1103話 各町からのお願い
「その情報はいつ公示するんですか?」
シファルさんの問いに、ギルマスさんは澄ました表情で彼を見つめる。
「ついさっきだ」
「はっ?」
シファルさんの驚いた表情を見たギルマスさんが楽しげに笑う。
「今朝、テイマー達にルールの変更について連絡を入れた。そして一般への公示は、ここに来る前に済ませてきた。アイビーには、シファルを呼べば一緒に来ると思ったから連絡しなかった」
ギルマスさんの説明を聞いたランカさんが、大きな溜め息を吐く。
「私達を揶揄うのは止めて下さいね」
「いや、揶揄ったわけじゃないぞ。アイビーには、俺から直接お願いをしたかったんだ」
「私に直接ですか?」
「うん。無理にとは言わないが、アイビーとシエル達の仲が良い様子を、周りに見せてほしいんだ。王都と繋がっている町からお願いされてしまってな」
ギルマスさんの言葉に、私は首を傾げる。
「王都と繋がっている町が3つあるんだが、各町の冒険者ギルドに所属している冒険者達が『アダンダラを間近で見たい』と言って、王都に向かったそうだ」
「そうなんですか」
「そう、それも、ちょっと問題になるほどの人数でな」
「えっ?」
私の驚いた表情を見たギルマスさんは、困った表情を浮かべる。
「まさか……町所属の冒険者が、問題になるほど町を離れておるんか」
ゴーコスさんも知らなかったのか、ギルマスさんの説明を聞いて目を見開いている。
「そうらしい。特にカシメ町からは『冒険者に戻るよう言って欲しい、頼む』と連絡が2回も来た。俺も、アダンダラを間近で見たい気持ちはわかる。凄くわかるが、一斉に王都に来たら駄目だろう」
呆れた様子で話すギルマスさんに、ゴーコスさんが頭を抱える。
「何を考えておるんじゃ……」
なんだか大きな問題が起きているみたい。
「お父さん、シエルと一緒に王都を歩き回ったほうがいいのかな?」
見て満足して戻ってくれるなら、協力したいけど……。
「それはどうかな? 噂を聞いて『見たい』という思いだけで王都に来るような冒険者達だぞ。見て満足して、自分達が所属している町に帰るか?」
お父さんの呟きに、ギルマスさんが嫌そうな表情をする。
「無理じゃないかしら。まぁ、戻ってくれる冒険者もいるだろうけど、所属を王都に変更する冒険者も現れるでしょうね」
「はぁ、それは困る。もしそうなったら、隣の町の冒険者ギルドから怨まれる」
ランカさんの言葉に、ギルマスさんが首を横に振る。
「シエルを見せないとずっと王都にいそうじゃし、見せたら見せたで王都所属の冒険者が増えそうじゃし……これは大変じゃな」
ゴーコスさんがギルマスさんを可哀想な目で見る。
「お父さん、私はどうしたらいいかな?」
そっとお父さんに聞くと、お父さんは私の頭を撫でた。
「アイビーは、シエルを隠しておきたいか? それとも一緒に歩きまわりたいか?」
「私?」
「そう。アイビーはどうしたい?」
私は……。
「シエルと、違うな。シエルやソラ、皆と一緒に王都を歩き回りたい。それで、皆を自慢したい」
ずっと思っていたんだよね。
いつか、皆を沢山の人に自慢したいって。
だって、私の自慢の家族だから。
「そっか。それなら皆を連れて、そうだな……屋台回りでもするか」
お父さんが私を優しい目で見る。
「いいのかな? 皆、怖がらないかな?」
王都にいるのは冒険者達だけではなく、商人や普通の人達も多い。
急にアダンダラが登場したら、怖がってしまうかもしれないけど。
「それは……まぁ、慣れてもらうしかないな」
お父さんの言葉に、私は笑ってしまう。
「おぉ~」
「すっげ~」
部屋の外から聞こえてきた、驚いた声や拍手に、皆が扉へと視線を向ける。
「何があったのかしら?」
ランカさんが不思議そうに呟くと、ギルマスさんが満足そうな表情をしている事に気付いた。
「ギルマス、何かしたの?」
「仲が良いテイマーに、ちょっとお願いをしたんだ。ルールが変わったら、自慢の家族を連れて、冒険者ギルドまで散歩に来てくれって」
「うわ~、バスカだ~」
えっ、バスカ?
本に載っていた、魔法が得意な上位魔物だよね。
見つけられたら奇跡とも言われている存在の筈だけど。
「本当にバスカなのか?」
ラットルアさんが驚いた表情でギルマスさんを見る。
ギルマスさんは、ラットルアさんを見て頷いた。
「そうだ。魔法が得意な上位魔物バスカだ」
「まさか、バスカをテイムしているテイマーがいるとは思わなかったな」
お父さんの呟きに、ランカさん達が頷く。
「ランカも知らなかったのか?」
シファルさんが、ランカさんを見る。
「えぇ、王都の冒険者ギルドに所属している、戦闘可能な魔物をテイムしているテイマーについては極秘扱いで、知っている者も限られていたの。だから、私は知らなかったわ」
極秘扱いしたのも、教会から守る為だったんだろうな。
「知っている者は少ないほうがよかったからな。多くの者が知っていると、情報は漏れやすい」
ギルマスさんの説明にランカさんが頷く。
「バスカ、見たいな」
ヌーガさんの呟きに、ランカさん達が頷く。
「これは、見に行くしかないわね。あっ」
立ち上がったランカさんにシファルさんが視線を向ける。
「どうしたんだ?」
「今、隣町から王都に来ている冒険者達の気持ちがちょっとわかったわ。見たいものは見たいわ!」
ランカさんの宣言に、シファルさんとヌーガさんが顔を見合わせる。
「確かに、ちょっと理解出来たな」
ラットルアさんが頷くと、ギルマスさんが嫌そうに4人を見た。
「頼むから理解しないでくれ」
ギルマスさんの呟きに、ランカさん達が笑って肩を竦めた。
「アイビー、見に行こうか」
お父さんの提案に、私は思わず頷く。
「ドルイドとアイビーまで」
ギルマスさんの呟きに申し訳ない気持ちになるけど、本でしか見た事がない上位魔物だから私も見たい。
「すみません。見つけられたら奇跡だって本に載っていたから気になって」
私がそう言うと、ゴーコスさんが立ち上がる。
「よし、じゃあ見に行こうかの。そうじゃ、ちょうどいいからシエルのお披露目もしてしまったらどうじゃ。バスカがいるから、視線は分散するじゃろう」
「あら、それは良い案ね。アイビー、どうする?」
ランカさんの提案に、私はシエルを見る。
「シエル」
「にゃうん?」
「元の姿で一緒に行こうか」
「にゃうん」
私に返事をすると、シエルが元の姿に戻る。
「あぁ、やっぱりそういう事か」
リューガさんの小さな声が聞こえ視線を向けると、彼はジッとシエルを見つめていた。
リューガさんはシエルがスライムになる事を知らなかったかも。
でも、あまり驚いていないみたい。
「さて、バスカを見て、シエルのお披露目もして、楽しみね。ソラ達もこのままでいいのかしら?」
ランカさんが私を見る。
「ソラ、フレム、シエル。皆もそのままで部屋の外に出てみる?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
ソラ達は楽しそうに一声鳴くと、扉の傍に行くと私を振り返る。
「わかった。でも皆、人が多いからはぐれないようにね」
部屋の外からは、沢山の声が聞こえてくる。
おそらく、さっきより冒険者は増えていると思う。
「人があまりに多かったら、抱き上げようか」
お父さんの言葉に頷くと、ソラ達を見る。
「皆、それでいい?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「では、行こうかの」
ソラ達の返事を聞いたゴーコスさんが扉を開けた。




