ色の葉が見えた。
あのオレンジ色の植物が、動いたのか?でも、一本だけじゃないし、セランの見間違い……って、ああーーーーーっ!
見間違いじゃないのか、と口に出しそうになった時、確かにわさっとオレンジ色の葉が揺れた、と思った瞬間、気づくと奥へと移動していた。
「うわっ、本当だ!さっきあそこに生えてたのに、あっちに移動してるっ!!」
『ねっ、動いたよね!あれ、あれも、精霊の力を宿した植物かな?』
俺も手を上げてあれ、あれ、と叫ぶと、セランもうれしそうに足踏みをしつつぴょんぴょん飛び跳ねた。
「おお、セラン、落ち着けって。もうセランも大きくなって来たからな」
『うん、ぼく、大きくなってる!』
嬉しそうにでれでれする様子は、相変わらず無垢でかわいらしいままだけどな! 最初は俺の胸までもなかったが、もう頭が俺の顔に届きそうだもんな。
すぐ横の鬣を撫でて落ち着かせると、その間にも遠ざかっていたオレンジ色の葉を指差し、足元のスプライト達に聞いてみた。
「なあ、あれも精霊の力を宿した植物、だよな?」
『ーーーーー、ーーーーーーーーー。ーーーーー!』
パタパタと手を振って説明してくれるスプライトを見つめ、その後セランの斜め後ろにいたフェイへと目線を向けると。
『あれも精霊の力を宿した植物で間違いないようですよ。ただ雨期の特有の植物ではなく、雨が降ると生えて来る植物みたいですね』
おお、じゃあ、一年を通して生える精霊の力を宿した植物、ってことか!本当に自然の力が回復して来ているんだなぁ。
思わずユーラの方を見ると、トコトコと歩いて行き、オレンジ色の葉を無造作に一枚ブチッとむしった。
果物ではないからそのまま口に運ぶことはなく、俺の方へ戻って来ると差し出された。
「おお、ユーラ、ありがとう。これも食べられるのか?」
『ーーーーー、ーーーーー!!』
『この葉を入れておくと、濁った水でも澄んだ水になるそうです。イツキの家の井戸は世界樹の泉から引いていますし、あまり関係ないかもしれませんけど』
えっ!この葉で浄水器のような作用があるってことかっ!確かに俺の家には必要ないかもしれないけど、これから水田とか作るかもしれないし、もしかしたら何か使い道が出来るかもしれないから、これも採っておきたいよな!
俺の稲に掛ける情熱が迸ってしまったのか、あっという間にかなり遠い場所にまで行ってしまっていたオレンジ色の葉を、子供たちと楽しく追いかけては摘んだのだった。




