1125話 冒険者は助け合うもの
頭にソルを乗せた男性は、下位冒険者のトールと名乗った。
彼は10日前に『フーファ道具店』で防護力を上げる道具を購入したらしい。
「これです」
トールが腰から下げている道具をランカさんに見せると、ソルがひと声鳴き、道具ごと包み込んだ。
「トール、落ち着いて、ソルが問題を解決してくれているから」
「はい」
ランカさんの説明に、トールさんは緊張した面持ちで頷く。
「ぺふっ」
ソルがトールさんから離れると、ランカさんは座っているトールさんの背に手を添えた。
「具合は大丈夫?」
「具合ですか? とくに……」
トールさんは話している途中に意識を失い、後ろに倒れかける。
ランカさんは倒れたトールさんを支えると、彼の隣に座っていた女性に声を掛けた。
「申し訳ないけど、彼を支えてもらえるかしら」
「はい。トールはどうしたんですか? 大丈夫なんですか?」
トールさんを支えた女性は、泣きそうな表情でランカさんを見る。
「魔力切れを起こしたの」
ランカさんの説明を聞いた店内の冒険者達が、少し騒がしくなる。
魔力切れは命に関わる事だからだろう。
「ぷっぷ~」
ランカさんが説明しようとすると、ソラがトールさんを包み込む。
支えている女性の腕もソラが包み込んでしまったので、女性は小さな悲鳴を上げた。
「大丈夫よ。この子はトールの治療をしてくれているだけだから」
ランカさんの説明に、青い顔をした女性は何度も頷く。
「ぷっぷぷ~」
ソラがトールさんから離れると、ランカさんがトールさんの魔力を探る。
「とりあえず大丈夫ね。誰か手伝って、トールを医者の元へ運んでちょうだい」
「俺が手伝います。トールとはチーム仲間なので。あの、俺も10日前に新しい道具を買ったんですが、大丈夫なんでしょうか?」
トールさんの前に座っていた男性の問いに、ランカさんが視線を向ける。
「何処の店で買ったの?」
「『マルール』です。そこで俺も防護力を上げる道具を買いました」
男性は心配そうな表情で、ランカさんを見つめる。
よく見ると、他の冒険者達も、ランカさん達の会話を静かに聞いていた。
「『マルール』で買った物なら問題ないわ。問題になっているのはトールに説明した通り『フーファ道具店』で売っていた道具よ。私たちは、『フーファ道具店』で3週間以内に買い物をした冒険者を探しているの」
「俺! 俺です」
少し離れた場所に座っていた男性が手を上げて立ち上がる。
その彼の前に座っていた男性も、戸惑った様子で手を上げた。
「ぺふっ!」
ソルは、立ち上がった男性の元へ跳んで行くと、ジッと彼を見つめる。
「えっと。あっ、買った道具。これ。これだけど」
男性は、ソルに『フーファ道具店』で購入した道具を見せた。
ソルはそれを見つめると、そのまま彼の手ごと包み込んだ。
男性は、息を呑んでソルを見つめる。
「おい、座ったほうがいいぞ」
男性の隣にいた、彼より少し年配の男性が声を掛ける。
「えっ」
「魔力切れを起こすかもしれないんだから」
「大丈夫だと思うけど、魔力は特に減っていないし……」
「ぺふっ」
ソルが男性から離れると、男性は道具を見つめる。
「あっ……」
男性が小さな声を上げてふらつくと、隣にいた男性がすぐに支え、地面に座らせた。
そしてランカさんのほうを見た。
「あの、治療をお願いできますか?」
「ぷっぷぷ~」
男性の言葉にソラが答えるように鳴くと、座った状態の男性を包み込む。
「ありがとう」
治療しているソラに向かって男性がお礼を言う。
「これなんだ。頼む」
倒れた男性の前に座っていた男性に視線を向けると、ソルが魔法陣を無効化しているところだった。
そして、その男性の隣に座っていた女性が、彼を支えるために背に腕を回した。
「ぷっぷぷ~」
ソラは倒れた男性から離れると、前に座っている男性を見る。
「ぺふっ」
ソルが男性から離れると、ソラがすぐに治療を始める。
男性は治療中に意識を失ったのか、テーブルに突っ伏した。
「怖いな。魔力を奪う道具なのか?」
「そんな道具を売るなんて、最低!」
「俺、『フーファ道具店』で攻撃力を上げる道具を買った奴を知ってるんだけど、知らせたほうがいいよな?」
「あぁ、俺も知ってる。あいつ、どこにいるんだろう?」
「なぁ、『ルルス』の奴らも『フーファ道具店』で何か買ってなかったか?」
店にいた冒険者達が騒ぎ始めると、シファルさんがパンと手を叩いた。
皆の視線がシファルさんに向くと、彼は店の中を見回す。
「今、見ての通り、『フーファ道具店』で売っていた道具には問題がある。命に関わる事で、早急に対処が必要なんだ。だから購入者を知っているなら、すぐに冒険者ギルドへ行くように伝えてほしい」
シファルさんが言い終わると、冒険者達が一斉に立ち上がる。
「あの、問題の道具ですが。壊そうとしないでください。衝撃で暴走する可能性がありますので」
ジースさんは、急いで店を出て行こうとする冒険者達に、大きな声を出す。
「壊したら駄目なんだな?」
「はい。そうです」
誰かの問いにジースさんが答えると、あちこちから「わかった」と声が聞こえた。
数分で店の中にいたほとんどの冒険者達がいなくなる。
「ごめんなさいね。今から売り上げを伸ばす時間帯だったのに」
ランカさんが、少し年配の女性に声を掛ける。
「いいのよ。問題が起こっているなら、そっちが優先だわ。それにしても、恐ろしい道具が売られていたのね。この子達は大丈夫なのかしら?」
店主らしい女性がおおらかに笑って首を横に振ると、心配そうに倒れた3人の男性に視線を向けた。
「はい、大丈夫です」
ランカさんの言葉に女性は頷く。
医者の元へ運び出される3人と彼らの仲間を見送ると、ランカさんは小さく息を吐き出した。
「次は何処に行く?」
シファルさんの問いに、店主さんが店の外へ視線を向ける。
「この店の近所の店には、さっきの事が伝わったみたいですよ」
「えっ?」
店主さんの視線を追うと、店の外を慌てて駆けている冒険者達の姿があった。
彼等から聞こえた言葉は「フーファ道具店」や「売っていた道具」、それに「冒険者ギルド」などだった。
間違いなく、この店で起こった事が伝わったとわかる内容だった。
「冒険者ギルドで待っていたほうがいいのかしら?」
ランカさんがそう言うと、ジースさんが少し考えて頷く。
「そのほうがいいかもしれませんね。それにしても、冒険者達って仲がいいんですね」
少し不思議そうに呟くジースさんに、ラットルアさんが視線を向ける。
「王都を守る仲間だからな。問題が大きければ皆で協力する。自然と助け合うようになるものだ」
「そういう感じなんですか……」
ジースさんの言葉に、ラットルアさんは首を傾げる。
「ジースにも仲間はいるだろう? 何かあったら助けようと思わないか?」
「えっ? 助ける……」
ジースさんが驚いた表情でラットルアさんを見る。
ラットルアさんは、そんな彼の態度に眉間に皺を寄せた。
「我々の研究対象はあれですから、何かあるとしたら『魅入られる』問題でしょう。この場合……気付いた時には手遅れな事が多いので。あぁでも、被害が広がらないように、魅入られていない同僚とは助け合いますね」
ジースさんの説明にラットルアさんはなんとも言えない表情をした。
「あれには、その問題があったな」
「はい」
ラットルアさんの呟きに、ジースさんは悲しげに頷いた。




