59 儀式の準備
「古い祓の儀式を再現したいなんて、ほんっとにあんたって頭おかしいんだ」
「そんなに褒めても何も出ないよ~」
占い師・綾目 然江子は不機嫌と上機嫌の感情の間でなんとも言えない表情をしながらバイクを走らせる。私はその背中にしがみつき、高速移動の恩恵を受けていた。
「あの倍率のチケットが当たってるなんて信じらんない。それがなかったらこんなこと手伝ってないんだからね」
「綾目さんがお店の壁に貼るほど好きなバンドだったなんて、すごい偶然。助っ人が必要なときにこんな交渉材料があったとは運が良かったな~」
何ヶ月か前、有名バンドのライブチケットの抽選になんとなく応募していた。誘う相手もいないのに、ペアチケットで。
それが当たった。
当選メールを見たとき、《私にいま必要なもの》もとい《いまの私に必要な助っ人を召喚するアイテム》だとすぐ理解し、T都に向かった。
ごがん村で儀式をするにあたって霊能力者は必須。綾目さんは出会うべくして出会った女だ。
そしてチケットをチラつかせ、店から連れ出すことに成功したわけである。
「生贄タイプの儀式でしょ。あたしやんないよ。あんたにも死なれたら困るんだけど」
「ライブ会場入れなくなっちゃうからね。だいじょーぶ、私の蘇生成功率99.9%と見てるから」
儀式の成功率を上げるため、ヨシさんは最良の場所に配置したし、デバフ持ちの桔梗さんも私たちから遠ざけた。
「はぁ? ……って言いたいとこだけど、そう思えるのがきっしょいのよね。あんたから死相がぜんぜん見えない」
「綾目さんのお墨付きもあるなら、なおさら大丈夫そうだ」
二人乗りのバイクは見覚えのある山道に突入していく。
曲がり角で車体が傾くたびドキドキするが、あらかじめ後ろに乗るときのバランスの取り方を教えてもらったからなんとかなっている。太ももでふんばりがちで、明日は筋肉痛だなと思った。
とはいえ、思っていたよりも快適なバイク旅だ。綾目さんの運転がうまいのかも。
しばらくすると、おなじみの駐車場が見えてきた。
「バイクなら行けそうだけど、どうする?」
「こんなゴツいバイクに乗ったゴスパンク美女なんて見たら、70年代くらいで止まってる村のじじばばが心臓発作起こして死ぬよ。歩いて行こう」
■
村に着くと、真っ直ぐにくまだ商店へ向かった。事前に電話でやり取りをしていたから、店主の男──熊田さんが迎えてくれる、
儀式を再現するにあたり、現地の人の協力は欠かせない。途中で邪魔されたら台無しだし、小道具の融通もある。
熊田さんには『歴史的資料を後世に残すため』だとか適当を言った。私は人を騙くらかすことに心は傷まない。そういう担当はヨシさんだもん。
そもそも、お社の管理人であり元ひもろきサマであるおばあさんからお社の鍵をもらっていることを伝えたら「あの人がそれでいいなら」と誰もがそれ以上を言わなかった。
先に一回来ておばあさんに根回ししておいて良かった。神事周りのキーパーソンはやはり彼女なのだ。
お社の前に着く。早速、映像を思い出しながら畳のセッティングをした。
お囃子も熊田さんが呼んでくれている。当時、実際に儀式で演奏したという太鼓と笛の双子のおじいちゃま。
預かっていた鍵でお社の扉を開け、古いうしサマの毛皮を借りた。くっっさ。カビとるやんけ。
「成功すると思う?」
「最後は、怨霊側の気持ち次第だね」
綾目さんは今も半信半疑のようだ。儀式に必要な祝詞も、資料館の難読な手記とビデオのガサガサな音からどうにか推測したものを伝えているのでなおさらだ。
村の人間にも聞いてはみたが、正確に覚えている人はいそうでいなかった。
そもそも、綾目さんには『盛り塩アパートの怨霊に憑きまとわれている』『オカルトマニア故に村に伝わる祓えの儀式を試したい』『儀式の手順』くらいしか伝えていない。
怨霊の詳細や、私が自信満々な理由は知らないのだ。
説明がめんどくさいんだもん。聞かれたら答えようと思う。
到着時刻が夕方だったため、準備が終わるころにはすっかり夜だ。
周囲を照らすための松明がかけられた。
ビデオの映像は正午のように見えたが、午前中は都合が合わなくてね。ま、夜のほうが雰囲気あるでしょ。
相変わらずスマホは圏外。
いまごろ、ヨシさんは桔梗さんと楽しくやってるだろうか。
怨霊ガールとの直接対決のほうが面白いと判断したが、妖怪男と呪われた女の対談も見てみたかったな。




