55 タコパ
帰宅するなりたこやき器のセッティングを始めた。三人で食卓を囲み、並べた材料で手際良くじゅうじゅう焼く。最中、桔梗さんに旅で見聞きしたことを共有した。
「それは……すごい収穫ですね」
「ほんと、運が良かったよ」
念のためタコは下茹でしてある。生地にもしっかり火を通してから、たこ焼きソースを塗った。あとはかつおぶしと青のり。マヨネーズはお好みで。
舟皿に寄り分けながら話を続ける。
「あの儀式、形骸化してるし最近の資料のやり方じゃ神霊的な効果はないね」
「桔梗さんのお父さんは、ある意味で古来の方法を──霊との心中をやり遂げたように思えます。何かが足りなかったんでしょうか」
「うーん、ひもろきサマの儀式の成功率って、生贄の感受性によると思うんだよね」
「感受性?」
「霊感ってこと。自分を神霊の容れ物にして連れて行く必要があるから、イタコみたいな才能の有無が重要なんじゃないかな」
「じゃあ、霊感ゼロの心里さんがやろうと思ってもムリなんじゃないですか?」
「そこは工夫次第だよ、ゴロリくん」
「誰?」
三人にたこ焼きが行き渡ったら、手を合わせて「いただきます」を唱えた。
私とヨシさんが爪楊枝でたこ焼きをつつく一方で、桔梗さんはじっと舟皿を見つめている。割り箸のほうが良かったかな。
「……どうして私に霊能力がないと思うんですか?」
私たちが儀式への協力を仰がないことを気にしていたようだ。
「気付かないから」
簡潔にそう答えて口にたこ焼きを運ぶ。ハフハフ。
納得のいってなさそうな桔梗さんの無言が重い。
こういう状況が苦手なヨシさんがソワソワしている。
「じゃあさ、教えてよ。塩の色が変わるトリック」
「仕込みじゃないですよ」
桔梗さんはテーブルにある食卓塩をとり、蓋を外して手のひらにあけた。小さな塩の山ができあがる。
ぎゅっと握り込んで数秒待ち、それからティッシュの上に塩を落とす。
すると、さっきまで真っ白だった塩は黒く染まっていた。
「あなたたちに纏わりつく邪気を閉じ込めました。力の至らないところがあるとしても、霊能力者のはしくれなんです」
「……なるほどね」
ヨシさんは理解できただろうか。桔梗さんはミスを犯した。
「桔梗さん、妹さんが亡くなったときのこと聞きたいな。あと、たこ焼き冷める前に食べてよ。おいしいから」
塩のトリックについての私の考えを述べる前に、もう少し聞いてみたい。
楽しい団らんをしよう。
「……妹は蓮美といって、活発で愛嬌のある子でした。家族の誰よりも飼っている犬をかわいがっていて……亡くなった日は、私たち二人で犬の散歩に出たんです。子供だけで行っちゃダメって言われていたのに」
「ねえ、もしかしてその犬の名前って、レオ?」
「どうして知ってるんですか?」
私は犬を助けて溺れた話をした。桔梗さんはひどく驚いた顔をする。
ヨシさんも青のりを口端につけたまま、ハッとした顔で言う。
「呪われた家についての有名なブログ記事に、『混ざる』くだりがありますね。野蕗ちゃんに祟り殺された生き物は彼女に囚われてしまうのかも」
団地で見た目玉だらけの黒い影、それこそが野蕗ちゃんと被害者の魂の集合体だったのかもしれない。
「もしかして、妹の蓮美も……? 成仏できてないかもしれないなんて……そんな……」
まるで知らなかったかのように悲しむ桔梗さんの姿は、違和感しかない。
笑い出しそうだった。私の推理が正解なら、この女は演技がうまい。
答え合わせの準備をしよう。
「私にできることは……」
「お腹の子の心配だけしてなよ」
最後のたこ焼きを口に放り、立ち上がった。




