側付きメイド見習いとポーラの成長
私のドレスをマリが汚したとき、部屋にはポーラがいた。
マリがその場で大声で罪をなすりつけたために皆がポーラを責め立てて、あの事件はすっかりポーラのせいになっていた。
そのためポーラは一時は謹慎処分になりかけ、もしかしたら最終的にはお屋敷を辞めさせられていたかもしれない。
あのままドレスが汚れたことで私がお茶会に出席出来ないなんて事態に発展していたら、一メイドの謝罪云々でどうにかなる損失ではなかったのだから。
結局ドレスはきれいになって私もお茶会に出席出来た。
だからポーラは辞めずに私についたまま。
それにマリは不満と不安を覚えたのかもしれない。
自分が濡れ衣を着せたポーラが普通に屋敷で働いているのだ。
マリとしてはさぞ落ち着かないだろう。
まだ実績も信頼もない新人メイドだから何か言っても信憑性を疑われるだろうが、悪事が発覚する可能性はきわめて高いのだから。
しかもあの際に、普段はマリが慎重に隠している『嫌なマリエッタ』の素顔をポーラが見たというのもある。
マリがポーラを辞めさせたがる理由はそんな風にいくつもあった。
「ドレスのことだけでも、王都にいるうちにお母さまに話しておけばよかったわ」
王宮のお茶会で色々あったせいか、ドレスを汚したのはポーラじゃなくてマリだと主張するのをすっかり忘れてしまっていた。
精霊さまの不思議に接して、ふわふわした気持ちがずっと抜けなかったのだ。
最終日のマリのおしゃべりで多少正気に戻ったけれど。
マリを可愛がるお父さまに話してもきっと信じてくれないだろうし……。
お母さまが早く元気になって普通におしゃべり出来るようになったらいいのに。
そうだ、エリーナに相談してみようかしら。
もどかしいような思いで、私は唇に指を当てて考え込む。
「あと、ご報告することはもう一件あります。マリエッタお嬢さまが見習いメイドのひとりを側付きとして採用なさいました。まだメイドとしても見習いですので、教育も終わっていませんしマナーもなっていないのですが、マリエッタお嬢さまがとても気に入って側付きメイドとして引き上げたそうです」
「えっ」
「旦那さまからの許可もすでに下りているため、今後はしばらくエリーナさんの下で見習いとして働くようですね。マリエッタお嬢さまに美しいリボンを二本ももらったとすっかり心酔した様子でした。私がマリエッタお嬢さまをいじめたと信じ込んで、休憩中にわざわざ文句を言いにやってきたほどです」
話を聞いて落ち着かなくなる。
もしかして、ポーラの代わりになるメイドとして採用したのではないかしら。
ジュリマリのマンガでは、隙を突かれて手先となったポーラはマリにいいように使われ、最後には弟共々悪事に手を染めることになった。
それがかわいそうだからポーラたちを助け出したのだが、だからといって代わりの人間がポーラの代わりにされるのは見逃せない。
本来のマリがそんな悪女となるのはまだ先の話だが、今のマリは現状で悪女だ。
マリの中にいる『嫌なマリエッタ』は、格下の人間はどうにでもできる存在だと考えている。
だから私の扱いもひどい。
自分のストレス解消のおもちゃのように考えているし、命令すれば自分のいいように動く手駒だと思っている節がある。
そして刃向かうことは決して許さない。
見習いメイドもそんな扱いを受けるのではないだろうか。
その子も助け出せたらいいんだけれど……。
「私が見るに、その子はマリエッタお嬢さまの言いなりになっているようなんです。見習いのせいか、何がよくて何がいけないのかまだよくわからないせいもあるんですが――先ほど話をしたときも、大きなミルク瓶を抱えていました。聞くと、マリエッタお嬢さまがミルク風呂に入りたいとおっしゃったそうです。エリーナさんに確認を取ったか訊ねると、『マリエッタお嬢さまが、私を見込んで特別に頼んだ内緒事なんだ』と誇らしげに答えました。慌ててエリーナさんに言って止めてもらいましたけど」
それを聞いて、やっぱりと私はため息をつく。
エリーナはベテランだからこそ、マリが何を言っても動じない。
自分の意のままに人を動かすことに長けているマリだが、大人の冷静さと公平さを備えたエリーナには、甘えやわがままを口にしても逆に諭されるようだ。
それが面白くなくて自分の言うことを聞けとマリが癇癪を起こしている場面を何度も見た。
いつものマリのおしゃべりでもエリーナへの不満は何度も聞いている。
使い勝手のいいメイドが欲しいとも。
だからエリーナの代わりに――立場の弱い、まだ分別もろくにない見習いメイドを使い倒すつもりなのかもしれない。
自分に心酔している子だから、いいように使いやすいのもあるはずだ。
ずる賢いというか、変に知恵が回るマリが本当に憎らしい。
「その子を助けられないかしら。そうだわ、名前も教えてちょうだい」
「失礼ながら――私は、ジュリエッタお嬢さまが嫌な目に遭ってまでお助けする必要を感じません。ですので、見習いメイドの名前も本来ならお教えしたくないのですが……」
思った以上に厳しいポーラの言葉に驚く。
目をパチパチさせる私に、ポーラは困った顔で話し出した。
「見習いメイドの名はベサニーと言います。その子も善意からマリエッタお嬢さまの言いなりになっているわけではないように思います。商会を営む準男爵の庶子で十四番目の子供だそうで、そういう環境もあって上昇志向がとても強いみたいです。早くお客さまの前に出られるメイドになって、いい人に見初められたいが口癖だそうです。そのためなら何だってすると普段から言いふらしているらしくて」
わー、ベサニーって子はなかなかすごいメイドみたいだ。
「どうも要領がいいタイプのようで、きつい仕事は人に押しつけて楽で目立つ仕事ばかりを選ぶと、同じくらいに入った見習いメイドからはとても評判が悪いです。ずる賢いなんて話も聞きます」
それにポーラもすごい……。
王都でのドレスの件があってから、ポーラは急にしっかりした気がする。
私を守ることを一番に考えてシビアにものを見たり考えたりするようになったのだ。
頼もしい反面、ポーラのお姉さん気分でいた私としては、置いて行かれた気がしてちょっとだけ寂しい。
「……それは、うーん。難しい子ね」
「ですから、お嬢さまは出来るだけ関わらないでくださいませ。ベサニーのことは私が気を付けて見ておきます。何よりエリーナさんが上司ですから」
「そうね、だったらよろしくね。あ、それと一度エリーナときちんと話がしたいわ。マリのやったことをお母さまに相談する件もどこまで進んでいるのかわからないし、ポーラがマリに狙われていることも力になってもらえると思うの。でも、マリに内緒でエリーナと話が出来るかしら」
「それでしたら大丈夫です。今回のスタイを作る件を持ちかけて、エリーナさんをジュリエッタお嬢さまのお部屋にお呼びしましょう」
任せてくださいと請け負ってくれたポーラに、本当に頼もしくなったなと微苦笑した。
誤字報告をいただきました。
ありがとうございました!




