予定外に次ぐ予定外と結末
03
こちらを真っ直ぐと見ているから改めてわかったけど、正面から見たルードの顔つきは、ゲームの立ち絵とは比べものにならないほどのイケメンだった。
ゲームでは、プレイヤーから豚と呼び名がつけられるほどの肥満体で、制服がはち切れそうな見た目で描かれていたのに、このルードは制服を着ていないことは無視しても同一人物とは思えない外見をしている。
この世界では珍しい黒髪、目つきがいささか鋭すぎる印象だけど全体的な顔立ちは整っているし、体つきは上半身がタンクトップ一枚なおかげで鍛え抜かれた肉体が目にまぶしい。
なんだろう。細マッチョなイケメンスポーツマン?
「お前達がアーシアを助けようとしたのだろう? 褒めてつかわす」
もう、声もゲームとは違って聞こえる。
完全に俺様系のワイルドイケメンにしか思えない。
なんでこのバージョンのルードが初代に出てこなかったのかしら?
このバージョンが隠しルートとかで出てれば、ルードの人気は結構なものになっていたと思う。少なくとも、初代しか登場しないってことはなかったでしょうね。
「あ、あなたが彼女の……その主人ってやつなんですか?」
「き、貴様! 平民が陛下に口を利こうなどと」
「よい。ザコーイよ。そうだ。そやつは我の奴隷だ」
「奴隷なんて間違っています。彼女は人間なんだ。奴隷だなんて言ってあんな風に乱暴するのはおかしい!」
「き、貴様! 陛下に対して何という口を!」
ジョン!?
なにやってんの!?
ルードがあまりにもゲームと違うから放心してたら、ジョンがとんでもないことやらかしてた。
国王にもの申すなんてヤバすぎる。
この世界では、貴族相手に平民が意見するのにも正規の手続きを踏まないと罪になる。王族が相手だと罪がさらに重くなって、死刑にされてもおかしくない。
それぐらい馬鹿なあんたでも知ってるでしょ?
と言うか、馬車の中でさんざ注意したじゃない。
なんでいきなり最悪な行動取ってるのよ!
「こ、国王陛下と存じ上げます。こいつは、田舎から出てきたばかりで陛下の偉大さも礼儀も、何も分かっていないのです。どうか、どうかご温情を賜りたく……」
慌ててジョンの頭を引っ掴んで、無理矢理地べたに押しつけ、私も額を地に着けながら早口で捲し立てる。
なんとかジョンの行いを許してもらわないといけない。
ゲーム通りの性格ならよいしょしてやれば、気分良く許してくれそうな者だけど……
「なるほど……田舎者だから見逃せ……と」
「どうか! どうか! 偉大なる国王陛下の大海のごとく広いお心にお縋りさせてください」
もう、予定が狂いまくりでどうすればいいのよ。
基本的な流れはゲームとほとんど同じだけど、相手が男爵の子どもだったモーブじゃなくて、国王のルードになってるんだから問題のヤバさが段違いじゃない。
どうするのよ。
ていうか、どうなるの?
相手がルードでもエリザベートが助けてくれるわけ!?
「ヘレン、間違ってることは間違ってるって言わないと」
「黙って! あんた自分がどれだけ大変なことしてるか分かってるの!?」
分かってないわよね。
分かってないからそんなことが言えるのよね?
お馬鹿だとは思ってたけど、ここまで馬鹿だなんて思わなかったわよ!
「っくっくっく。本当に分かっていないのだな」
ルードが喉の奥で押し殺すように笑っている。
「今日は目出度い日だ。許してやろう。田舎者よ。平民が王族に直接話しかけることは、暗黙の了解などではなく法が認めていない。それどころか意見するなど本来なら極刑に値することだ。二度はない。今後はそのようなことがないように気をつけよ」
「あ、有難き幸せ!」
軽くあげた額をもう一度地面に押しつける。
ゲームとは性格まで違ってる。けど、そのおかげで本当に助かったわ。
懇切丁寧に何がいけなかったのか、何故いけないのかまで説明してくれるなんて、このルードはゲームと違ってすごいまとも――いえ、すごい優しい性格してるわ。
それこそ、エリザベートとかエリックみたいじゃない。
「そんなことじゃ、間違いも正せないじゃないか! 間違ってることは間違ってる!」
私の手をふりほどいてジョンが立ち上がってそんなことを宣いやがった。
嘘でしょ!?
なんでこうなるのよ。
ゲームだったら、エリザベートやエリックが間に入ればとりあえず引き下がってたじゃない!?
「二度はない。と、言ったな? まぁいい。間違いを正そうとするその行い自体は立派な志だ。しかし、それには力が伴っていなくては何の意味もない。むしろ、お前のように力を持たずただ口だけで意志を通そうとする行いは悪と言える行いだ」
ルードはそう言ってジョンの目を真っ直ぐと見つめる。
「暴力で言うことを効かせるなんて間違ってる。人は言葉でわかり合えるはずだ」
「…………それをお前が言うのか」
え? 今なんて言ったの?
なんか、ルードがすっごい呆れた顔してるんだけど? 声が小さすぎてぜんぜん聞こえなかった。
「暴力など力の1つでしかない。財力、権力、力と名がつかずとも人脈とて力の1つだ。お前が言った奴隷制の廃止と言う意見を実現するためには、少なくとも権力と財力が必要だ。そしてお前はそのどちらも持ち合わせてはいない」
「でも、あなたは王様なんでしょ? あなたが言っている通り力を持ってる王様なら、間違ってると思ったことを正しく出来るはずだ」
「つまり、お前は他人の力を当てにしているのか? なぜ俺が奴隷制を廃止しなくてはいけない?」
「奴隷なんて言って人が人を虐げるのは間違ってるからだ」
「それはお前個人の意見でしかない。俺は、奴隷と言う制度が間違ってるとは思っていない。だと言うのにお前は奴隷制をやめろと言うのは何故だ?」
「貴族が他人をおもちゃにするために奴隷なんて言う人を人として扱わない枠に押し込むのは間違ってるって言ってるじゃないか!」
「ふむ……事実を知らずにそう考えるのはお前の自由だが、もう一度言おう。それは、お前の個人的な価値観であって、それを俺に押しつける理由は何だ? と言っているのだ――いや、そもそもんな間違った話を誰に聞いたんだこいつ?」
またルードが最後になんかごにょごにょ言ってる。
なんて言ったのかしら?
ていうか、ジョン……マジ黙ってよ。
下手に口を挟めないし、どうしたらいいの?
「押しつける? 間違ってることを間違ってるって言ってるだけじゃないか」
「話にならんな。奴隷の扱いは王国法によって厳格に定められている。仕事内容によって最低でも月あたり銅貨5枚の賃金に加え、所有者が衣食住を保証する義務も生じる。所有者と奴隷は労働に関する契約を結ぶ義務があり、契約外の職務は拒否する権利を有している。加えて、契約時に取り決めた金額を支払うことで自身を買い戻すことも可能だ。これ以上の条件は諸外国を見ても見当たらん。奴隷になることで寒村の不要な口減らしを防ぎ、犯罪者の罰則としても扱えるのだから奴隷と言う制度は我が王国に必要な物だ。それをお前の個人的な価値観で否定される謂われはない」
え? 奴隷って法律で守られてるの?
そんなの知らないんだけど?
だって、ゲームでは奴隷は物としか扱われないで、酷い扱いをされてるって……
「え? でも……ヘレンが……」
こっち見んな!
いや、確かに馬車の中で、街中で首輪してる人を見たジョンに奴隷の話はしたけどさ。まさか、こんなことになるとは思わないじゃない。
「ほぅ……その女がな……」
ひっ! ルードまでこっち見てるし……
なんでそんな獰猛な肉食獣みたいな笑みを浮かべてるの?
「ふん……まぁいい。無知から来る勘違いとは言え、二度はないと警告はしていた。本来なら死罪だが、学院入学という晴れの日に血を流すのはやはり気分が悪い。自分で奴隷となって奴隷がどのようなものかを知るが良い」
「お、お待ちください陛下! どうか、どうかご温情を」
まさかのジョンが奴隷落ち!?
そんなことありえるの!?
なんでここまでゲームと違う話になってるのよ!
キャラクターの名前も、ジョンの私への恋心もゲームの通りだったじゃない!
「二度はないと言った。俺は王として自身の言葉を違えるわけにはいかん。本来ならば、王族への直訴、王族への国政批判、本人どころか二親等以内にまで連座するところを本人だけで済ませてやるのだから十分な温情だ。それと、お前もだな」
「え!?」
私? 私が何?
「奴が言っていた奴隷の扱いは間違いだらけだ。それをお前に聞いたとも言っていたな? 虚偽の風説を流布し、国家の信用を貶める行いは国家転覆につながりかねん明確な国家反逆罪だ。さすがにこれは見逃せん」
「え? えっ!?」
何? どういうこと!?
国家反逆罪って何!?
「分かっていないようだな……貴族は奴隷に酷いことをしている。それをお前がただ友人に話しただけならば、ここまで大きな罪とはならなかっただろう。しかし、それを聞いた人間はそれを信じ、俺に直訴するまでの行いをしてしまった。これも1つの罪であるし、これの規模がより大きくなれば、虚偽の風説により何人、何十人と言う人間が我が国への不満を募らせる。最終的には内乱が起こることすらあり得るだろう。お前はその切っ掛けを作ったのだ」
「そんな! 私はそんなつもりなんて!」
「なかったのか?」
「はい!」
そんなつもりなかったわよ。
って……なんで、顔を寄せてくるの?
「だが、国家転覆を図っていただろう? 主人公と一緒にな」
「え!?」
主人公って……え!?
「早めに終わって欲しいとは思ってたけど、まさか初日に全部終わるとは思わなかったよ。色々対策立ててたのに全部無駄になったな」
「どういうこと!?」
「転生したのがお前だけだと思ったのか?」
耳元でそう囁かれ、驚きのあまりに硬直してしまう。
まさか、私以外にも転生していた人間がいたなんて、考えても見なかった。
しかも、それがラスボスだなんて、誰が想像つくのよ。
「まぁ、圧政なんて敷いてないから根本的に条件が違うけどな。危険の芽は早めに摘んでおかないといけない身分なんだ。ま、考えが足りなかった自分を恨め」
そう言ってルードは顔を離すと真紅の瞳で私の目を真っ直ぐと見つめながら、冷たい笑みを浮かべた。
「特別に死罪は勘弁してやる。ザコーイ、アーシア、こいつらを連れて行け」
「はっ!」
「かしこまりました」
ちょっと待ってよ。
どうなるの?
私の素敵な新婚生活は?
私の素敵な王妃ライフは?
私の素敵な未来はどうなっちゃうの!?
「嫌よ。何でこうなるの!? 助けて! エリザベートは何やってるのよ! 助けてよ! 誰か助けてよ!」
離して。離してよ。
何でこうなるのよ。
「いや……いやああぁぁぁっ!」
まさかの主人公退場という1つの結末




