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闇に足掻く

そこは不思議な空間だった。

闇の中にうつろに浮かぶ紫の炎。

その光に照らされて存在を示そうと必死な鉱石たち。

美しくも妖艶に輝く彼らはベーゼン達にとっては毒。

仄暗い世界に響く女性の声は、いつに無く警戒している。



「ジェラール様! この先は危険です!!

 あの時の様になってしまうわ!」


「なんだと・・・・ハイネス一旦戻るぞ!」



美しいものには棘があると良く言ったものだ。

幻想的な空間は確かに美しく心惹かれる。

しかし、引き付けられる光景の端には、その末路が横たわっている。

もう動く事の無い生物の末路。

生を感じさせる姿など疾うに失われ、目を背ける必要すらない。

3人は来た道を戻り、先刻休憩のために使った少し広い空間へ。



「ハイネス、光と地図だ。残る道を探すぞ」


「ジェラール様、あれが最後の道のはずです・・・・

 しかし、この地図の縮尺では、ここが最奥。

 ここから先は、取り込み用の穴だったはずですが・・・・

 それに、あの炎はいったい・・・」



二人の表情は闇に溶けこみ定かではない。

しかし、そのに希望がないことぐらいベーゼンにもわかる。

だが、紫の炎に心惹かれる自分があった。

あの幻想的な空間は、自然が成した様にも思えない。

薄っすらとだが、目に見えてわかる彫刻された外壁。

炎の下にあったのは、まぎれもなく祭壇だ。

そして、空間を覆う封魔に近い強大な力の渦。

ベーゼンは、1人思考の海へと潜っていく。

手元にある物は特に無い。

ここには、魔力発散に悩まされた王子と空間魔術を操る王子の従者。

ベーゼンは、思考の波に身を任せる。

思いつく事は、経験の蓄積から来る試案。

思考の波は、彼女を現実の岸へと打ち上げる。



「ハイネス様、地図と木炭をお借りしてもよろしいですか?」


「ベーゼン嬢、読み落としはありませんよ」



怪訝な表情だろうと思わせる棘のある口調。

彼との会話は数度目だが、相変わらず特権階級のソレで冷たい。

その横では、ため息交じりで彼を制止する王子。表情も計り知れる。



「ハイネス、やめないか・・・・彼女には彼女の考えがある。

 お前が慕うべきだと感じる相手ではないかもしれない。

 だが、状況を見ろ・・・・情けない事に八方塞がりだ・・・

 それに、彼女は私を救った人だぞ・・・・身分など必要か?」


「しかし・・・・それでは、王家の名が ── 」


「そんな王家など滅びた方が良い・・・・

 お前は、私にあの叔父の様になって欲しいのか?」


「それは・・・・」



ベーゼンの目の前で繰り広げられる貴族論議。

議題の中心である彼女だが、本人はどうでも良かった。

魔導の光に照らされた地図を裏返し木炭で魔法陣を書いていく。

それに気づくハイネスの口調はさらに冷たく鋭い。



「貴様!王子の ” お気に入り " とはいえ、勝手は許さぬぞ!」



剣でも抜きそうな勢いだが、彼の目に入るのは魔法陣。

知識ある者が見れば、それが何か多少は理解できる。

ハイネスは眉を顰め、落書きを加えられた地図を拾い上げた。



「空間魔法の様だが・・・なんだこれは」



ベーゼンは、彼と変わらぬムスッとした表情で睨み言葉を返す。

それは、闇がうまい事隠し幸いだろう。

彼女の発言を聞くジェラールは何処か誇らしげだ。



「んっ・・・ハイネス様、仰る通り空間魔法の術式です。

 基本構築しか齧っていませんので、高貴な方に見せる程のモノでは無いですが」



食い入るように地図の裏に書かれた術式を見るハイネス。

少し経つと視線をベーゼンへ向けた。



「で・・・これはどういった術式だ。

 基本部分は完璧・・・・しかし、その先のこれは・・・

 すまないが説明を・・頼めませんか、ベーゼン嬢。

 先ほどの非礼・・・・謝ります」



彼の態度にジェラールは優しくため息。そして、少しの嫌味。



「ハァ・・・・お前は、私の母と婚姻相手の姫にしか礼をつくせぬのか?

 では、ベーゼンを我妻に迎えるとしようか? どうだ、ベーゼン?」



彼の視線は、ベーゼンには向いていない。

しかし、不意な言葉は意外にも刺さる。

彼女の不機嫌な声は上ずり、言葉のトーンを狂わせた。



「シャ、謝罪はドうでもイイんです・・・ジェラールサマもやめてください。

 んんッ、では、術式の説明します ──────。

 どうですか、ハイネス様?」


「うむ・・・・・そうですね、たぶん大丈夫でしょう。

 いや、術式は問題ないが、私に扱えるかどうかという事です。

 で、王子・・・私は、才があろうと無かろうと、主人には礼を尽くします。

 その妃にもですがね・・・・先ほどの言葉、熟考した上で発言ください。

 彼女は、仮にも貴族の令嬢ですからね」


「ふんっ、私は嘘が嫌いだ。

 見飽きたよ、あの裏のある嫌な表情はな。

 もちろん、言うのもだが・・・ああはなりたくないからな」


「では、その様に」



ベーゼンは、彼らの会話を聞き流しながら自分の作った術式を見返している。

しかし、聞き耳とは良く言ったもので彼らの言葉を忠実に追う。

進む会話と共に俯くベーゼンにジェラールは笑みを浮かべた。



「という事なら、彼女にも礼を払え。お前の判断でな。

 では、話を戻すぞ。

 この術式で、あの空間を無事に進む事ができるというのだな?」



彼の表情は戻り、状況の分析を始めている。

その隣では、ハイネスが腕を組み考えを巡らせていた。

ベーゼンは、ジェラールの問いかけに俯きながら答える他はない。



「ええ、問題ないと思います。

 ただ、ハイネス様はこれを身に着けてください」



ベーゼンは、着ていた上着をおもむろに脱ぐ。

その不用意な姿にジェラール達は顔を背けた。

仄暗い世界だが、そのあたりは貴族らしいと言えるのだろう。

壁に反射し返るジェラールの言葉は、母の愚痴にも聞こえる。



「ベーゼン、急に何を・・・恥じらいは無いのか」


「いえ、これコートです。

 ほら、中にちゃんと来てますし・・・アッ」



ベーゼンは、眉を顰めコートに顔を近づける。

ふんふんと匂いを確認。そして一瞬悩むが頷く。



「へへッ、大丈夫そうです」


「なにがだ、ベーゼン」


「何でもです・・・・大丈夫なんだからいいんです」



ジェラールの問いかけを強引に追いやり、コートをハイネスへ手渡す。

渡された彼は一礼し、それを丁寧に受け取る。



「私が身に着けると何が変わるのですかベーゼン嬢?」


「はい、それは耐魔封素材でできたコートです。

 とは言っても、完全なんて程遠いですけどね。

 ですが、魔術発動が多少楽に出来ます。

 そのランタンに使われている素材と似ていると思いますよ」



ハイネスは何度か頷き理解を示す。

ベーゼンが嗅いでいた事など気にすること無くコートを羽織り、数回詠唱。

自分の手を見つめ頷くと、空の手を強く握りしめる。

ベーゼンに返るのは、棘の無い彼の声。



「確かに辛くありませんね、普段通りとはいきませんが安定します。

 しばし、お借りいたしますベーゼン嬢。では、次は術式ですね」



彼は、手の上に裏返した地図を乗せた。

獣皮紙に書かれた術式は、彼の魔力に満たされ淡く光る。

そして次の瞬間、彼を中心に広がる魔力の空間。

予想よりも大きいが、若干不安定だ。

ハイネスは、顔を顰めるもジェラール達に声を掛ける。



「ジェラール様、行きますよ。

 ベーゼン嬢は我らの後ろに付いてきてください。

 遅れませんようお気を付けを・・・いいですね」


興味に誘われフワフワと言ってしまうベーゼンに釘をさすが棘は無い。

彼の心の変化に、ベーゼンの表情は在り所を失っている。

少し前との違いは、言葉遣いこそ変わらず丁寧だが、今は圧が少ない。

もとより、ジェラールにさえ圧のある彼なのだが。

その変化に、いくら鈍感なベーゼンでも判る。

判るが何処までを信じるべきかは彼女次第だろうか。

そこに思い出される過去の記憶と感情。

思い返される言葉はツォーネの言葉 "並みの幸せ" だ。

ベーゼンは、首を左右に軽く降り現実を思い返す。

目の前に在るのは闇。

仄暗い世界を、王子に手をひかれ進む。

祭壇を過ぎ対面の壁、そして左右の壁を調べる。

そこに見つけた光明はさらに深い闇。

戻る事の出来ない道は、さらに深く地獄へと続く様にも思えた。


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