【17話】屋上の風に吹かれて
ヒロインがまだ出せない。代わりにあの子...子...まぁ...子だな。うん!
学校での日常
授業が始まると、教室はいつもの落ち着いた空気に包まれる。教師が黒板に数式を書き、チョークがリズミカルに音を立てる中、クラスメートたちは黙々とノートを取っている。俺も、表面上はノートを取りながら授業に集中しているふりをしていたが、頭の中では数日前のダンジョンでの出来事が繰り返されていた。
ダンジョンでの戦いが鮮明に思い出される。あの時感じた強大な力、身体が限界を超えて強化されていく感覚。敵の動きがゆっくり見える瞬間。そしてまた新たなタイムリミット、また、他人から能力を奪わないといけない。
「ハクションッ!」
誰かのくしゃみに、俺は我に返る。気づけば、ノートに書かれた文字がほとんど読めない状態だった。慌ててペンを走らせながら、内心では冷静さを取り戻す。
冒険者として成長するためには、この学校での日常も決して無視できない。強さを求めるばかりではダメだと、自分に言い聞かせながら授業に集中しようとする。
やがて昼休みが来る。教室内は一気に賑やかになり、クラスメートたちが弁当を広げたり、廊下を行き交う生徒の声が響き渡る。その中で、俺は一人で静かな場所を求め、屋上へと向かうことにした。
屋上の扉を開けると、冷たい風が頬を撫で、学校の騒がしさがまるで別世界のように遠ざかっていく。広がる青空の下、静けさが支配するその空間に、俺は少しだけ心を落ち着けた。
屋上の手すりにもたれて遠くを眺めていたのは、前にメックで知り合った颯人だった。彼は風に揺れる髪を気にする様子もなく、じっと空を見つめている。その物静かな横顔に、何かを深く考え込んでいるような雰囲気があった。
俺はそっと彼に近づき、軽く手を挙げて声をかける。
「久しぶり」
颯人は少し驚いたように顔を向けたが、すぐに気さくに返してきた。
「お、風雅かいな。元気そうやな」
その言葉に、俺は曖昧に笑って応じる。朝の余韻でどこか不器用な笑顔になってしまった。
「まぁ、なんとかやってるよ…そっちは?」
「俺か? ぼちぼちやな」
颯人は再び空を見上げ、ため息交じりに言葉を続ける。
「せやけどな、最近ちょっと気になることがあんねん」
「気になること?」
俺は興味をそそられて身を乗り出した。
颯人は一瞬黙った後、口を開いた。
「ニュースで見とるかもしれんけど血晶石のことや。最近、部活の先輩がそれに手ぇ出しとるっちゅう噂が広まってんねん」
俺はその言葉に驚きを隠せず、颯人の顔をじっと見つめた。
「先輩が…血晶石に手を出してるって?」
颯人は真剣な表情で頷いた。
「そや。あれ、確かに力はめっちゃ強なるけど、その代わりに身体への負担がでかいらしいで。何回も使うたら、どうなるか分からんって話や。試合で使ったら一発アウトやな」
試合では使ってないのか。ならいいのか?スポーツの世界はよくわかんないな。
「 副作用があるって聞いたけど、体が強ければいいんじゃないの?あれって」
颯人は少し眉をひそめて続けた。
「そやけど、それは一部の心体共に強い冒険者に限る話や。一般の奴らが手出したら、ほんまに危ない。身体が一時的にめっちゃ強くなるけど、その代わり反動がでかすぎるんや。精神にも悪い影響が出るっちゅう話やで」
「精神にまで?」
俺はその言葉に、心の底からぞっとした。力を手にする代償が精神にまで影響を与えるとなると、もはやそれは力の対価を超えたものだ。
颯人は少し声を落とし、語り続ける。
「それのせいかどうかはわからんけど、最近、先輩がちょっと荒れとる気がするわ。遅れてきたマネージャーの子に手ぇ出しかけて、ギリギリで止めたけど、あの力の出方はヤバかったな。4人がかりでやっと止めれたんやで。まぁ、みんな世話になっとる先輩やし、特に報告はしてへんけどな」
一人をサッカー部4人でしか止めれないってどんな力だよ。サッカーは試合中に能力が使えないとはいえ、身体強化系が多いって聞いたんだけど。血晶石の強化力が強いのか、その先輩が強かったのか、まぁ、両方だろう。
「気をつけるよ」
俺は少し固い声でそう答えた。
颯人は俺の様子を見つめ、穏やかに笑った。
「お前なら大丈夫やろ。血晶石なんかに頼らんでも、お前は自分の力で強なれるはずや。焦らんでええ、しっかり自分を信じて進めばいいんや」
本当に同い年かこいつ。
その言葉を聞いて、俺は心が少し軽くなるのを感じた。如月の言葉が、無意識のうちに俺の支えとなり、危険な誘惑から距離を保てる気がした。
屋上に吹き抜ける風は冷たく、俺たちの髪を揺らす。二人の間には一時、言葉が途切れたが、その沈黙は決して重苦しいものではなく、どこか心地よいものだった。空を見上げると、青空が果てしなく広がっていて、俺の心も次第に解放されていくような気がした。
いかがでしたでしょうか、気に入っていただければいいねとポイントをお願いします。
次回出せるかな、ヒロイン。
あとTwitterもやっています。エピソード更新を報告しています。
ぜひフォローをお願いします→@owen_monokaki




