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子猫ちゃん=アップルモモンガ…?

いつも感想や誤字報告をありがとうございます!

 蝶を見送る私の後ろから、バタバタと駆けてくる足音が聞こえた。


「すごい、すごいですっ、ジュリエッタお嬢さま! お嬢さまは魔法使いだったんですね! あんなすごいことがお出来になるなんて。指先に蝶をとまらせるだなんて。一体どんな魔法をお使いになったんですか!?」


 ポーラが興奮して一気に話しかけてくる。

 真っ赤な顔でぴょんぴょん跳びはねるポーラ。

 久しぶりに見る十四歳という年相応なものでつられて私も楽しくなった。


「魔法じゃないのよ。でも、自分でもすごいって思った! びっくりした~っ。蝶が来てくれて実は私の方がドキドキしてたの! でも来てくれてよかったわ。無事に逃がしてやれたんですもの」


 そうそう! 

 私も最初に見たときは絶対魔法だって思ったのよね。


 ポーラの手を握って私も一緒にその場で跳びはねる。


「うんうん、僕もびっくりしたよ。野生の蝶を手懐けるなんて初めて見た!」


 突然声が聞こえて、ポーラと私はぴたりと固まった。

 特にポーラはやらかしたみたいな顔を一瞬して、握る私の手を解くとすすすと後ろに下がる。

 そのタイミングでアルノルド叔父さまが駆け寄ってきた。

 遅れてサマーも到着する。


「アルノルド叔父さま、見てたの?」


「見てたよ! ばっちり見てた。ギンブチモミジ蝶がジュリエッタの言葉を聞いて高度を下げるところから全部! はあ、本当にすごいなあ。あのギンブチモミジ蝶は警戒心が強い蝶でも有名なんだ。人を見ると逃げる種なのに、ああも簡単に指にとまらせるなんて最初は自分の目を疑ったよ。本当にびっくりだ!」


 アルノルド叔父さまは目をきらきらさせて大きな声で話しかけてくる。


「ふふ、前にお祖父ちゃまの研究所で蝶を指にとまらせたのを思い出してやってみただけなの。駄目でもともとって思ったんだけど成功してよかったわ。でも、あの蝶は警戒心が強いって本当?」


「本当さ。あれは捕まえるのに毎回苦労するんだ。それをあんな風に手懐けるなんて父さんにも出来るかどうか。ジュリエッタは本当に精霊さまに愛されているんだね。ああ、僕の可愛いアップルモモンガはすごいね! さすがは僕の精霊さまで愛しいアップルモモンガだ~っ」


 矢継ぎ早に話されて、しかも興奮のせいか途中から変な発言が交じり始める叔父さまに私の眉はしんなり下がっていく。


 ま……まあ、前世でもちょっと聞いたことがあるわ。

 外国では恋人や子供のことを子猫ちゃんだとかヒヨコちゃんだとか呼ぶって。

 そう考えるとアルノルド叔父さまの『僕の精霊さま』や『僕の可愛いアップルモモンガ』もこの世界ではおかしくはないのかもしれない。

 うん、そう思おう。


「アルノルド坊ちゃま、落ち着かれてください。ジュリエッタお嬢さまが呆れていらっしゃいますよ。それにしても、私も驚きました。ジュリエッタお嬢さまは本当に魔法使いのようですね。尖塔の暖炉では昔のルーチェの呼子を見つけられるし、ロングギャラリーでは蝶を手懐けられるんですから」


 サマーも少し興奮しているのか声が弾んでいた。


「昔のルーチェの呼子? 暖炉で? 一体何の話だい?」


 興味を示したアルノルド叔父さまに、先ほどの暖炉での出来事を話しながらポケットからハンカチに包んだ笛を出す。

 叔父さまに渡すと驚いたように目を丸くした。


「へえっ、本当にルーチェの呼子だ。しかもきれいな笛だねえ。それにずいぶん古い? あれ、でもこれ……」


 叔父さまの視線がロングギャラリーに並ぶ肖像画の方へ向かう。

 それを見て胸がどきどきした。


「叔父さま? もしかしてこの笛を知ってるの?」


 わくわくしている私に叔父さまは一瞬何か迷うような顔をする。

 が、すぐに「ま、いいか」と独りごちると私の背中を押して一緒に歩き出した。

 どうやらこのルーチェの呼子に関係する肖像画を教えてくれるらしい。

 

「ほら、これじゃないかな」


 連れられていった先にはひとりの女の子が描かれた絵があった。

 先ほど見た――アプリコットともピンクともつかない髪色をした印象的な美幼女の肖像画。

 叔父さまに抱き上げられて絵を近くからよく見ると、胸元に確かに同じ笛が描かれていた。


「本当だわっ。この女の子が持ち主だったのね! ねえ、叔父さま。この女の子はどなたかわかる? お祖父ちゃまと近しい人かしら?」


「うん、父さんの叔母に当たる方かな。この方はね、いや……」


 途中で言葉を途切らせた叔父さまに私は首を傾げる。


 もしかして何か曰く付きの女の子だったのかしら。

 聞いてはいけないことだった?


 何か考え込んでいる叔父さまをじっと見つめる。

 そんな視線に気付いた叔父さまは私の背中をポンポンと優しく叩いた。


「この方のことは父さんに聞いてみないとやっぱり話せないかな。ジュリエッタが聞いてごらん。父さんから直接話を聞いてみたらいいよ」


「今日の夕食のとき、お祖父ちゃまにこの笛を見せて大丈夫? その……悲しい気持ちになったりしない?」


 この少女に何か不幸なことがあったんじゃないかと心配する。

 だから叔父さまは詳しい説明をしてくれないんじゃないかと。


「ジュリエッタは優しいね。大丈夫、そういう心配じゃないんだ。だから安心して。逆に父さんに見せびらかしていっぱい自慢するといい」


 宥めるように優しく微笑まれてようやくホッとした。


 この美幼女は誰なのか。

 どうして内緒にしなければいけないのか。

 この子のルーチェの呼子がなぜ暖炉の上から落ちてきたのか。


 知りたいことはいっぱいあってお祖父ちゃまに聞くのが楽しみになる。


「よし、この後はどこに行くんだい? ジュリエッタのお屋敷探検に僕も参加したくなったよ」


 叔父さまは私を抱き上げたままロングギャラリーを歩き出す。

 収穫がいっぱいあったお屋敷探検もそろそろ終わりを迎えようとしていた。



僕の可愛い『ノミちゃん』や『キャベツちゃん』などもあるそうです。

世界は不思議ですね。

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