1126話 あれっ、増えた?
皆で冒険者ギルドに戻ると、ランカさんの元へギルド職員の男性が走ってきた。
「良かった。今、呼びに行こうと思っていたところなんです」
「そうなの? 戻ってきて正解だったというわけね」
ランカさんが笑って言うと、男性が安堵した表情を浮かべた。
「少し前から、『フーファ道具店』で道具を買った冒険者達が集まり始めまして、職員がいつ買ったのかを確かめて、問題の道具を買った冒険者はあちらに集めてあります」
男性職員が指したほうを見ると、不安そうな表情をしている冒険者達がいた。
「みんな若いわね」
「はい、ほとんどが下位冒険者です。彼等が欲しがるような道具を選んで、あれを組み込んだのかもしれませんね」
男性の説明にランカさんが頷くと、私に視線を向けた。
「アイビー、お願いしていいかしら?」
「はい。ソラ、ソル、大丈夫?」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
「てりゅ~」
ソラとソルがうれしそうに鳴くと、フレムが不貞腐れたように横に伸びる。
それを見て、思わず笑いそうになる。
「ぷっ……ん。ソラ、ソル、よろしくお願いね。フレムとシエルは、ちょっと待っていてね」
笑いを抑え込んでソラとソルに声を掛けると、うれしそうに、冒険者達が集まっている場所へ向かった。
シエルは不貞腐れているフレムを咥えると、隅に寄って、ソラとソルの様子を見つめた。
「あっ、説明しないと」
「手伝うよ」
ランカさんが慌てた様子でソラ達の後を追うと、シファルさんも一緒に冒険者達の所へ行った。
集まっていた冒険者達は、ランカさん達の説明を聞いてから、ソルとソラの治療を受けた。
魔力切れを起こし倒れると説明されていても、次々と倒れる冒険者達の姿に、待っていた冒険者達からどよめきが起きた。
私とお父さんは、ジースさんのお手伝いをする。
彼は、無効化し終わった道具に描かれた魔法陣を見て、同じ文字や絵が使われているか、1つ1つ確認していた。
「これは集めてどうするんですか?」
確認し終えた道具を、ジースさんが用意したマジックバッグに入れる。
「確実に処分するまで見張ります。これは不用意に捨てられませんから」
ジースさんの言葉に頷くと、小さな溜め息が聞こえた。
「大丈夫ですか? 疲れているなら休憩をしましょうか?」
「ははっ。この問題に関わってから、ちょっと眠れていないんですよ」
「そうなんですか?」
「はい」
ジースさんを見ると、さっきより疲れた表情をしていた。
「使用されているあれに、何か気になる事でもあるんですか?」
お父さんの問いに、ジースさんの肩がビクッと揺れる。
「そうですね。えぇ、そうです」
ジースさんが辛そうに答えると、お父さんは「そうか」と小さく呟いた。
なんとも言えない空気に、私はソルとソラを見る。
「あれ?」
「アイビー、どうした?」
「……お父さん、黒のスライムが2匹いるように見えるんだけど、目の錯覚かな?」
「「はっ?」」
私の呟きに、お父さんとジースさんは慌てて冒険者達のほうを見る。
「本当だ。ソル以外にも黒のスライムがいるな。しかも無効化に協力しているな」
「そうですね。いつからいたんでしょうか? というか、誰も気付いていないんでしょうか?」
ランカさんが私達の視線に気付いたのか不思議そうな表情でこちらを見る。
そして私達の視線の先を見て、目を大きく見開いた。
「シファル、シファル」
「どうした?」
「あれ?」
「んっ? ソルがどうした……2匹いるな」
あっ、ソルが無効化しようとした冒険者を、もう1匹の黒のスライムが取った。
「ぺふっ?」
あれ?
ソルが黒のスライムを不思議そうに見てるって事は、もしかして……。
「ソルも他の黒のスライムがいる事に気付いていなかったみたいだな」
お父さんの言葉に、私とジースさんが頷く。
「アイビー、アイビー」
ラットルアさんの声に視線を向けると、ヌーガさんと一緒に傍に来て、黒のスライムを指した。
「あれって、どういう事?」
ラットルアさんの問いに、私は首を横に振る。
「わかりません。気付いたらいました」
「そうなんだ。まぁ、ソルと一緒に対応してくれているみたいだから、問題はないんだろうけど……」
ラットルアさんはそう言うと、黒のスライムを見た。
黒のスライムが1匹増えた事で、無効化が早くなり、30分ほどで全てを終える事が出来た。
「すごいわね、回収した数は84個。冒険者ギルドの前で1個、お店で3個を回収しているから88個を回収出来たわ」
「残り4個だな」
ランカさんが、回収した道具の種類や数を書いた紙を見て呟くと、ヌーガさんが残りの数を教えてくれた。
「残り4個か。何処を探したらいいんだろう?」
残りを探すほうが大変かもしれないな。
「とりゅっ」
初めて聞く鳴き声に視線を向けると、黒のスライムが女性冒険者を見つめていた。
「ぺふっ」
ソルもその女性冒険者の周りを飛び跳ねている。
「えっ? 何? 私は『フーファ道具店』では買っていないわよ?」
女性冒険者が戸惑った声を上げると、ギルドの男性職員が彼女に近付く。
「失礼します。最近、道具を買いましたか?」
「はい。1週間前に盾を買いました」
「見せていただけますか?」
女性冒険者の言葉に、シファルさんが嫌そうな表情をした。
「まさか、他の店もか?」
「これです」
女性冒険者がマジックバッグの中から盾を出すと、ソルと黒のスライムがうれしそうに鳴き声を上げた。
「えっ、まさか?」
女性冒険者も問題に気付いたのか、両手で持っていた盾をそっと地面に置いた。
「どうしたらいいですか?」
泣きそうな表情をする女性冒険者に、男性職員は奥を見る。
彼の視線の先にいた、50代くらいの女性職員が、女性冒険者の傍に来た。
「失礼します。少し奥に来てもらっていいですか? 購入店など詳しく知りたいので。盾もこちらに」
「とりゅ~」
「ぺふ~」
女性職員に向かって不満そうに鳴く、ソルと黒のスライム。
それを見た女性職員は、笑って2匹の頭を撫でた。
「この盾は、少し待ってね。詳しく調べないと駄目だから」
「ソル、仕事の邪魔をしちゃ駄目だよ。えっと、あなたも」
私はソルの傍に行くと、ソルの頭を撫で、もう1匹の黒のスライムを見る。
「1匹だと思っていましたが、黒のスライムを2匹テイムしていらしたんですね」
女性職員の言葉に、私は首を横に振る。
「いいえ、私がテイムした子はソルだけです」
ソルを抱き上げて見せると、女性職員は驚いた表情で、もう1匹の黒のスライムに視線を向けた。
「まぁ、そうでしたか。あなたは何処から来たの?」
女性職員が黒のスライムを見つめる。
「あら、この子はテイムの印がありませんね」
女性職員の言葉に、黒のスライムを見つめる。
「本当だ」
「ヒシュ、奥から出て来るなんて珍しいわね」
ランカさんが女性職員に声を掛けると、ヒシュさんはランカさんを見た。
「人手が足りないからよ。それより、冒険者に戻ってからの活躍は聞いているわ。戻って正解だったわね」
「えぇ、本当に」
ランカさんがうれしそうに笑うと、ヒシュさんはホッとした様子で微笑んだ。
「黒のスライムはお願い出来るかしら? 私は、盾の問題を調べないといけないから」
ヒシュさんがランカさんを見る。
「わかったわ」
「ヒシュさん。盾は私が調べます」
ジースさんがヒシュさんに声を掛けると、ヒシュさんは笑って頷いた。
「ありがとうございます。専門家がいてくれると助かりますわ」
ヒシュさんが女性冒険者に声を掛けると、彼女と一緒に冒険者ギルドの奥へ向かった。
ジースさんは、盾を持つと、ランカさんとお父さんを見る。
「すみませんが、こちらを先に調べてきます。早急に、対応しないといけない場合がありますので」
「わかったわ、気を付けてね」
ランカさんの言葉にジースさんは頷くと、盾を持ってヒシュさん達を追いかけた。




