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31 二階の怪【1】

 コインパーキングから歩いてアパートに向かうと、ちょうど大家が帰宅したところだった。盛り塩がないかどうかチェックして回っている。


「大家さんおかえり。盛り塩される原因がわかったよ」


「なにっ本当か!?」


 大家の部屋に招かれ、テーブルを囲みながら彼が不在の間に起きたことを話した。

 一階の男女の別問題は話がややこしくなるから伏せて、マナーの悪い配信者のことを。


「そういうことだったのか。日本語が読めるだろうに、張り紙も無視するとは……なんて奴らだ」


 立ち入り禁止の看板を『ここから楽しいテーマパーク』と読みがちな私は目が泳ぐ。


 隣に座るヨシさんが代わりに話を進めてくれた。


「告発動画をネットにあげてみませんか?」


 二人のときに私がそう提案したら、ヨシさんは「乱暴すぎる」と嫌がっていた。けれど口喧嘩で彼が私に勝ったことはない。


「告発動画?」


 大家が興味を持ってくれたので、私が説明する。

 まず、スマホの画面を見せた。ねつ造写真を撮りに来た奴らのSNSアカウントページだ。オカルト界隈には顔が効くし、素行が悪いグループで絞れば特定はわりと簡単だった。


「こいつらを晒して見せしめにする。私のフォロワーなら拡散してくれるだろうし。『ヤラセ配信者たちの罪、被害アパートの現状』ってね」


「このアパートにオカルトなんかない、なのに取り扱う配信者がいたならねつ造か情弱……と印象付けてしまえば、配信者にせよ視聴者にせよ、マトモな人なら話題にするのを避けてくれるようになります」


 どれだけネットに潜伏しているかわからない無作法者どもに知らしめるにはこれくらいしなきゃ意味がないと私は思う。


 変にバズるとかえって野次馬が増える諸刃の剣だが。

 そのリスクも充分に伝えた。


 配信者を晒すことについては、特定できなさそうでできるギリギリくらいのモザイクをかける。名誉毀損でモメないよう着火は別の野次馬にさせるってわけ。


 長い熟考の末、大家は了承した。


「そしたら早速、動画回すか」


 撮ったら家で編集して、早めにアップロードしてあげよう。知り合いに根回ししておけば初動の拡散はまあまあ見込める。

 あの迷惑配信者どもが火だるまになるほど私の焼肉もどんどん焼き上がる。再生数が収益になるから。

 今から笑いが……だ、ダメ、まだ笑うな、こらえなきゃ。フフフ。


 にまにましている私のことを、ヨシさんが(あき)れた目で見ている。そんな顔しても焼肉奢らないからね。



   ■



「そうそう。聞きたいんだけど、一階に入居してる女性の名前って南さんで合ってる?」


「そうだが、どうかしたのか?」


「ううん。こっちの話」


 私とおばあさんの話が噛み合ってなかったというヨシさんの説が立証されてしまった。くやしー。


 ほんで、大家に聞かねばならないことはまだまだある。


「過去に二階の入居者で何かあったらしいけど、このアパートって事故物件なの?」


 大家の顔が凍りつく。


「どこでそれを……あっ、下のばあさんだな? もうあの人くらいしか覚えてないことを掘り返されると困るんだけどな」


「ここだけの話にするからさぁ、教えてよ。もう私たちのよしみじゃん?」


 大家さんが「この女……」みたいな顔でヨシさんを見た。ヨシさんは顔を逸らしている。そこはフォローするとこだろ。

 私の視線と板挟みになったヨシさんは、『どうぶつの森』の焦っている住民みたいな汗エフェクトを今にも出しそうだった。


「実は僕たち、昨日から変な現象に遭っていて……。実際のところ、配信者のヤラセ以外にも祟りの可能性があるのなら知りたいんです。助けてくれませんか?」


「あんたがそう言うなら……」


 よっしゃ。ヨシさんって便利だ。

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