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第1話 目指せ、バックパッカー

            -Marmara Denizi, Istanbul

 空港で両替をすると、やたらと桁数の多い札が返ってきた。一瞬、とてつもない大金持ちになったと錯覚するが、しかし、よく見ると下3桁が小さく印刷されている。額面は100万リラなのだが、少し離すと1,000リラに見える。手触りもあまり高額紙幣という感じがしない。一万円札というより千円札だ。こんな奇妙な通貨は初めて見た。


 慢性的なインフレに悩む国とガイドブックで紹介されていたが、その証拠がこれなのか。日本のように為替が安定している国に住んでいるとなかなか実感が湧かないが、通貨価値がどんどん下落するため、事実上のデノミが行われているのだ。


「これ一枚で、いったいどれだけのものが買えるのかしら」

「なんだか凄い国に来ちゃったな。ていうか、俺たち、やっていけるのかな」

「いいって、いいって。どうにかなるって。それより、まずタクシーに乗るんでしょ」


 そう、今回の旅はこれまでのようなパッケージツアーとは違う。もう少し正確に言うと、エフェスからパムッカレやカッパドキアを回ってアンカラに至るまでは現地のオプショナルツアーを申し込んだが、それ以外はフリーだ。添乗員もいなければガイドもいない。さすがに今日のホテルだけは日本で予約してきたが、もう一度イスタンブールに戻ってきてからの宿は決まっていない。どこを観光するのかも未定だ。


 新しい試みはまだある。妻の弟が参加するのだ。たまたま休みが合い、彼もトルコに興味があるというので三人で来ることにしたのだ。同行者がひとり増えたのは心強いと言えなくもないが、しかし弟は海外旅行初心者だ。第一、ほとんど空のスーツケースを転がして成田に現れるような輩なのだから、当てになるとは思わない方がよい。


 しかし、気がつくと当の彼がいつの間にかタクシーを捕まえていた。本人は早々と荷物をトランクに詰め込み、乗り込もうとしている。妻とふたり、慌てて後を追う。


「イスタンブールのタクシーはメーター制だって本には載ってるけど」

「エルサレムではそう言いながら交渉制だったもんね」

「大丈夫。僕がちゃんと見てるから」


 運転手にホテルの名前を告げて、いよいよ出発だ。


 トルコの玄関口であるアタテュルク国際空港は旧市街の南西、マルマラ海に面したところにある。地図で見る限り、ここからホテルまでは海岸沿いをほぼ一本道だ。万が一ぼられて遠回りされるようなことになっても、すぐに気づきそうだ。


 開け放した窓から爽やかな風が吹き込んでくる。右手に拡がる海は春の陽光を受けてキラキラと輝いている。いささか古ぼけた車体さえ厭わなければ、まるで気分はカリフォルニアか湘南だ。


 助手席に目をやると弟がずっとメーターを確認していた。ときどき指差しながら「よし」などと呟いている。ちゃんと見ると言った言葉は嘘ではなかった。しかし、そんなに真面目にやらなくてもいいのに。思わず吹き出してしまった。


 15分くらい走っただろうか。海岸沿いを外れて繁華街に入る。坂の途中で車が停まったかと思うとそこがホテルの玄関だった。さっき換えたばかりのリラ札で払うとお釣りが硬貨で返ってきた。驚いた。さらに小額の通貨があるのか。


 このジャリ銭にいったいどれだけの価値があるのだろう。そもそもこれで買える物がこの国にあるのだろうか。果たして使う日が来るのかと少々訝しく思った。

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