味方
「あの、おれっ、今度はちゃんと旦那さまの前でも言います! 本当のことを言えますから、お嬢さまが悪くないって皆にわかってもらいましょう!」
ドルーは意気込むが、私は唇に指を当てて考える。
「ううん、やっぱりダメよ。お父さまもお母さまも、ドルーの言うことよりマリのことを信じるわ」
私の言葉さえ信じてくれなかったんだから……。
ちょっと悲しい気持ちになりながら首を振った。
「でもっ」
もどかしげな顔をする二人に、私は気持ちを切り替えて笑ってみせた。
「その代わり、二人にお願いがあるの。あのね、二人には私の味方になって欲しい」
「え?」
「今、この屋敷に私の味方は誰もいないの。私が悪い子だって、皆がマリの肩を持つわ。でも、本当のことを知っている二人が味方になってくれると、とっても心強い。自分が一人じゃないって思えるの。どうかしら?」
「それはもちろんっ、私たちは最初からジュリエッタお嬢さまの味方です!」
「おれもそうですっ」
真っ赤な顔で勢いよく頷いてくれる二人にほっとした。
ちょっとだけ心配してどきどきしていた胸をそっと押さえる。
「本当? よかったわ。嬉しい」
熱が下がって日常生活に戻ってから、両親も使用人達もどこか腫れ物を触るように私を扱う。
マリを小川に飛び込ませるような所業を反省させるために、両親や乳母は叱ったり諭したりあれこれ言ってきたが、あれはマリの嘘で私は悪いことはしてないと頑として認めなかった。
最初からマリの嘘を信じて私から話を聞こうとしないのだから、ちょっと意地になった部分もある。
あの事件のあと、以前のジュリエッタとは言動が変わったせいもあるだろう。
あれだけマリマリと構っていた妹に一切関わろうとしなくなった。
庭に出ても元気に走り回ることなく花木の前で小一時間ぼんやり立ち尽くしたり、図書室で本を読んだりと静かに過ごす。
そんな私の変化に両親達も戸惑っているのだろう。
けれど私も、屋敷の皆がマリの側につき、自分の敵に回った気がしてとても苦しんでいた。
ほんの些細な両親の言動から、使用人達のちょっとした表情から、困惑や不快感を察してしまう。
人に話すと、気のせいだとかオーバーに捉えすぎだとか言われてしまうほどのわずかな気配だが、敏感に感じ取ってしまう自分の体質が恨めしい。
だからこそ、偽りない二人の真っ直ぐな心がどれだけ嬉しくて救いになったか。
屋敷にこんな頼もしい味方が二人もいてくれると思うと、心強く思える。
「あの……ですが、味方って何をしたらいいんですか?」
ポーラがおずおずと訊ねてきた。
「別に何かしなくてもいいの。ただ私のことを信じてくれる人がいるってだけで嬉しいんだから」
そう言うと、二人とも不満げな顔をした。
何かしたいと、役割を与えてくれと口々に訴えてくる。
「うーん、そうね。だったら、お話を集めてくれる? マリがお屋敷で何か変わったことをしたとか。誰かに何かを話して、それについて皆がどう感じたとか。あとは両親や使用人達が話していることも気になるかなあ。ムリしない程度でいいの。ちょっと屋敷内の噂話を聞いてみたいだけだから」
「他には何かないですか?」
ドルーはまだもの足りない顔をしている。
「ええ? そ、そうね。じゃ、もし何かあったときには手を貸してくれると嬉しいわ」
お願いすると二人はもちろんですと快く頷いてくれた。
さらに懇願されて、その流れで幾つか取り決めを行う。
話を集めたり手助けをしたりするのは仕事の邪魔にならない範囲で行うこと。
二人が味方だってことは秘密にすること。
マリには出来るだけ関わらないこと。
人形の件で嘘をついた先日のことをマリ本人に聞いたりしないことは一番に約束させた。
「おれたちは、ジュリエッタお嬢さまの味方ですから。絶対裏切ったりしません。何でも頼ってください。何でもやりますから」
さっきまで泣いていたドルーがやけに力強く訴えてきた。
ポーラも同じ顔で見つめてくる。
そんな二人の思いが嬉しくて胸が温かくなった。
はにかんで小さく頷く。
「ありがとう。二人とも、頼りにするわ」
何だかとても上手くいった感じがして安堵するが、ふと我に返った。
あら、これって私が二人を取り込んだことになるのかしら?
もしかして、私って原作マンガのマリエッタ化が進んでない?
待って待って、マリエッタ化しないように聞くべきものを聞いてやるべきことをやらなきゃ。
「こほんっ。その……二人はとても仲がいいのね。顔もよく似ているし、息もぴったりだわ。ご家族が皆そうして仲良しなの?」
「はい。私たちの家は小さな商家を営んでいるので、家族で協力しないとやっていけないんです。だから家族仲はとてもいいんです」
「羨ましい。何人家族なのかしら」
「両親と兄と、それと私と弟と妹の六人家族です」
「ふふ。大家族なのね。皆、お元気?」
その問いかけに、ポーラの顔がわずかに曇った。
「父が……ちょっと今体調を崩していますが、でも皆元気です」
やっぱりもう罹患していたんだ。
「お父さまは臥していらっしゃるのね。何のご病気か聞いてもいい?」
「十日熱です。なので、すぐ治るはずなんですが……」
けなげに笑みを浮かべるポーラだが、その目には心配する色が浮かんでいた。
ポーラの父親は外国の血が濃いのだろうか。
ポーラ達はそれを知らないのかもしれない。
「そう。大人になって罹ると少し大変だって聞くわ。ポーラ達のお父さまが早く治るように、癒やしの精霊さまにお祈りしておくわね」
近いうちにデジレ薬を用意してポーラに渡そう。
そうだわ、どのくらいの量が必要かもちゃんと調べておかなきゃ。
本に載っているかしら。
「ありがとうございます!」
ポーラ達は感激したように目を潤ませる。
仕事に戻りますと晴れやかな顔で立ち去っていく二人を見送ったあと、私も散歩の続きに戻った。
気分も明るくなって、足取りも軽やかだった。
恋愛色が出てくるまでなるべく頑張って更新します!
評価ありがとうございます。




