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強欲爛漫なマリと憔悴するお母さま

 翌々日の夕方、宿泊する伯爵家にお祖父ちゃまから髪飾りが送られてきた。

 といっても、私が無くした髪飾りではない。

 研究所をくまなく探したが見つからなかったからと、お祖父ちゃまが新しい髪飾りをプレゼントしてくれたのだ。


「可愛い……」


 伯爵家の応接室で、ビロードの箱に入った髪飾りをうっとり見つめる。


 お祖父ちゃまのセレクトは何とも愛らしい髪飾りだった。

 小さな花が幾つも寄せ集まった可憐なデザインで、小粒だが透き通った紫水晶が一粒。

 紫を基調としたシックな色合いも上品だ。

 子供用のおもちゃの髪飾りでは決してなかった。


「本当に。ジュリエッタによく似合う髪飾りね。お父さまも見る目があるわ。でも、高価なものじゃないかしら。お父さまったらもう少し子供らしいものでもよかったのに」


 お母さまも感心したほどのセンスの良さで、私もひと目見て気に入った。

 ドレスとお揃いの髪飾りがなくなってしまったことは残念だけれど、こんな素敵な髪飾りをもらったのだ。

 現金だが、心も躍って頬も緩んでしまう。


 髪飾りはマリの分もあった。

 こちらは黄色の大きめのリボンと花を組み合わせた華やかなデザインだ。

 小さな色水晶が幾つもちりばめられているなかなか豪華な髪飾りで、マリがお茶会のときに着ていたドレスにきっとぴったりだろう。

 どうやらお祖父ちゃまは私たちのドレスの色から髪飾りを選んでくれたらしい。


「お母さま。これ、本当に高価なものなの? 石だってこんな小さいのに」


 ただマリエッタはあまり気に入らなかったようだ。

 ビロードの箱を片手で持って、つまらなそうな顔をしている。


「マリ! はしたないことを言わないで。宝石に大きいも小さいもないのよ。見る人が見ればこれが高価な品だってちゃんとわかるんだから」

「でも、お母さま。宝石は大きければそれだけ高いのよ。大きい方がキラキラしてきれいじゃない」

「マリ、あなたはどうしてそう……」


 お母さまが困ったように眉を下げた。


 王都に来て、マリが思い切りはめを外している。

 お金持ちや権力に取り入ったり我を忘れて品がない発言をしたり。

 ソフィ伯母さまにすり寄って子供には不相応な買い物を楽しんだこともそうだし、王宮でのお茶会でキース王子に変なアピールをしたのもそう。

 お祖父ちゃまに高価なブローチをおねだりしたことも仰天するひと幕だった。


 そんなマリにお母さまは心を痛めている。


 気の向くままに明るくふるまう姿は以前と一緒だが、今のマリは天真爛漫というより強欲爛漫だ。

 純粋じゃないし、私欲も邪気もありすぎる。


 やだ、我ながらちょっといい言葉を作り出してしまったわ……。


 マリの意識が自分に向いてないと少し心に余裕ができるのかもしれない。

 にやつこうとする唇をこっそり引き結んだ。


 今のマリはもともとあった強い物欲や金銭欲がほとんど隠せていない。

 言葉は悪いが、そんなマリの化けの皮が剥がれるのは私にとって助かる。

 が、そのせいでお母さまは振り回されているのだ。 

 お母さまのことはあまり悲しませて欲しくないなと思ってしまう。

 最近はとても矛盾する毎日だった。


 それでもおととい――王宮から戻った日はさすがに疲れてマリも静かだった。

 私より先にさっさと寝てしまって騒動も起こさなかったので、お母さまも一安心だっただろう。

 私もホッとしたのは言うまでもない。


 しかしそんな穏やかな時間は半日も続かなかった。

 翌日――昨日の朝には、屋敷にエステティシャンを呼んでエステを行うといったソフィ伯母さまにマリが目の色を変えたのだ。

 私もやりたいと伯母さまの部屋に突撃するマリを、お母さまが青くなって追いかけたのは言うまでもない。

 昨日は一日マリの姿を見なかったので伯母さまのエステに参加できたのだろう。

 代わりにお母さまが可哀想なくらいに憔悴していた。 


「だってお母さま、伯母さまの指輪を見て。とても大きなダイヤモンドなのよ。高価っていうのはああいう指輪のことを言うんだわ」


 ソフィ伯母さまの指輪を示すマリに今もお母さまは困った顔をしている。


「ほほほ、マリエッタはよくわかっていること。そうよ、これは王妃さまが今一番気に入っていらっしゃる薔薇シリーズの指輪だからとても高価なのよ。カットの仕方が特別でね、ほら――ダイヤモンドの中に薔薇の輝きが見えるでしょう?」


「まあ、素敵だわっ! 伯母さまは他にどんな宝石を持っているの? 私、伯母さまに連れていってもらった宝石店を訪れてからジュエリーに興味があるの。伯母さまのことだから、さぞ高価なジュエリーをお持ちなんでしょう?」

「あらあら、王都でも一番の宝石店に連れていってしまったから、マリエッタはジュエリーが好きになったのね。子爵令嬢のあなたには少しすぎた趣味を持たせてしまったかしら。ほほほ……」


 マリと伯母さまは性格や価値観がすごく似ているのだろう。

 以前マリは自慢話がうるさいなんて言っていたわりに二人の会話は弾んでいる。

 お母さまがハラハラして見守る中、マリは晩餐のあとに伯母さま秘蔵の宝石コレクションを見せてくれるように約束を取り付けていた。


 だったら今日もゆっくり眠れるかしら?

 今日こそはマリが部屋に押しかけてくると思っていただけに少しだけ安堵する。


 あの時は本当にしつこかったから……。 


 おととい王宮からの帰りの馬車でのこと――アントンと二人でお茶会を抜け出した経緯をマリからはしつこく追求された。

 とても不機嫌に、言葉尻ひとつに絡んでくるようなマリにお母さまも窘めたくらいだ。

 特にキース王子に会っていないかは何度も訊ねられた。

 その様子から見るに、マリはキース王子に会う前にお母さまに確保されてしまったらしい。


 馬車の中では、そんなマリの話がきっかけとなって、その後はお茶会から脱走したことについてのお叱りの時間となった。

 私は神妙に謝ったが、マリはむくれて唇を尖らせるばかり。


 お母さまが追いかけてきたせいでキース王子と出会うチャンスを逃した、なんてジュリマリのマンガを読んでいないとわからない言い訳を口にして、だったらお茶会の会場で話しかけなさいなんてお母さまからは反論される始末。


 ですよねえ、なんて青筋を立てているお母さまの言葉を聞きながら私も心の中で呟いた。


 ただキース王子がしばらくの間会場から姿を消していたのは事実らしい。

 ジュリマリのマンガのように、疲れたからと抜け出してバラ園で息抜きをしていたのだろうか。


 あの時――――アントンを探していたときもその後も、キース王子のことは思い出しもしなかったけれど、もし私が別の場所へ足を運んでいたら、本当にキース王子と出会って物語が始まっていたのかもしれない。

 ちょっとだけ夢のようなことを想像してしまった。


説明回になりました。

少し苦労しました。

もしかしたら後ほど改稿するかもしれません。

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