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これからの楽しみなスケジュール!

「花びらにきれいなグラデーションをつけたかったのに、これじゃあダメね。自分で刺繍の図案を考えるって難しいわ。先生に聞くべきかしら」


 庭でスタイに刺繍をしていたが、思ったより上手く行かなくてため息をつく。


「ジュリエッタお嬢さま、少し休憩をなさいませんか? お茶を準備して参ります。ひと息つけば上手く行かないものも行くかもしれませんよ」

「ありがとう。でももうすぐお昼だし、今日はもうおしまいにするわ」


 ピクニックラグに広げていた刺繍のあれこれをお道具箱にしまい込む。

 針の数をきちんと数えてからスタイの布を一番上に乗せて蓋をする。

 お道具箱をポーラに持ってもらって、屋敷へと歩き出した。


 あまり器用な方ではなく刺繍も苦手だった七歳のジュリエッタ。

 けれど、今の私は細かい作業も結構好きだ。

 前世でも手芸はそれなりにやったことがあるし、刺繍を覚えたのは今世だけれど、ちまちまと刺す工程はなかなか楽しい。


 だから小さな刺繍なら簡単に出来ると思ったのに、そう上手くは行かなかった。

 刺繍の先生に相談せずに自分でデザインを考えて刺し始めたのだけれど、まだ習っていないステッチを使ったのがいけなかったらしい。

 家にある刺繍の本を参考にしたのだが、どうやら上級者用の図案だったようだ。


 刺繍の数が少ないためにスタイはほぼ完成しているけれど、納得のいく仕上がりにはほど遠かった。

 もう一度新たに作り直そうかと思案中である。


 お母さまは最近になってようやく起き上がれる日が多くなってきた。

 今日は久しぶりに家族で朝食を食べることができて私もホッとしている。

 食欲も少し戻ってきたようだ。


 けれど、しばらく続いたお母さまの体調不良は思わぬ所に影響を与えていた。

 お母さまラブのお父さまに、大きなダメージを与えていたらしい。

 元気になって喜んでいるお父さまだが、いろいろと神経質になっているのだ。

 今朝もお母さまの食事の手が少しでも止まると体調を気遣って大騒ぎして、お母さまに呆れられていた。

 お父さまのお母さまラブには困ったものだけれど、あんなに愛されて大事にされるのを見ると少し羨しくもある。


 ふふ、お父さまのお母さまラブが昔からだったなんて……。

 昨日教えてもらったことを思い出してつい笑ってしまう。


 ポーラが先輩メイドから両親の結婚騒動のひと幕を聞いてきてくれたのだ。

 お父さまとお母さまの結婚もなかなか劇的だったらしい。


 以前に聞いていたが、お母さまの実家であるバークレー子爵家はいろいろと噂があるせいで一部の貴族からあまりよく思われていない。

 そのせいでお父さまの家族からも結婚を強く反対されたのだ。

 特に、お父さまを溺愛していたソフィ伯母さまの妨害はひどかったらしい。

 しかしお父さまは、今はもう亡きお父さまの両親をあの手この手で熱烈に説き伏せると、伯母さまの説得はムリだと判断して結婚を強行したという。

 伯母さまはすでにロッシ伯爵家にお嫁に行っていたのも要因らしいが。


 伯母さまはショックを受けて寝込み、表だってお母さまを悪女扱いし始めた。

 それにお父さまは腹を立てて交流を絶ち、伯母さまもすっかりヘソを曲げた。

 そんなこんなが原因でつい最近まで伯母さまとは交流さえなかったらしい。


 言われてみれば、伯母さまとお会いするようになったのはここ数年のことだ。

 小さい頃のことはあまり覚えていないけれど。


 王宮でお祖父ちゃまがそれらしいことを言っていたのも思い出す。

 お父さまのお母さまラブは本当に筋金入りだ。


「ふふふ……」

「ご機嫌ですね、お嬢さま。そういえば、ジュリエッタお嬢さまは本当に新しいドレスをお作りにならなくてよかったんですか? 貴族社会での八歳のお披露目パーティーはとても大々的なものだとお聞きしますよ?」


 ポーラが思い出したように話しかけてきた。


 先日キース王子が八歳を迎えてお披露目のお茶会を開いたように、私とマリもこの冬八歳になることを祝ってお披露目のパーティーを行う予定になっていた。


 というのも、この世界において『八』という数字は特別な意味を持つ。

 前世の日本では『七』や『八』は吉数とされたし、とある外国では『四』が神聖な数字だったように、この世界では原初の精霊さまと呼ばれる存在が八人いらっしゃったことに由来して、『八』がとても縁起がいい数字として用いられるのだ。


 シュレーゲル国の八大庭園とか英雄八傑なんて使われ方をするが、他に人生の節目とされるのもお祝い事も八の数字がつく年齢だ。

 平民では八歳になると街の精霊廟にお参りに行って戸籍登録をするらしい。

 それまでは精霊さまの子と呼ばれて、住民の数に入らないというから驚きだ。

 前世の昔も乳幼児の死亡率の高さゆえに七つまでは神の子なんて伝承があったが、それと同じようなものだろう。


 貴族社会でも八という数字は重要で、大々的な誕生パーティーを開いて子供のお披露目をするのが八歳、社交界へのデビューとなるデビュタントも十六歳の年と決まっている。


 このお披露目パーティーが済んでから、友だちや婚約者候補を見つけるお茶会の開催が盛んになる。

 だから八歳のお披露目パーティーはとても大事なものだった。


 今朝久しぶりに家族で食事をした際に、そのお披露目パーティーの話題が出た。

 私とマリの誕生日は十二月の初めで、あと五ヶ月ちょっと。

 しかし赤ちゃんが生まれるのは一月の初めくらいだろうとのことで、何かあってはいけないためにお披露目パーティーの規模を縮小して身内だけにしようというお父さまからの提案だった。

 その代わりパーティー自体を豪華にするから、プレゼントもいっぱい用意するし、パーティー用に新しいドレスを作ってもいいと言われた。


 マリはすぐに『ギザルテ』を呼んで豪華な一着を作ってもらうんだと喜んだが、私は先日のお茶会に着ていったラベンダー色のドレスでいいと断った。

 代わりにおねだりしたのは普段着のドレスだ。

 王都でミアンと別れるとき、次は庭を走り回れるようなドレスが欲しいとリクエストしていた。

 これでようやく約束が果たせる。


「あのラベンダー色のドレスは特別だもの。だからいいのよ」


 色もデザインも素敵だが、それ以上にインクの染みで台なしになったものをミアンや『ギザルテ』の工房スタッフたちが素敵に蘇らせてくれた特別なドレスだ。

 そのドレスを着て参加したお茶会も楽しかったし、たくさん冒険もした。

 お祖父ちゃまやルカーシュさまに会うことも出来たし、紫菫の花のシャワーを浴びたのも精霊の祝福を授かったのもあのドレスを着たとき。

 楽しくて幸せな思い出がたっぷりつまっている特別なドレスなのだ。

 何度だって着たいし、何なら部屋に飾っておきたいくらいだった。


「今度の王都行きにも持っていくんだから。王宮へ行くときもあのドレスを着て、お祖父ちゃまからもらった髪飾りをしていくのよ。ふふ、とっても楽しみ!」


 先日お祖父ちゃまから連絡が来て、私の王都行きがひと月後に決まった。

 お祖父ちゃまのお屋敷があるのは王都近くだが、花のお屋敷からは少し遠くて馬車で四時間くらいかかるらしい。

 子供の身で長時間馬車に揺られるのは疲れるだろうからと、余裕を持って十日ほどの滞在が予定されている。

 お母さまの弟である叔父さまが迎えに来てくれるというのもちょっと楽しみだ。


 お祖父ちゃまからの手紙で知ったが、お屋敷には私の従兄たちもいるらしい。

 お母さまのお兄さまの子供で、十七歳と十四歳の男の子。

 二人の従兄も私と会うのを楽しみにしてくれているらしく、夏から予定していた隣国への留学を繰り延べて私が来るのを待っているという。

 そんなことを聞くともっと早く行きたいと思ってしまった。


 ただ、マリのヒステリーがこの頃ひどいのよね……。

 ふっと思い出してため息をつく。


 私の王都行きに対して、マリが自分も行きたいと抗議するのは当然のこと。

 私にも、一緒に行きたいと言うように脅してくる。

 そんなマリに、最近少し元気になったお母さまが頑張ってくれているらしい。

 今のところ、私ひとりでの王都行きとなっている。

 楽しみではあるけれど、果たして今後どうなるかが少しだけ不安だった。



少し説明回になりました。

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