6 ホンモノ? ツクリバナシ?【3】
同じような外観だから、ネットに出回る写真が何号棟の何階のものなのか判断のしようもない。元ネタの場所で記念写真はむずかしいかも。
平日の日中だから、団地内で人とすれ違うこともほとんどなかった。
不審者と思われると後が大変だ。人と会ったら愛想の良い挨拶だけは心がける。
4号棟を出て少し歩けば、公園と、存在しないひろきくんが亡くなったとされる公衆トイレもそこにある。
遊具もある公園には、遊んでいる子どもと保護者が何組か居た。
公衆トイレは老朽化のため立ち入り禁止になっている。入れないように黄色いテープが張り巡らされていた。
周りに子供がいる手間、入るところを見られて真似されても良くない。スマホで外観を撮るだけに留める。
「なにしてるの?」
「うわあ!?」
夢中で撮影していたため、急に声をかけられてびっくりした。
振り返ればおそろいのワンピースを着た姉妹が立っている。年長さんくらいだろうか。
「おねーさんね、景色の写真を撮ってるんだよ。写真が好きだから」
「ふーん。もっときれいなもの撮ればいいのに」
「ごもっともです。二人は何してるの?」
女の子たちは道の脇を見やった。そこにはシロツメクサがたくさん咲いていて、作りかけの花かんむりが見える。
「あいちゃんたちね、王冠作りたいけど四葉のクローバーが見つかんないの」
なるほど、かんむりのワンポイントを探していたようだ。
私はにんまりと笑い、胸を張って言う。
「そういうことなら任せなさい」
道端にしゃがんで目をつむる。それから適当に目を開ければ……ほら、運良く視線の先に四葉のクローバー。
そこを指差してあいちゃんに教えた。
キミの分もここにあるよと、連れの女の子にももうひとつ見つけてあげる。
「すごい! どうやって見つけたの?」
「んふふ、おねーさん、運が味方だからね」
二人は大喜びでクローバーを摘み、かわいらしい花かんむりを完成させていく。
あいちゃんのほうが活発だな。もう一人のほうは大人しくて、静かにあいちゃんと遊んでいる。妹かもしれない。
見守りながら、ふと質問した。
「ね、ここのみんなはなんで塩を玄関の外に置くの? 何か知ってる?」
「おねえさんちは盛り塩しないの?」
「しないねえ」
「へんなのー」
ああ、この団地で育つ子供は盛り塩が当たり前な認識になるのか。置かない方が「変わってる」わけね。
質問を変える。
「《ひろきくん》って知ってる?」
「うん、知ってるよ。4号館の402号室に住んでる」
「ね」と、あいちゃんは隣の子を見た。
隣の子はこくりと頷いている。
私は「えっ」と声をあげて驚く。
それって、泊まらせてもらっている部屋だ。
借主であるサトウさんの本名はひろきではないし、子供と住んでいるという話も聞いていない。
「それ、詳しく……」
「あ、おかーさんが呼んでる」
遠くから、あいちゃんを呼ぶ女性の声が聞こえた。見ればベンチに母親らしき人の姿がある。
明らかに余所者である私を怪しむ顔をしていた。気まずくなって会釈すると、一応は会釈が返ってくる。
あいちゃんの話をもっと聞きたかったが、引き留めると警察を呼ばれそうだ。
「じゃあね、ひろちゃん」
「……え?」
母親のもとへ走っていく子供は一人だった。
もう一人は? 振り返ると、おそろいのワンピースを着た大人しいあの子がいない。
再び母親のほうを見ても、そこにいるのはあいちゃんだけだ。
ひろちゃん? あいちゃんは、もう一人の女の子をひろちゃんと呼んで別れを告げた?
別れを告げられたから、ひろちゃんは立ち去った? この数秒で?
え、おそろいの服なのに姉妹じゃない? いや、それはおかしくないか。仲が良いのなら……。
いや、え?
ひろちゃん?




