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感応の召喚者  作者: 小此木悟
序章:召喚
2/7

目覚め

 「うー、やばい寝過ごした」


 信乃は急いでベットから上半身から起こすと、いつも枕元においてあるスマホを探し時間を確認しようとする。


 「何で見つからないんだよ」


 愚痴を零しながらも周囲を確認しようとする頭を振ると、見知らぬ光景が目に入ってくる。


 自分のベットとは異なった真っ白なシーツにベージュの掛布団、普段ならベット横に備え付けてある勉強机はここには存在していない。そこには木製のサイドチェストが置かれており、一輪挿しに何かわからないが赤い花が生けてあった。壁紙も自分の部屋とは異なるし、何より床に散らかし放題だった漫画や着替えが見当たらない。


 明らかに自分の部屋でない。


 「どこだよここ…」

 

 どうして見たこともない場所にいるのか理解できない信乃は、昨日、何があったかを思い出してみる。


 「確か、学校が終わってから、雨が降っていて部活の練習が早めに終わって、いつものようにランニングに行って…」


 ぶつぶつと独り言を呟き、指折り数えながら昨日の自分に起こった出来事を確認していく。正確には何時間寝たのかもわからないため昨日の出来事かどうかも定かではないのだが、混乱した頭から絞り出すように身に起こった出来事を思い返す。


 「その途中に変な女の人がいて、急に川に落ちそうになって、それを助けようとして、あー!そうか!」


 ここまで思い出すと、納得がいったとばかりに大きな声をあげる。


 「ああ、病院で大声を出すのはまずいな」


 そうだ。自分は身投げをした女性を助けようとして、一緒に川に落ちてしまったのだ。それで運よく誰かに助けられて病院に運ばれたのだろう。着ている服を確認してみると、小学生の頃に盲腸で入院した時に着た病院の服に似ている。そのこともあって、病院にいるという思いをより強くする。


このことが事実であれば、自分がこの見知らぬ部屋に寝かされていることにも辻褄が合うのだ。


 そして、ベットから降り、床の上に立つ。手足を動かして様々なストレッチを行ってみるが、寝起きのためか多少筋肉が固くなっている程度で特に痛む場所もない。


結構高い所から落ちてったと思うのだが、幸いにも怪我などは負っていないようだ。そのことに信乃は安堵する。もうすぐ選手権予選を控えた大事な時期に怪我でもしてしまったら、堪ったものではない。


 すると、ドアの外から部屋をノックする音が聞こえた。


 「どうぞ」


 信乃がそう告げると、扉が開かれ身長2mはあろうかという褐色の肌をした大男が入室してきた。


 「目が覚めたようだな。なに、この部屋から声が聞こえたものでな。名前は何という?」


 看護師でも入ってくるのかと思っていた信乃には、目の前に表れた大男に唖然としていた。


そのドアの入り口に頭をぶつけるのではないのかという身長に加え、これまで見たこともないような分厚い身体をしている。二の腕の太さなんて自分の太腿以上の太さを誇っていた。それなのに、彼の肉体には一切弛んだ様子がない。


全身が筋肉の塊ともいえる巨体の黒人の登場に圧倒され、信乃は返事が出来ないでいた。


 「すまん。人に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀だったな。俺はラリー・ダンストンだ。それで、お前の名前は?」


 ラリー・ダンストンと名乗った大男は、申し訳ないとばかりに頭をかいている。彼が着ているTシャツのような服は、その胸筋や二の腕に圧迫され今にもはち切れてしまいそうだ。


 「俺は千種信乃といいます。ここは、どこなんでしょうか?それと今はいつなんでしょうか?それと、すごい身体してますね」


 まだ、高校3年生であり身体が完成していないとはいえ、体格が優れているとは言えない信乃は、その圧倒的な筋肉に羨望の眼差しを向けながら答える。


 スポーツに真剣に取り組んでいる人間としては、素晴らしい筋肉というものはどうしても気になってしまうものなのだ。自分の身体が目の前の男ほどの筋肉を搭載して自由に動けるはずがないし、黒人と日本人では根本的な骨格が異なるとも思う。これから成人するにつれて、もっと筋肉を大きくしようと考えているものの、敏捷性を重視する自分には、腕を脚と見まがうほどの肥大化した筋肉は必要ない。


しかし、あそこまでの肉体を得るために必要な努力は尋常でないことを理解している。


去年からウェイトトレーニングに取り組み始めた信乃は1年間で1キロ程度しか体重が増えていない。もちろん、トレーニングの種類や目的が違うのだろう。

 

 それでも、それを実行し筋肉の鎧を纏っているともいえる肉体を築き上げたダンストンに好印象を抱いた。


 「千種信乃か。よろしくな。俺のことはラリーでもダンストンでも好きに呼んでくれ。まあ、初めて俺の身体を見たやつの大半は驚くよ。数少ない俺の自慢できるところを褒めてくれるなんてありがとうな。この身体を作るために俺がどれだけ苦労したか。俺はこう見えて小食でな。筋肉を太くするために無理やり食べ物を口に突っ込んだものだ。これでも10代の頃は細かったんだぞ」


 ダンストンと名乗った男の話は一向に終わりそうにない。


 「それに、お前だって厚さはないが引き締まった良い身体をしてるじゃないか。何といっても、先程から姿勢が綺麗なままだからな。きちんとした体幹を持っている証拠だよ。ああ、お前の質問に答えていなかったな。どうにも身体の話になると夢中になってしまうのが俺の悪い癖だ。すまん。そして、重ねて申し訳ないんだが、お前の質問に答えるのに俺は相応しくないのでな。服を着替えて俺に着いてきてくれ。そうすれば、お前の知りたいことを知れるだろう。お前の来ていた服は、ベッド脇の棚の中にある。着替え終わったら、部屋から出てきてくれ。俺は部屋の前で待っている」


 「どうして質問に答えてくれないのか分かりませんが、そう仰るのなら着替えますので少し待っていて下さい。それにしても、ダンストンさんって日本語上手なんですね」


 「よろしく頼むよ」


 そう言うとダンストンは部屋から出ていく。


 信乃はダンストンに言われた通りに、ベッド脇のサイドチェストの引き出しを開く。そこには自分がランニングしていた時に身につけていた服がきちんと畳んでしまってあった。


 今は室内なので、合羽を除いた服を身につけていく。信乃は、トレーニングシャツに袖を通し、ランニングタイツの上からサッカーパンツを履く。最後に踝までの靴下を身につけた。


 今から運動をするわけではないので普段着が良かったと思いながらも、これしか服がないので我慢する。そして、靴がないことに気づき周囲を見渡すとベットの下に自分が履いていたランニングシューズが置いてあった。


 それを履き、準備が完了するとドアを開け、腕組みしながら立っているダンストンに声をかけた。


 「お待たせしました」


 「ああ、それじゃあ行こうか」


 ダンストンに先導されながら信乃は歩いていると同時に周囲を観察していた。

 

 病院だと思っていた建物は想像していたものと全く違う様相を呈している。先程から看護師とは一人もすれ違わないし、すれ違った女性はメイド服を着ている。建物自体が石造りで出来ているように思えるし、所々に調度品が飾られていた。天井にはシャンデリアのような派手な形をしたライトかどうか分からないけど、そんなものが吊るしてある。天井に絵が描いてある場所もあった。


 世界史の授業で習ったヨーロッパの城、宮殿といったらいいのだろうか。信乃には、運動着とい自分の服装が酷く場違いに感じられると共にどうして自分はこんなところにいるのだろうと不思議にも思った。


 そうして歩いていると、ダンストンが大きな扉の前に立ち止まった。


 「今からここに入っていくが、中に入ったら俺の真似をしてくれ。絶対だぞ!それとこれからお前はいくつか質問されると思うが、最大限の丁寧な対応を心がけろ。分かったな!」


 ダンストンが有無を言わさない調子で言ってきたため、信乃は無言で頷いた。


 「申し上げます。先日召喚された者が目を覚ましましたので、連れて参りました」


 先程までとは異なり畏まった様子でダンストンが声をあげると、扉が内側から開かれた。扉の先には荘厳な空気が張りつめており、贅を尽くしたといった空間が広がっている。一直線に敷かれた絨毯の先にある椅子に一人の女性が座っており、その左右には数人の男が立っていた。


 「着いてこい」


 信乃は周囲に聞こえないような小さな声を掛けられ、召喚という言葉を使ったダンストンに若干の訝しさを感じるものの歩き出したダンストンに従って前に進んでいく。


 ダンストンは椅子から5m程手前で立ち止まるとその場に跪いた。そして、部屋に入る前に言われた通りにその姿を真似、信乃も跪いた。


 「ダンストンご苦労様でした。二人とも顔を上げて下さい。私はアーベル国の女王シーラ・アーベルです。そちらのお方の名前は何と言って?名乗って頂けないかしら?」


 椅子に座った女性から声をかけられる。最大限に丁寧な対応と言われても、信乃には何がこの場に相応しい態度なのかはわからない。


 こんな偉そうな人の前で話す経験は、これまでの人生の中には存在していなかった。


 ―よりにもよって、女王である。


 おそらくこの国で最も偉い人物だろう。場の雰囲気に飲み込まれそうになり、手のひらには汗が滲んでいる。ダンストンに視線を向けるが、信乃よりも少し前にいるため、助けを求めるその視線に気づいてくれることはなかった。


 信乃は意を決して顔を目の前の女性に向ける。


 「千種信乃と言います。あの時の女の人!?」


 緊張していたために今まで分からなかったが、信乃はこの女性の顔に見覚えがあった。


 あの橋の上で出会った不思議な雰囲気を纏った女性と同じ顔をしているのである。


 「信乃というのですね。やはり、そう仰るのですね…。私の姿が見えていましたか…」


 「そんなことがあるのか…」

 

 その女性の言葉に周囲がざわつく。横にいる男は信じられないといった顔をしている。


 「いくつか疑問を持っているでしょうから、単刀直入に申しあげましょう。ここは、信乃がいた世界とは別の世界です」

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