一
京には東西南北、四方に門があり、北から玄武門、東の青竜門、南の朱雀門、および西の白虎門となる。その西にある白虎門の近くに、知る人ぞ知る通称「南蛮茶店」と呼ばれる店があった。大通りからは引っ込んでいる場所にあるので、よほどこの辺りに詳しくないと辿り着けない。
建物は二階建てで、一階が茶店になっている。内部は「南蛮茶店」と言われるだけあって、卓と椅子の南蛮方式の茶店で、給仕の娘は南蛮風の芽衣度姿になっている。出されるのは珈琲、紅茶、それに南蛮の酒である葡萄酒、火酒などが供される。注文すれば食事も頼め、まずは数奇者たちにとって話題に事欠かない店であった。
店構えが南蛮風ということもあったが、この店が「南蛮茶店」と呼ばれるのは、この店の二階を訪ねて、しげしげと南蛮人が姿を現すからだった。二階は南蛮人たちにとって特別な場所らしく、南蛮人以外は立ち入りを禁じられている。
ある時、好奇心の強い調子者が、店の者の反対を押し切り、無理やり二階に上がろうとしたことがあった。が、階段を上がるとなんと、その階段が勝手に下がり始め、いくら早足で駆け上ろうとしても元に戻されてしまった。
その調子者は、それでも手すりにしがみついて、なんとか階上へ登りついたが、その時何かが起きて、階段を転げ落ちてしまった。何があったか、当の本人に聞いても埒があかず、以来ずっと、誰も二階へと上がろうとはしなくなった。
店へその南蛮人が姿を表したのは、開店して程なくの、まだ朝の早い時間であった。店には朝早くの客に供される早朝定食を目当てに来店者が卓について、半分ほどの入りである。
からん、と店の扉に取り付けられた土鈴が鳴って来客を報せる。その音に、白い南蛮前掛けを身につけた給仕の娘が元気良く「いらっしゃいまし!」の声を上げた。
が、姿を表した客に、娘は思わず立ち止まり頬を赤くした。
南蛮人である。しかも女だ。
意外な来客を見て、店のざわめきがぴたりと止まった。客たちは好奇の視線を南蛮人の女に送っている。
伽羅の南蛮服に膨らんだ垂下穿き《スカート》、黒い革靴の女は、眉間に皺を寄せ、険しい表情で立っている。
背が高く、五尺五寸はありそうだ。細面で、流れるような金髪が背中にかぶさり、抜けるような白い肌に、青い目をしていた。
女は給仕の娘に短く声を掛けた。
「二階へ向かいます。よろしいですね?」
切り口上のような口調に、給仕の娘は慌てて頷いた。南蛮人の女は返事を待たず、さっさと階段を登っていく。
かつ、かつと女の革靴の底が鋭い連打音を立てて登っていく。




