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マリは嫌い!

「マリに関わりたくない……」


 私の呟きと同時に、心の中のジュリエッタも同じ言葉をしゃべった。


 うん、だよね。

 あの性格はちょっと怖い。


 総てが自己中心的な所も人の気持ちを考えない身勝手さも、平気で周りを切り捨てていく冷酷さも受け入れられそうになかった。

 マリの中身は高校生くらい。

 ある程度の社会性があるはずの年齢なのにあんなひどいことをやるんだから、この先もきっと変わらないだろう。

 ううん、もっと悪くなるかもしれない。

 それに対抗出来るのかな。


 ため息を噛みつぶしたとき、小さなノックの音がした。

 体がびくつき固まる視線の先で、ゆっくりドアが開いていく。

 姿を見せたのは濃い金髪をふわふわとカールさせた双子の妹。


「ジュリ姉さま、目を覚ましたって聞いたわ。もう大丈夫?」


 マリの可愛らしい声に反射的に声が出た。


「マリは嫌い。大嫌いっ」


 心の中のジュリエッタが叫んだ声がそのまま口から飛び出した気がする。

 驚いたように目を丸くするマリに一瞬だけ後ろめたい気がしたが、後ろ手でドアを閉めたマリがにんまり笑って近付いてくるのを見て慌てて毛布を被って隠れた。


「あははっ、そうじゃなきゃ。熱が出たなんて、あんたも記憶が戻ったかって焦ったけどそうじゃないのね。相変わらずのジュリっぷりで安心したわ。傷ついた顔しちゃって、あー楽しい」


 枕元から嘲り笑いが聞こえてきて、毛布の端を必死で握りしめる。


「それでこそ、小川に落ちた甲斐もあるってもんだわ。冷たくて死ぬかと思ったんだからね。だけどせっかくあんたがこの屋敷で孤立するいい機会だったのに、熱なんか出したから半分ほど台無しになったじゃない。本当すっごい迷惑、あんたのために体を張ったのにどーしてくれんのよ」


 冷たい小川に飛び込んだマリだが、幸いにも風邪は引かなかったらしい。

 けれどジュリの方が高熱を出して、屋敷は大変だったようだ。

 そのため大人達の間では、あの時の――マリの嘘による――ジュリのとんでもない振る舞いについては一時保留になったようで、マリが文句を言っているのはこのことだろう。


「ま、あのオバサンのショックを受けた顔を見れただけでもいっかー。晩餐のときもずっと血走った目をしててさあ、ジュリと自分とこの息子との婚約は保留にさせてもらうなんてヒステリーをおこして、あの顔マジ受ける! いい気味だわ」


 マリの話に、そういえばジュリマリではそういう設定もあったなと思い出す。


 ソフィ伯母さまは伯爵家に嫁に行った。

 けれど子供が出来ず、平民である商家出身の第二夫人が産んだ息子が跡取りとして伯爵に認められる。

 このことで伯母さまは大激怒。

 私には優しい顔を見せていた伯母さまだけれど、家では夫に隠れて第二夫人と息子を散々いじめて苦しめていることが原作マンガでは描かれていた。

 

 そしてどうにか自分の血を伯爵家に残したいと、姪であるジュリを跡取り息子の婚約者候補にするのだ。

 そう、婚約者ではなくあくまで婚約者候補。

 伯母さまが勝手に決めて周囲に言い触らしているだけで夫の伯爵はまだ認めてはいない。

 けれど婚約者候補に名前が挙がっているせいで、ジュリが王子と恋愛する上での障害となってひと悶着あったりする。

 ジュリマリのマンガではそんな騒動も恋を進めるいいスパイスになったけれど。


 あと、伯母さまのいじめで歪んだ性格に育ってしまった跡取り息子は、実はマリエッタの手先として取り込まれて、ジュリを陥れるために策動する立場に。

 跡取り息子は密かにジュリに恋をしていて、それをマリに見抜かれて利用されるのだ。


「あ、でもヤバっ、だとしたら今度は私に婚約者候補のお鉢が回ってくるかも。いや、マジ勘弁。あのメガネ豚でしょ。あり得ないって。お父さまに言って、ソッコー拒否ってもらわないと。あーでも、あの資金力を捨てるのはもったいないかな。贅沢出来る金を誰か別の人間にやるのは何かムカつくし、メガネ豚に惚れられるのはキモいけど、ちょっと考えとこ」


 こうして私の部屋に来てぶつぶつ呟くのはマリの中の人のクセなのかな。

 もしかして口に出すことで気持ちの整理でもしているんだろうか。


 これまでは迷惑でしかなかったマリのおしゃべりだが、この先のマリの行動を知る機会だと思うとちゃんと聞いて対処に動こうと少しだけ前向きな気持ちになる。

 本当に少しだけだけど。


「ま、いいや。今日のところはあんたがジュリのままだとわかったから、それでいいわ」


 好きなだけしゃべると、マリは部屋を出ていった。

 毛布をゆっくり捲り上げて耳をすまし、もうマリが戻ってこなさそうなのを確信してようやくほっとする。


「……これからのことを考えよう」

 

 怖いからと今みたいに毛布を被っているだけでは、またマリにいいように扱われて傷つくだけだ。

 なるべくマリの言動から身を守れるようにちゃんと考えなければと、まだ怯えに強ばる指先をぎゅっと握り込むことで小さな震えを止める。


 本当は動きたくない。

 何かすることで、この先の展開が変わるのが怖い。

 けれどもう遅いんだ。

 もうジュリマリのマンガの通りにはいかない。

 何もかもが違いすぎる。

 だから自分のできる範囲でやれることをやる。

 

 

 だから考えよう。


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