142話 居候
建設中だった別宅が完成した。
引っ越しも終わり、いままで使っていた秘密基地から荷物を移動していたのだが――。
そんなある日の朝、秘密基地の前に行き倒れがいた。
女だったので声をかけたのだが、俺の名前を呼ばれて抱きつかれた。
そこにいたのは、以前隣に住んでいた奥さん――俺が買った白い家の前の持ち主だったのだ。
夜逃げしてからかなり苦労したらしく、ヨレヨレのボロボロ。
あの上品そうな奥さんが、すっかりやつれてしまっていた。
一応知り合いであるし、放り出すわけにもいかねぇ。
俺は彼女を家に招きいれ、服を洗濯して風呂に入れてやることにした。
まぁ、ヒカルコは面白くないようなのだが――と、思っていたら、大家さんに告げ口をしたらしい。
話を聞いた彼女が俺の所にやって来た。
「まぁ! 篠原さん! またなのぉ?!」
大家さんの開口一番がコレだ。
またってことはない――いや、あるか。
「あ、大家さん、おはようございます」
「挨拶はいいからぁ!」
彼女が奥さんを指した。
「家の前に行き倒れていたんですよ。放り出すわけにはいかないでしょう?」
「そ、それはそうだけどぉ……なんでもう女性ばっかり……」
「そうおっしゃいますけどね、この人はウチとまったく無関係ってわけじゃないんですよ」
「ええ? どういうことなのぉ?」
「彼女は、この家の前の持ち主なんですよ」
「え?! 本当なのぉ?」
大家さんも驚くが本当だし、奥さんも頷いた。
「は、はい……」
「それじゃ――旦那さんが貿易会社をやっていたけど、海外で詐欺に遭って、会社が潰れてしまったという?」
「大家さんもご存知なんですよね」
「ええ、そういう話はあっという間に広がるからぁ」
娯楽がないから、そんな話にすぐに食いつく。
奥様連中の井戸端会議が、町内に大規模ネットワークを作っているらしい。
面白そうな話だと思ったのか、大家さんも座ってしまった。
その横に嫌々、ヒカルコも座る。
別に話を聞かなくてもいいと思うが。
「それじゃ、旦那さんと夜逃げして、それからどうしたんだい?」
とりあえず、奥さんの話を聞いてみよう。
「……知り合いがいない北の街で、2人で暮らしていました」
なぜか逃げるというと北だよなぁ。
敗北っていうぐらいだし。
「俺はまた――会社は潰れてしまったけど、旦那さんと2人だから幸せに暮らしていたもんだと思っていたんだが……」
「そうはいっても篠原さん、やっぱりお金がないと大変なのよぉ?」
「まぁ――そうでしょうね。ハタチ前で惚れた腫れたって状態なら、そんな状態でも楽しいかもしれませんが……」
「そうよねぇ……」
おにぎりを食べ終わった奥さんが、暗~い顔をしている。
もうそこの空間だけが、黒くてどんよりしたものが漂っているよう。
「旦那さん、働いてなかったのかい?」
「見知らぬ土地で、中々仕事が見つからなかったようでして……」
「元社長さんだからねぇ。仕事がないからといって、日雇いなんてできないだろうし……」
「奥さんを養うためなら、そんなことを言ってちゃ駄目よねぇ」
「でもほら、男のプライドみたいなものもあるだろうし」
「そんなの会社が潰れた時点でなくなっているのよぉ」
大家さんの言うとおりかもしれない。
「仕事をしてなきゃ、金もドンドンなくなるだろうしなぁ」
「はい、それで――主人が私に、『夜の仕事をやれ』と……」
「酷いわねぇ!」「コクコク!」
いつの間にか、ヒカルコも奥さんの話を真剣に聞いている。
「もちろん、そんな仕事などやったことがないので――私がぐずっていると、主人がどこかに行ったまま帰ってこなくなってしまって……」
「なんなのそれはぁ!?」「コクコク!」
話を聞いていた大家さんが憤慨している。
まぁ、俺も酷い話だと思う。
旦那さんをチラリと見た感じでは、ガ◯チャマンの南部博士みたいで有能そうに見えたんだが。
「でも、金がなくなると、本当に目の前しか見えなくなるからなぁ」
「それにしたって酷いじゃない!」
「奥さん、実家には頼れなかったのかい?」
「それが……実家からも大金を借りていたために、帰るに帰れずに……」
「でも、実の娘なんだから――怒られるとは思うが、最終的にはなんとかしてくれそうではあるがなぁ」
よほど仲が悪い家じゃなけりゃ、娘がこんな姿で放浪していると解れば、実の親なら助けてくれるはず。
「そうよねぇ」
「途方に暮れて泣いていると――思い出すのは篠原さんのことばかりで……」
「あ~、なんとな~く解るわぁ……」
大家さんが呆れた表情でこちらを見ているのだが、俺ってそんなに優しくしたっけかなぁ……。
「……」
ヒカルコも白い目を向けてくるのだが……そんな目で見るなよ。
俺にはご褒美にしかならんし。
「それで、俺が持っていたあの家まで戻ってきたってわけなんだ」
「はい……途中でお金がなくなってだいぶ歩きました……」
親切そうな人の車に乗せてもらったら、襲われそうになったらしい。
苦労しすぎだろ。
「つ~か、奥さんやつれたとはいえ、美人なんだから襲われるとか当たり前だろ」
まぁ、俺も人のことは言えねぇのだが……万引きで脅しちゃったりしたし……。
「うう……私はあまりに世の中を知らなすぎました……」
「見るからに、いいところのお嬢さんみたいだし、仕方ないっちゃ~仕方ない」
「ううう……」
奥さんの気持ちも解らんでもない。
なにも知らない箱入り娘が、底意地が悪いマジな世間に放り込まれたんだ。
そりゃショックだし、無力感にさいなまれるだろうよ。
箱庭から出たら、世界はこんなものだったんだと。
「はは……俺としてはそんなに慕われるとか、男冥利に尽きるんだがなぁ」
「ご迷惑だとは重々承知しておりますが、小屋の片隅でよろしいので置いてください。お願いします!」
彼女が畳の上で土下座をしてきた。
「いやいや、いきなり放り出すようなことはしないから心配しないで」
「ありがとうございます……うう……」
彼女がまた泣き始めてしまった。
「ヒカルコ、いいだろ? 可哀想だと思わないか?」
「ぶ~!」
「お前だって、似たようなものだったろ?」
「そ、それはそうだけど……」
俺にそう言われて、彼女が口を尖らせている。
「事情はわかったけど、なんで女の人ばっかりなのぉ?」
大家さんは薄々感づいているのだろう。
まぁ、解るよな、ははは。
ヒカルコだって知っているはず。
だからむくれているのだ。
「たまたまですよ、たまたま。大家さんは、女の人ばかりっていいますけど、八重樫先生もそうですからね」
一応、建前ではそういうことにしておく。
「話を聞くとそうなのよねぇ……」
彼は、大家さんにそういうことを話しているっぽいな。
「さて、別宅の仏間があるから、とりあえずの住処はあそこかな」
「確かに使ってはいないわよねぇ」
「それはいいとして――ずっとなにもせずに置いておくわけにもいかないしなぁ。奥さん、働いたことは?」
「申し訳ありません……」
「さっきも言ったけど――いいところのお嬢様が、女学校を出てそのままお見合いして――みたいな感じでしょ?」
「え? どうしてそれを……」
「まぁ、なんとなく解るよ」
いかにもって感じだし。
「女学校ってどこなのぉ?」
「あ、あの――聖フェリアス女学院ですけど……」
「あらぁ! そうなのぉ?!」
大家さんの顔が明るくなった。
「は、はい」
「なんだ、私の後輩じゃないのぉ! それじゃ、ここは私が一肌脱がないとねぇ」
「先輩なのでしょうか?」
「そうなのよぉ! 随分と昔になるけどねぇ」
「よろしくお願いいたします」
大家さんはなにかを考えている。
彼女に任せられる仕事があるのだろうか?
「……」
大家さんまで奥さんの味方になってしまったので、ヒカルコも諦めムードである。
「あなた、お掃除とかは?」
「普通にできますが……」
「それじゃ、ウチのアパートの掃除をしてくれないかしらぁ?」
「は、はい」
聞けば、大家さんが持っているアパートの一つ――管理人が年寄りで働きが悪く、掃除がおろそかになっているらしい。
「それは、管理人を首にしたほうがいいのでは?」
「ずっとやってくれていた人だしねぇ。膝を悪くしたから出ていけとも言えないでしょ?」
「まぁ、そうですかねぇ」
とりあえず、そう言ってはみたが――仕事で金をもらっているのだから、追い出されても仕方ない案件ではある。
膝が悪いなら、2階の掃除などは大変なはずだ。
そこで奥さんの出番というわけだな。
「頑張りますので、よろしくお願いいたします」
「ドンと、私に任せてよぉ!」
後輩ということで、大家さんも張り切っているようだ。
奥さんのことは大家さんにまかせてもいいだろう。
「話がまとまったところで、そろそろ風呂が沸いたと思う――ちょっと見てくるか」
「申し訳ございません」
風呂場に行くと、お湯加減を確かめる――いい感じなので奥さんに入ってもらう。
勝手知ったる、元自分の家だ。
感情的には複雑だろうが、受け入れないと前に進めない。
ここに戻ってきたはいいが、俺が家を買っているなんて思ってもみなかった、とは思う。
「風呂に入ってくれ」
「ありがとうございます」
彼女が廊下に出たところで、コノミと鉢合わせした。
「誰?」
「お客さんだよ」
「こんにちは」
「こんにちは~」
コノミがペコリとお辞儀をしたが、すぐに2階に上がってしまった。
「……かわいい女の子ですね」
「ははは、俺と血が繋がってないからなぁ」
「え? そうなんですか?」
彼女は俺の子どもだと思ったようだ。
「ああ、遠い親戚の子なんだ。まぁ、まったく繋がってないわけでもないが……」
一応、俺の回りにいる人たちとの関係を説明した。
本当は、まったく血が繋がってないからなぁ。
「はは、大家さんも、なんで大家さんなのか解らなかっただろ?」
「ええ――は、はい」
「俺たちは大家さんって呼んでいるけど、奥さんは片桐さんでいいと思うよ」
「――あの、私はエイコと呼んでください」
「そうか~藤原さんだが、離婚はしてないんだよね?」
「はい」
旦那は行方不明だし、離婚するとなると裁判所だろうなぁ。
別れるなら、離婚届にサインしてから蒸発すればいいのに。
相手がいなくても、5~6年たってから裁判所に行けば籍は抜けるんじゃないだろうか。
どう考えたって、結婚生活存続不可能だし。
俺は彼女をA子と呼ぶことにした。
呼びやすいし。
俺は、洗濯機に浮かんでるごみ取りネットを彼女に見せた。
「こいつも俺が発明したものなんだよ」
「なんですかこれは?」
「洗濯機で洗濯すると、服に糸くずやらゴミがついたりしないかい?」
「はい」
「こいつを、洗濯槽に浮かべて回すだけで、ゴミを拾ってくれる優れものだ」
「本当ですか?」
「ああ、実際にもう売り出しているから」
「すごいです! ああ! こういうものを作って、この家を買ったのですね?」
「そのとおり、察しがいいねぇ、はは」
話はこれぐらいにして、風呂に入ってもらう。
――そのあと風呂から上がった彼女は、大家さんから古着をもらって着替えた。
スタイルはちょっと地味なワンピース。
大家さんもやってきて、奥さんの姿を見ている。
「おお、似合ってるじゃないか」
「ごめんなさいねぇ。古いもので」
大家さんが若い頃に着たものというから、昭和の初期か大正あたりか。
確かにそんな感じではある。
モガとかいうやつだな。
「いいえ、とてもいいもののような……」
「そう、ものはいいと思うわよぉ、おほほ」
「……」
ドアの陰からこちらを覗いている視線に気づいた。
3人で楽しそうに話しているのが、ヒカルコは面白くなさそうだ。
そんなに警戒することはないと思うのだが。
いまさら、女を乗り換えるつもりもねぇし。
だいたい、そんなに他の女が気になるなら、婚姻届をさっさと出せばいいじゃん。
そうすれば、「妻」として、ドヤァァァ! できるんだからさ。
相手がなにを言っても「私が妻ですが、なにか?! ドヤァァ!」で、マウントが取れるだろう。
相手が相原さんでもだ。
まぁ、ヒカルコなりの考えがあるのだから尊重したい。
俺が自重すればという話もあるのだが、それはもっともだ。
「だが、断る!」
眼の前に美味しそうな穴があるのに食べずにいられようか、いや、いられるはずがない(反語)。
それはさておき――そのまま奥さんを別宅に案内すると、大家さんとの話し合い。
そこにある仏間に居候することになった。
あそこしか空いてないし、それに所持金もゼロ。
仏壇が複数あって、少々辛気臭いかもしれないが、それどころではないはずだ。
そういえば――俺が買った家に仏壇やら仏間らしきものはなかったな。
神棚もなかった。
あの旦那の趣味だろうか。
もしかして、俺みたいな無神論者かもしれん。
布団もしばらく大家さんから借りるようだ。
本当に着の身着のままだからなぁ。
この時代にやってきた頃の俺を思い出すぜ。
彼女には知り合いがいたが、この時代の俺はマジで天涯孤独だし。
いや、正確には――東京葛飾に爺とオカンがいるのだが、俺がいきなり訪れて「息子だ」「孫だ」と言っても信じてもらえるはずがない。
俺が最初に入った、あのアパートに放り込む手もあるんだが、正直もう関わり合いになりたくねぇし。
まぁ、助けてもらったのは感謝しているがな。
とりあえず彼女は居候から始めて、自分でお金を稼ぎつつ、なんとか生活基盤を構築してもらうしかない。
こうなると、見合いで結婚したあと働いたことがないというのは、中々に大変だなぁ――と、思う。
それに、この時代は女性の働き口は中々ないしな。
稼ぎがいいのは、流れ作業などで働く女工になるのだが、仕事は大変らしいし。
家事はできるのだから、家政婦や女中などもいいかもしれん。
大家さんから頼まれたアパートのメンテの仕事をしつつ、そのまま管理人に収まってしまうのもいい。
そうすれば定住地と仕事が手に入る。
洗濯は大家さんの洗濯機を使い、風呂はウチの風呂を使う。
大家さんと一緒に入ればちょうどいいだろう。
一応燃料費や水道代は、大家さんからもらっているしな。
それにしても、こんなことになるなら、別宅にも風呂をつければよかったか。
そうなると家もデカくなるし、建築費も上がってしまうしなぁ……。
最初は、俺の作業部屋を作るだけのはずだったのに。
どうしてこうなった。
――A子がやってきた夜。
別宅が完成したということで相原さんと丸太さんがやってきた。
女史にはA子のことは話さなくてもいいだろう。
別宅に住んでいるし、大家さん預かりの身だしな。
相原さんは、コノミにお土産の献本を渡すと、居間のソファーに座って話し始めた。
彼女がもらったのは、矢沢さんの漫画が載っている今月号の月刊誌だ。
「別宅の完成おめでとうございます~。あれ?! もしかして、あれってクーラーですか?!」
相原さんが、壁にへばりついてる機械を指した。
夜になると涼しくなるので、クーラーは止めている。
「あれから冷たい風が出るんだよ! ショウイチが買ってきてくれた!」
コノミが相原さんにクーラーを説明してくれた。
「あ~、そうなんですよ。あまりに暑くて、ウチで仕事をしている文豪様の仕事に影響がでるとマズイので……」
「は~、ウチの職場にもほしいです……」
今の小中学館にはクーラーがないらしい。
「でも、新しく建てているオバ9ビルには空調完備なんでしょう?」
「そう聞いてますけど……完成するのは、かなり先でしょうし……」
「大変ですねぇ――それより、別宅の完成祝をありがとうございます~、まぁ別にお祝いしていただくようなことじゃないんですけどね~」
「いえ、私にとっても大切なことですから!」
彼女がフンスと気合を入れている。
「あ~、もしかして、矢沢さんと共同でスタジオ兼住宅を建てるという――?」
「そうです!」
「本当の本当に、本気なんですか?」
「本気です! 自宅もすでに売る準備に入ってますから!」
彼女の目がマジだ。
「……」
女史の言葉に、ヒカルコは嫌そうな顔をしている。
近くに引っ越して来るのは止められるわけもないし、その家は自分たちで建てようというのだ。
まぁ、ウチの敷地に建てるのだが、大家さんがすでに別宅を建ててしまったし、相原さんと矢沢さんにはNO!
――というわけにもいかないだろ。
俺が買った白い家は、かなり広い敷地なのだが、みっちりと家で埋まりそうだなぁ……。
個人的には庭をやったりするつもりはないので、どうでもいいが。
地代はもらうつもりだし。
「ええ? 相原さん、この近くに引っ越すんですか?!」
相原さんの言葉に、丸太さんが驚いている。
誰にも話していなかったに違いない。
引っ越しも休日などに終わらせれば、仕事に影響はないだろうし。
多分――この時代の編集の仕事は年中無休みたいに見えるがなぁ。
それとも、相原さんだけなのだろうか。
「そうなんですよ。この近くに家を建てようかと思いまして」
「ええ?!」
そりゃ、女性が家を建てるなんて、昭和じゃ普通は難しい。
大家さんのような資産家ならともかく。
女が家を建てると嫌味を言われるような時代だし。
「丸太さん、機甲天使の人気のほうはどうですか?」
「ええ、上々ですよ。読者からの反応もいいです」
「ちょっと難しい話かなと思ったのですが」
「そうですねぇ、熱狂的な支持層はちょっと高め――といった感じでしょうか」
だが、アクションやら戦闘シーンも多いので、小さい子でも楽しめるだろうと思う。
天使のHなシーンも多いしな。
連載は問題なしか……。
「う~ん」
「篠原さん、どうしたんですか? なにか心配ごとでも?」
相原さんが心配そうな顔をしているのだが、そうじゃないんだ。
「いや、丸太さんに少々聞きたいことがあって……」
「私ですか?」
「うん――ここで聞いちゃっていいのかなぁ……」
「なんでしょう?」
「丸太さん――八重樫先生のこと、どういう人だと思う?」
「え?! 先生ですか? とても、真面目で誠実な方だと……」
「それは、嫌いじゃないし、好意的ととってもいいんだろうか」
「はい、もちろんです」
やっぱり、ここで聞いてしまうか。
「実は――八重樫先生が、丸太さんのことが好きみたいなんですよねぇ」
「ええ?! わ、私ですか?!」
座っていた彼女が驚いて立ち上がった。
「えっ? それって本当なんですか?」
相原さんも興味津々だが、いつの間にかヒカルコも俺の所にやってきていた。
「そうなんですよ」
「でも、私なんて――ブスですし……」
「そんなことないと思いますよ」
「そうですよ!」「コクコク!」
相原さんとヒカルコも、同調している。
丸顔でぽっちゃり系ではあるが、ブスではない。
むしろムチムチ系のバディは、男どものマストと言っても過言ではない。
「……」
「それじゃ、交際を申し込まれても、嫌いだから断るみたいなことはないと?」
「は、はい……で、でも、私でいいのでしょうか?」
「まずはお友だちからでいいのでは? 別にお見合いで結婚前提にするわけでもないし」
「わかりました」
彼女の反応を見ても、まんざらでもないようだし。
恋愛の感情はなくても、マイナスではないのだから、つき合っているうちにそういうのは芽生えるだろう。
それに、男女のおつき合いで大事なのは、お互いを尊敬できるか? ――ってところだと思うんだよ。
漫画家と編集なら、お互いどんな仕事をしているのか、理解しているはずだし。
「まぁ、大丈夫ですよ。先生本人からの申し込みなんですから――あ、そうだ! 彼に電話をかけてみるか」
「えええ!?」
善は急げっていうじゃない?
俺は階段下に行って、受話器を取った。
モモがアシの仕事で残っているかもしれん。
『はい、ムサシプロダクションです』
電話を取ったのは、アシの子だった。
若い男の子だ。
「いつもお世話になっております。篠原と申しますが、八重樫先生いらっしゃいますか?」
『あ、はい。います! 待ってください』
電話の出方も教えてあげなよ、先生~。
すぐに八重樫君が出た。
『お電話代りました。篠原さんですか?』
「おお、先生――こんばんは。この前、丸太さんの話をしてたじゃん」
『ええ、あ、はい』
「彼女に聞いたけど、OKだって言うから、お友だちからつき合ってみたら?」
いつの間にか、電話の所に相原さんとヒカルコがやってきて、聞き耳を立てている。
聞こえるのか?
『ええ?! ほ、本人に聞いたんですか?』
「そりゃ聞くよ。だめなら早いほうがいいだろ? でも、OKみたいだよ」
『え、あ、はい……わ、わかりました……』
「彼女にも話したが、いきなり結婚とかそういう話じゃないんだ。2人で話し合ってみたら?」
『わ、わかりました! ありがとうございます』
彼も、覚悟を決めたようだ。
「「やったぁ!」」
相原さんとヒカルコもニコニコしている。
『え? ちょっとまってください、近くに誰かいるんですか?!』
「相原さんとヒカルコが聞き耳を立ててた」
『え~、もう勘弁してくださいよ~』
彼が泣きそうな声を出している。
「そんなこと言っても、皆一緒に聞いていたから、全部筒抜けだよ」
『とほほ~』
リアルなとほほは、初めて聞いたな。
「まぁ、相原さんなら、言いふらしたりはしないから大丈夫でしょ」
彼女のほうをチラ見すると、Vサインを出した。
まずはお友だちからだが、双方真面目な人柄だし、上手くいくのでは?
やっぱり価値観が合わないというのは最悪だからな。
とりあえず、仲は取り持った。
ちょっと強引だったか?
そうも思うが、見合いなんてもっと強引な気がするし。
本当に会ったこともない人を引き合わせて、相手に決めさせるんだから。
それに比べたら、仕事を通して相手を知っているだけでも、かなり恋愛に近いだろう。
それよりも、なんで俺が人生相談とか仲人みたいなことをやっているんだ。
これで決まっちゃうから、余計に来るんだよな……。





