109 ククルカンの卵
なんとか今年中に間に合いましたーー!
なんとか連日投稿です。
光を吸収したユーラを静かに見守っていると、隣にキキリが並んだ。
「……ありがとう、キキリ。大丈夫だよ。これはユーラに必要なことだ。そうだろう?」
『ギャウ。……急に、成長、し、ない。だいじょぶ』
「うん、ありがとう、キキリ」
そっと俺の足に寄り添い、たどたどしく話す小さな姿に、しゃがんでゆっくりとキキリの頭を撫でた。
キキリはどれだけ成長を願っても、竜なだけに何十年も大きく成長することはないのだ。たどたどしくでも話せるようになった時、とても喜んではしゃいでいた姿を思い出す。
なんで俺、そんなことを忘れていたんだろうな。皆の成長を見て寂しいなんて、俺なんかよりもよっぽどキキリの方がその想いは強いよな。世界とか世界樹の事情で【魂のゆりかご】なんてけったいな称号を持った俺が今ここにいることに意味を見出し、原初のドラゴンが俺の護衛だと生んだ子供、キキリ。でも、親の能力を全て持つ分身のような存在だとしても、生まれたからにはキキリは個として存在しているんだ。
撫でる俺の手に、うれしそうに目を閉じている姿はただただかわいらしく、俺には子供たちの成長を見守ることしか出来ないけど、それがどれだけ特別な時間なのかを実感する。
「イツキ、おわった」
「お、ユーラ。じゃあ食事にするか?自分で準備してみるか?」
今光を吸収したことで身長が伸びることはなかったが、今ので活舌が更によくなり、足元の不安は完全になくなったユーラを、今日は微笑みながら迎えれたことに安堵する。
「んんん。イツキ」
「分かった。俺が用意するな。じゃあ、行こうか」
隣に並んだユーラの小さな頭を撫で、伸ばされた手を繋いで世界樹の幹の方へと歩き出したのだった。
「な、なあ、アーシュ。アーシュはまだ、その、ククルカンに怒っている、よな?」
『ああん?』
翌朝。獲物を持って来たアーシュに、ユーラが世界樹の光を吸収し、少しまた成長したようだと報告した。アーシュが機嫌よく頷いたことを確認して今だ!とククルカンのことを持ち出してみると。
う、うわっ!ど、どこのヤクザな人ですか、アーシュさん!アーシュは神獣だろっ!もっと柄良くなりませんかねぇ……。
『お前、あいつの味方でもするのか?』
「いやいやいや!ククルカンはどうでもいいんだけど、ただ卵がな。なんかかなり大きくなったし、温かいし、それにかなり動くようになったから、どのくらいで孵るのか確認することって出来ないのかな、って思っただけなんだけど!」
ギロッと鋭い眼差しで睨まれ、ブルっと震え上がりながらも正直に訴える。
『……あいつが何か言ったのか?』
「いやいや。毎回泣いているから鬱陶しくて、聞いてもいないんだけど。でも、一度も卵が孵ったことないって言ってただろう。ククルカンに聞いても知らないかな、って思ってさ」
うん、ククルカンは正直鬱陶しいから、毎日行っているけどほとんど声掛けてないからな!
『ハア……。そうだな。卵が孵る期間とかはその種族によるから、俺も様子を見ないとなんとも言えんが、あの顔を見るのもな……』
「うーーん。やっぱりそうか。あと何年もかかっても生まれるならいいけど、毎日撫でると反応してくれるしさ。あのまま孵らない、なんてなったら俺もいやなんだよな……」
成長するのに何十年もかかる、ってことは知っているから、卵の状態だって何年も孵化しなくても普通なんだろうけどな。でも俺を誘拐、なんてことまでするまでに、ククルカンが何年も待ってただろうと思うと、もうそろそろ孵っても不思議もないような気もしたんだよな。
「まあ、俺が撫でることで元気になってくれたのは確かだろうけど、それで早々に孵るって訳でもないよな。でもやっぱり気になるから、アーシュは無理でも他の卵から生まれる神獣や幻獣に声を掛けて貰えることって出来ないか?」
最初に卵に触れた時は、あまりぬくもりも感じられなくて、本当に孵るのか、って不安だったのが、あれだけ元気になったんだし、ククルカンは正直どうでもいいけど卵には無事に孵って欲しい。
『フウ。まあ、まだククルカンには怒っているからな。ククルカンに罰を与えがてら、気が向いたら様子を確認して来よう』
「おお、ありがとう、アーシュ!気が向いたらよろしくな!」
ふふふふ。アーシュは子供たちのことに関しては、本当に優しいよな!まあ、ククルカンがまた吹っ飛ばされても、そこは自分のしたことだと諦めて貰おう。
それからも毎日ククルカンの卵を撫でながら沼地へ通った。
ククルカンの卵は毎日撫でると元気に動いてくれるし、稲の生育も見る限り順調だ。俺が毎日気にしているからか、沼地のウィンディーネも周囲のドライアードやスプライト、それにノーム達も気にかけてくれている。本当に精霊達には感謝しかないな!
ただユーラはあれ以来世界樹の光を吸収することはなかった。恐らく成長するタイミングとか色々あるのだろう。あの後会ったカーバンクルも、以前よりも毛艶が良くなってきている気がしたし、世界樹にもいい影響があるんだといいよな。
「今日も来たぞー!どうだ、元気にしてたか?」
子供たちと泉で別れ、ククルカンの卵に今日も挨拶をして撫でると、いつものようにふるふると動いて答えてくれた。
よしよし、元気だなー。あれからアーシュは何も言って来ないし、まだ確認はしていないんだろうけど。まあ、元気に生まれてくれたら、いつ生まれてもいいけどな。
ちらっと隣を見ると、今日もしくしくと『ありがとうございます。ありがとうございます』と念仏のように唱えながら泣くククルカンの姿がある。
うん、やっぱり聞かなくてもいいよな。うん。そのうちアーシュが教えてくれるだろう。
『なんか大きくなったなーーー。すっごく元気そうだしなーー』
「そうなんだよ。アインスもそう思うよな!ふふふふ。大きく育ってくれてうれしいよ。なーー」
『うううううう。ありがとうございます、ありがとうございます』
いつも早く早くとせかすアインスが、珍しく卵をのぞき込んで来た。でも、やっぱりアインスから見ても元気に育っているように見えるんだな。確認出来て、とても安心した。
……いや、ククルカンは見ないぞ。見ないからな!
「よしよし。じゃあまた明日来るからなー。元気に育てよーー」
よしよし、と元気に動く卵を更に撫でた後、沼地へと今日も様子を見に向かう為にいそいそと歩き出そうとすると。
ん、なんだ? 今、卵の動きが変わったような?
俺が手を放し、振り向いた時に、いつもは撫でる手に頭をこすりつけるように縦に揺れている卵が、ブルブルと身震いをするかのように横に揺れていたような気がして振り返ると、巣の中に身を乗り出して泣くククルカンの姿しか見えなかった。
うーん?ククルカンから逃げた、とか?まあ、いいか。帰りにちらっと覗いてから戻ろう。
それからアインスにせかされるまま沼地で稲を確認し、そのまま引き返して戻る時に巣の卵を覗いたが、その時は動いておらずただククルカンが泣いていただけだった。
まあ、また明日来るしな。キキリも待たせているし、戻ろう。
少しだけ気にはなったが、そのままその日は聖地へと戻って行ったのだった。
今年は連載再開、そして書籍化することが出来、とてもありがたく思っております。
読んで下さった皆様、どうもありがとうございました!
いただいたブックマーク、評価に励まされ、力をいただいております。
また来年も書籍の発売もありますし、連載も頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします<(_ _)>
来年は元日か二日には更新をする予定です。
かなり改稿もしたので書籍の予約などもよかったらよろしくお願いいたします!




