1102話 嫉妬? 逆恨み?
コンコンコン。
「ゴーコス、俺だ。入っていいか?」
聞き覚えのある声だと思うんだけど、誰なのか思い出せないな。
「ギルマスか。どうぞ」
あっ、ギルマスさんの声だったんだ。
部屋に入ってきたギルマスさんを見て首を傾げる。
前に会った時と同じような笑顔なのに、なんとなく違和感がある。
「ギルマスもブチ切れているわね」
ランカさんの小さな呟きに、もう一度ギルマスさんを見て納得する。
「ドルイド殿、アイビー殿」
ギルマスさんは私とお父さんの傍に来ると、神妙な表情で深く頭を下げた。
「えっ?」
ギルマスさんの行動と私達の呼ばれ方に驚いて声を上げると、お父さんも少し困った表情をした。
「冒険者を守るのが冒険者ギルドの最大の役目だ。それなのに、今回のような不名誉な噂が立ってしまった。これは、俺の不手際だ。申し訳ない」
「いえ、噂は止められないし、しょうがないと思いますよ。ね、お父さん」
どこから広まるのかわからない噂を完全に防ぐのは無理だと思うから、ギルマスさんのせいではないと思う。
「アイビーの言う通りです。噂を完全に抑える事は出来ません。だから気にしないで下さい」
「いや、アイビー殿が上位冒険者となり、アダンダラをテイムしている事がわかれば噂が立つ事は予想出来た。良い噂だけでなく、悪い噂も。だから、監視を強めていたんだ。そのお陰で、ある程度の噂は抑えられた。でも、いつの間に今回のような噂が広がっていた」
ある程度の噂は制御出来たんだ。
それってすごい事だよね。
「おそらく、我々が警戒をしていた者達以外の者が、アイビー殿の悪い噂を流したんだと思う」
ギルマスさんの説明に、お父さんが少し考え込む。
「ギルマスの謝罪を受け取ります」
お父さんの言葉に驚いて、私はお父さんを見る。
「噂の出所は、いつ頃調査するんですか?」
お父さんの問いに、ギルマスさんがフッと表情を緩める。
あっ、この笑顔が前に会った時のギルマスさんだ。
「依頼や指示を出さなくても、上位冒険者達が調べ回っている。だから、彼らに任せる事にした」
「そうですか。アイビーに危険はありそうですか?」
お父さんの問いを聞いて、ランカさん達が真剣な表情でギルマスさんを見る。
「今回の噂の流し方は素人っぽい。こういう奴らは、どう動くのか予想が出来ない。バレそうになったら自暴自棄になるかもしれないしな」
嫌そうな表情で言うギルマスさんに、ランカさんが頷く。
「諦めの悪い奴が多いんですよね」
あっ、リューガさんも頷いている。
「アイビー。知らない冒険者、商人、貴族には気を付けて欲しい」
よかった、私の呼び方が元に戻った。
「はい」
「貴族や商人から声がかかったら、冒険者ギルドに連絡をくれるか? すぐに潰し……話し合おうと思う」
あれ、今、ギルマスさんは潰すって言わなかった?
貴族相手でも大丈夫なのかな?
「わかりました」
お父さんが頷くと、ギルマスさんがランカさんを見た。
「ランカ。あとで要注意人物のリストを渡しておくから、彼らがアイビーに接触しようとしたら連絡をくれ」
「わかったわ。向こうが力技で来た場合は、こちらで対処してもいいかしら」
「五体満足ではなくてもいいが、殺さないようにな」
ランカさんが笑って問うと、ギルマスさんも笑って答える。
二人とも笑っているのに寒気がするな。
「それと、ゴーコスから聞いたかもしれないが、テイムした魔物に異常が出ている。この事は、シファルが依頼を出すまで、テイマー達の間だけの話だった。それが、アイビーの噂の中に混ざっている事が確認出来ている。この事から、噂を立てた側にテイマーがいると思っている」
テイマーが私の悪い噂を立てているの?
王都にいるテイマーに恨まれるような事をしたのかな?
「アイビーに嫉妬したのかしらね」
ランカさんの言葉に驚いていると、シファルさん達が納得した様子で頷いていた。
私へ嫉妬って、シエルをテイムしているからかな?
「テイマーか、逆恨みかもしれんのう」
ゴーコスさんを見ると、新しくお茶を淹れてもらったのか熱そうな表情でお茶を飲んでいた。
「あ~、その線もあるのか……」
ゴーコスさんの呟きに、ギルマスさんが何かを思い出したのか溜め息を吐く。
「思い当たる者達がいるのですか?」
不思議そうなお父さんに、ギルマスさんとゴーコスさんが顔を見合わせる。
「スキルの騒動があっただろう? その時に、星の数を減らしたテイマー達がいた。現実を受け止め、テイマーのあり方を見直した者もいたんだが、一部がなぁ。ランカなら知っているだろう?」
ギルマスさんがランカさんを見る。
「あぁ、あいつ等ですね。えぇ、冒険者ギルドに来て、テイムしている魔物を暴れさせたんですよね。そのせいで捕まったのに、冒険者ギルドの悪事を知ったから、自分達は捕まったんだとか言い出して……。本当に鬱陶しかったですよね」
その時の事を思い出したのか、ランカさんが疲れた表情で溜め息を吐いた。
「そのテイマー達が怪しいと思うのですか?」
お父さんがゴーコスさんとギルマスさんを見る。
「わからん。じゃが、アイビーが上位冒険者になった頃に、急に静かになったんじゃ。あれほど周りに当たり散らしていたのにな」
「確かに変だな。奴らについて調べてみる。結果はランカに知らせるから」
ギルマスさんの言葉に、ランカさんが頷く。
「そうだ、アイビー」
ギルマスさんを見ると、楽しそうな表情で私を見ていた。
「はい」
「テイムしている魔物達を、大きさに関わらず連れ歩いていい事になった。だから、皆と一緒に王都を歩き回っても大丈夫だぞ」
「んっ?」
ギルマスさんの言っている意味がわからず首を傾げる。
「えっ、ルールを変更したの?」
ランカさんが驚いた声を上げると、ギルマスさんが笑って頷いた。
「そうだ。そろそろいいと思ってな。隠れていたテイマー達も表に出てきているし、ルールを変えるなら今だって思ったんだ」
「お父さん、どういう意味?」
「今まで、テイムしている魔物は小さいもの以外はバッグから出してはいけないルールだっただろう?」
「そうなの?」
「「「「「えっ?」」」」」
私の返答に、皆が驚いた表情をする。
「アイビー、知らなかったのか?」
「うん」
テイマーにルールか。
どんなルールなんだろう。
「ドルイド、教えなかったのか?」
シファルさんがお父さんを見ると、お父さんが私を見て頷いた。
「知っていると思っていたから。テイマーとわかった時に、テイマーの町や村でのルールを習わなかったのか?」
「うん」
そっか。
テイマーとわかると、習う事なのか。
それも、知らなかった。
「そうか。町や村では、テイムした魔物が小さいと連れて歩けるけれど、少し大きいとバッグから出す事は禁止されているんだ。バッグに入らない大きさのものは、指定の場所に待機させなければならないし」
そうなんだ。
だから、町や村ではスライムや小さな動物は見かけるけど、大きな魔物は見ないんだね。
あれ?
「捕まえた人を運んだ魔物は、普通に村の中を歩いていたよね」
「あぁ、あれは特別許可をもらった魔物達だ。仕事柄、必要な場合は許可が下りるんだよ」
お父さんの説明に頷く。
「つまり、そのルールが変わるのですか?」
ギルマスさんに確かめると、彼は笑って頷いた。
「そうだ。これからは大きさに関係なく、連れて歩けるようになる。元々そのルールは教会の奴らに、テイマーが何をテイムしているのかわからせない為に作ったものだから。元凶がいなくなったんだから、ルールも変えるべきだ」
なるほど。
教会からテイマー達を守る為に作られたルールだったんだ。




