1色目 ー赤ー
「ー、ーか、赤!」
誰かに服の袖をぐいっ、と引っ張られてようやく私は我に帰る。
視線を少し下ろすと声の主が存在を示すかのようにぴょんぴょんと飛び跳ねていた。それに合わせて緑色の髪が揺れる。
「もう、赤ってば全然気づかないんだから!」
不機嫌そうに眉を寄せながら、澄んだ緑色の瞳が私を突き刺す。どうやら機嫌を損ねてしまったみたいだ。
「ご、ごめん緑。ちょっと考え事してた」
慌てて私が謝ると、さっきまでの表情がくるりと変わって、緑はにかっと笑う。
「じょーだんじょーだん!」
なんだ、そういうことだったか。
「もー緑ってば、大人をからかっちゃいけませんよ?」
冗談めかして私がそう言うと、緑が反論する。
「赤はまだ大人ってほど年とってないでしょ?」
「緑に比べれば全然年上ですー」
「でも白と比べればまだまだ若いもん!おれ知ってる!」
確かにそう。
白はこの世界が生まれたときから、ずっと「今」の白のままだ。その果てしない時間は、私には想像すら出来ない。今の緑はその時間が示す意味すら気づくことすらないだろう。
「あーあ。おれも早く大人になりたいなー」
自分の頭をぽんぽんと軽くたたいて、緑はため息をつく。背が低いことを気にしているのかな?
「緑ならすぐに大きくなるよ。大丈夫」
私の言葉に「ほんと?」と彼は目を輝かせる。「ほんとほんと」と私は頷く。
だって『昔』の緑も背が高くて、いつもからかうように私の頭をぽんぽん、と軽くたたいていたから。
その言葉は私の中から出さずに無理やり消化させる。そんなこと、「今」を生きてる彼には言えないから。
「じゃあ、おれもかっこよく戦えるのかな?青みたいに!」
私の葛藤には気付かずに無邪気に緑は聞く。
「青がいいの?」
切れ長の青い瞳を光らせ、表情を変えずに長い青刀で敵を薙ぎ払う青年の姿が思い浮かぶ。
「うん!あの刀で戦ってるの、本当かっこいい。おれもあんな風になりたい!」
『青はほんと凄いよな。おれもあんな風に誰かを守れるようになりたい』
言葉が蘇ってきて急に胸がつまった。
あれは確か、『昔』の緑が消える前日の言葉。
やっぱり、『昔』の緑に似てる。けれども彼は全く違う緑なのだ。赤と青と緑の三原色。私たち3人で過ごした過去の時間の記憶なんてどこにも持ち合わせていないんだ。
「…そうだね」
私はなんとかこの一言だけを身体の奥から絞り出した。




